誕生日だからどうとかじゃないけど

自分の人生を「この二年」で区切るとすれば「日本に帰ってきてからの二年」だし「治療を進めてきた二年」だし「あいつがいなくなってからの二年」だ。そうして考えてみると、二年前の春夏は、多くの変化が心身を痛めつけた時期だったのだなあと思う。
それでも二年も経てば大抵の傷は癒える(あるいは中にまだ何か入っていても表面は修復され、代謝する)もので、もしかしたらまだ一目でわかる傷跡が肌に残っているかもしれないが、もうちょっとぶつけたくらいで血が出るほどではない。あいつの出ているPVを見るとか、そういうとくべつな自傷行為をしなければ。

彼の夢を見る頻度は少し落ち着いてきたし、夜中に泣きわめくこともだいぶ減った。わたしの交友圏は依然として広がらずアップデートもされないので、自分の友人について話すときは相も変わらず彼があーたさんと共に筆頭として出てくるけど、それも別にただそうというだけだ。

(アクセサリーの置き方ぐっちゃぐちゃだな)
新しく住みはじめた部屋のアクセサリー置き場に彼の写真を飾っているけど、それはただ写真を貰ったからというだけだし、特に話しかけたりもしない。
しないけど、そういえば、話したいことや、話したいことが話せないというちいさな苛立ちが、ときどき喉をちくちくと刺すような気がする。

きみととっても仲の良かった彼がついに結婚するんだってさ。
きみが生前から注目していたらしい新人声優がコラボ企画で東武動物公園のアナウンスをしていたよ。
ショウイチという名前のロボット掃除機がきみの家にいるみたいだよ。
きみの部屋の片付けはなかなか大変だったと聞いているよ。
きみのお姉さんの、(略)
今年もきみの家にチョコレートを送ったよ。
きみの持っていたポラロイドはわたしが貰ったけどなんかフィルム劣化してたし使ってないよ。
おすすめの百合漫画があるよ。
紅茶屋さんの新作パフェを食べに行きたくない?
今年のポケモン映画がとっても面白そうだよ。
みんな、きみのことを忘れていないよ。

ひとと関わるために普通より多くの体力を要する性質なので、ネット上でわーわー騒いだり、彼がいない理不尽さに一人でキレたり、彼の家に何か送ったりはできても、友人とともに彼の家を訪ねたり、彼が一度だけ連れて行ってくれたバーに行ってみたり、そういうことはわたしにはちょっとむずかしい。
彼の存在にばりばり執着しているくせに、インターネットに籠もりっきりで、現実世界を巻き込んできちんと向き合うことからは逃げ回っている。
でも、もういいかげん三回忌も過ぎたし、アクセサリー置き場の写真じゃなくて、iPhoneのロック画面じゃなくて、ちゃんと会いに行くのもいいのかもしれない。
……うーん、でも暑いから、やっぱりお外にでるのはめんどうだな。
「そのうち会おう」の口約束でなあなあになって、実際に会うのが延びまくるのも、わたしたちらしいってことにしておいてくれないかなあ。二年半も会っていないけど、わたしはきみの知るままのめんどくさがりなのでね。

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