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桜が風に舞い散るよりも、枯葉が力なく揺れ落ちる方が綺麗だと思う


降り頻る雨の中、傘も差さずに歩道橋を歩くあの子は、靴を脱いで秋の風を追いかけている。それは、既に読み終えた文庫本のように、子供の頃に見たアニメの再放送のように、あの子がどこへ行ってしまうのかを、私は知っている。

傷口にそっと手を置いて、鼓動を確かめる。雨が私の気配を隠してくれるように、夜が私を包み込むように。それから私は目を閉じる。
それでも、意識は長く眠らない。

濃度が薄くなった炭酸飲料のような貴方の、舌動脈を苦く冷たく流れていくそれは、深く溺れてしまうのにも、慣れてしまうのにも十分だった。汗だくになっていた二人の盛りを遮るように流れる煙を見て、もうすぐ冬がやってくるのだと思い出した。秋の風が窓の外で流れている。
いつかのあの子はきちんとたどり着けたのだろうか。


「桜が風に舞い散るよりも、
         枯葉が力なく揺れ落ちる方が綺麗だと思う。」

死生観が強い貴方は、秋の日の夜に教えてくれた。
死を想い、生を考える。限られたこの時間の中で、貴方と離れてしまうのは寂しいけれど、寂しいという感情自体感じる事が出来るのは終わりがあるから。
だからこそ貴方が狂おしく愛おしくなる。だけど、この時間だけは終わって欲しくない。それでも私はその為に、この瞬間の為に、何かの死の終わりを、何度も何度も繰り返してきた。

スマートフォンから流れる「終わりへ向かう始まりの歌」を、あなたの温もりを感じながら聞く。終わりは必ず来る。
巨大な積乱雲が頭上を通り過ぎ、細胞が過度に震えた気がする。

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