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2024年6月

梅雨に入り、雨の降る日が増えた。陽も長くなってきて、Tシャツの隙間を通っていく風の気持ちよさと、2024年がもう折り返しに入った時間の早さを肌で感じている。
夏の気配がしている。もう今は冬の寒さを思い出せなくなった。




1.「ひかる」という原石の存在

彼と出会ったのは京都で勤めている職場で、昨年の秋頃に大学生の彼が入社してきた。当時はほとんどシフトが被らなかったので、彼のことは周りから聞いていただけだった。
彼が研修期間を終えた頃、僕と同じシフトで働くようになった。毎週木曜日になったら、彼とたわいもない話をしながら仕事をする。責任を持って厳しく仕事をすることも大事だけれど、楽しく、和やかな雰囲気で仕事をすることも大事なのだと、彼と仕事をするようになって気付くようになった。
キビキビ動けて、周りがよく見えて気も遣える。後輩力の高い彼を僕はとても可愛がって大切にしているし、これからも一緒に仕事をしていきたいと思っている。

彼は顔立ちの良さと、表情の豊かさ、モデル体型のスラっとした背丈を持ち合わせていた。長い間彼と一緒に仕事をしていきながら、もしかしたら彼は本来ここにいるような人間ではないのかもしれないと思い始めていた。カメラを生業にしようとしている僕にとって、彼は被写体としての原石なのではないかと思った。そしてその原石を、磨かなければいけないのは僕だ。
ひかる」という存在のポテンシャルに救われる人が必ずこの世界にいると確信しているし、僕のことを軽々と超えていく存在だと思っている。

今年の3月末、美波さんに携わらせて頂いた武道館での仕事を終えてから、モチベーションが上がり続けていた。僕は、はやく有名になって今まで助けてくれた人たちに恩返しがしたいし、もっとレベルの高い世界で生きたいし、目標としている人たちになりたい。お金も少しづつ得られるようになりたいし、同じような道を歩いているライバルにも負けたくない。その為には佐野夜という存在を証明をしないといけない。もっともっと写真を撮って、言葉を生み出して、すべての作品を世に出していきたい。

しかし、彼にとってそれはただの押し付けにしかならない。僕のエゴで、独りよがりな思想。第一に、僕がやりたいことは彼のやりたいことではない。良くも悪くも、彼の人生を大きく変えてしまう可能性を孕んでいる以上、責任を持たなきゃいけない。彼の身に起こるすべてに対して、そこに危害があれば自分を犠牲にして守らなければいけない。誰かの人生を変える責任と覚悟が僕にあるのか、何度も反芻させて悩んでいた末に、責任を持って最後まで彼を見届けたいという結論にたどり着いた。

全てを彼は了承してくれた。いわゆるスカウトという形で、写真家として僕の被写体になってくれるようになった。彼のことはこれからもずっとサポートしていきたいし、最後まで責任を持って育てていきたい。堅苦しい言葉ばかり並べてしまったけれども、本気で彼を大きな舞台に立たせたいと思っている。彼の人生の一部をもらっている以上、僕も今まで以上に努力しないといけない。

そして、ひかるが生まれました。

このnoteの最後に彼のSNSと、僕が撮影した作品が見られるリンクを貼っておきます。


2.違国日記が与えた影響

大切で大好きな漫画に「違国日記」という作品がある。
HER』や『ドントクライガール』など、数々の賞を受賞している漫画家、ヤマシタトモコさんの全11巻大人気女性コミック。
6月頭に実写映画として上映され、朝役を早瀬憩さん、槙生役に新垣結衣さんなど、実力のある俳優陣を揃えた映像作品になった。近々アニメ化されることも決定している。

ざっくりとしたあらすじは、少女小説家の槙生と女子高生ののふたりが主人公で、不器用ながらお互いの気持ちを伝え合いながら、時にはぶつかり、生きていく姿を描いている。両親を交通事故で失い、葬儀の場で親戚中をたらい回しにされそうになっていた朝を、叔母である槙生が引き取ることになる。槙生は姉の実里を嫌っていた。実里の娘である朝との共同生活の中で、わかりあえないということを理解しながらふたりは寄り添い、支え合っていく。

一巻で、葬儀中に泣いている朝に槙生が話すシーンがある。

「朝。わたしはあなたの母親が心底嫌いだった。死んでもなお憎む気持ちが消えないことにもうんざりしている。だからあなたと彼女が、血が繋がっていようといまいと、通りすがりの子供に思う程度にもあなたに思いれることもできない。
でも、あなたは、15歳の子供は、こんな醜悪な場にふさわしくない。少なくともわたしはそれを知っている。もっと美しいものを受けるに値する。

違国日記/ヤマシタトモコ


3.もっと美しいものを受けるに値する。

初めてその言葉を目にした時、槙生の言葉と姿勢にとても感銘を受けた。姉の死後もなお、彼女を嫌っている槙生。その姉に厳しく育てられたひとり娘である朝を突き放す訳でなく、冷徹で不器用ながら朝に寄り添い、力強く言葉を放つシーンに心を動かされた。
槙生は、小説家としてしっかりした大人の面を備えていながら、極度の人見知りで、ちょっとした言葉で傷ついてしまうほど繊細な心の持ち主である。作中でも言葉への敏感さを随所に感じさせる。だからこそ、言葉というものの鋭利さを誰よりも知っていて、言葉というものがどれだけ人の心に影響されるのかを理解している。

僕は、槙生のような大人にはまだまだなれないし、言葉というものの真意や鋭さもまだ分かりきれていない。ただ淡々と、正直に言葉を伝えることしかできない。これまで僕は、分かり合えない存在に囲まれながら生きてきて、「でも」、「それでも」を繰り返しながら寄り添おうとして、最後には自分が傷ついて終わってしまうようなことを何度も繰り返してきた。それでも、僕は理解しようとすることの尊さを大切にしている。たとえそれが、自分が傷つくことだとわかっていても、そうすることでしか誰かや何かを大切に思うことが出来ないからだし、そうすることが本当に誰かや何かを大切に出来る行為だと思っているからだ。

違国日記を読んで、槙生が教えてくれたものは、分かり合えないということを分かろうとしようとすることの尊さ、それでもを繰り返しながら行動を続けた先に得るものが、他の何よりも得難い大切なものだということ。良いものだけでなく、自分に傷が残るかもしれない、それでも、突き放すのはでなく、寄り添い、理解しようとした先で得られるものが共存する上での最適解なのではないかと思う。

映画の前売り券と特典のしおり。かわいすぎるぜ、おい。

4.彼は、もっと美しいものを受けるに値する。

槙生の言葉を借りるなら、彼は、ひかるは、今以上にもっと美しいものを受けるに値する。
彼は、僕が今まで生きてきた中で探し求めていた祈りで、光のようなもの。僕が今でも必死にもがき続けているのは、その先の世界で、誰かを今以上の存在にする道もあるのかもしれないと思った。僕自身が大きくなるのも大切だけれど、誰かを大きな舞台に送り出せる存在になるのも、表現家としてやるべきことだと考えた。そして、この行為自体が心の底から尊いものだと思った。
槙生にとっての朝のように、僕にとってそれはひかるなのかもしれない。
彼の人生だけでなく、自分の道を大きく変えてしまう道の真ん中に、今、立っているのかもしれない。彼がこれからどのような存在になるかどうかは、僕にかかっている。今までこんなことを感じたことも、思ったこともなかったから、こんな尊い経験をさせてくれる彼には本当に感謝している。
彼の為にも、何より自分の為にも、やれることは全部やる。僕は今よりももっと高い世界にいきたい。こんなところで足踏みしているわけにはいかないから。

彼にもっと美しいものを見せられるよう、精一杯に生きます。


来月の15日は笹井宏之短歌賞の締切があるし、年末の東京文フリや来年開く予定の個展準備など、やりたいこともやらなきゃいけないことも沢山ある。
チャレンジすることはこれからもやめるつもりはないし、誰に何を言われようとやりたいことをやっていくし、自分のことは自分で責任を持って最後までやり遂げたい。

6月も満身創痍で生きた。7月も全力で生きられますように。



ひかる
Instagram:@hikaru07.8
Twitter:@hikaru07_8

佐野夜
Instagram:@sano__yoru


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