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ルーク・ハントは”裏切り者”なのか

 突然だが、みなさまツイステッド・ワンダーランドというゲームを御存じだろうか。という質問は必要ないかもしれない。この文章を読んでいる時点で、多分あなたはツイステをプレイしているし、恐らくは1月25日に更新された5章後編2をお読みになっているだろうから。

 前置きはさておき、本題に入ろう。私がこの文章を書こうと思ったのは単なる思考の整理と記録、そして僅かながら5章の結末にもやもやされているという方の助けになればという思いからだ。(そこにはもちろん私自身も含まれる)つまりは9割9分9厘私自身のためだ。

 さて、ここでこのnoteの題に掲げた問い、「ルーク・ハントは”裏切り者”なのか」に対する私なりの答えを書いてしまおうと思う。

 私の答えはルーク・ハントは私たちプレイヤーの多くにとって、NRCトライブのみんなにとって、そしてヴィル・シェーンハイトにとっての”裏切り者”であるというものだ。

 ”裏切り者”とは、契約や約束あるいは期待に背いた者を指す言葉だ。この意味から言えば彼は文字通りの裏切り者だと私は思う。

 では、そこにあった”期待”あるいは”約束”とはなにか。それはプレイヤーにとっては「ルークはヴィルを一番美しいと思っているはず」という思い込みであり、NRCトライブにとっては「世界一を目指す」という共通(であったはず)の目標である。ただ、正直ヴィルとルークの間にあった”期待”や”約束”については私は具体的に提示することができない。それでも、彼はヴィルにとってもまた”裏切り者”だと私には感じられた。

 さて、ルークの行動の中で物議を醸している点は大きく4つほどある。

 ➀RSAのパフォーマンスに票を投じたこと

 ➁それを僅か1票差で勝敗が決した後に暴露したこと

 ➂ヴィルに向けた自己肯定についての話

 ➃ネージュ・リュバンシェの(恐らくは)長年のファンであったことを隠していた

 この中で➀については私は何ら問題があるとは思えなかった。彼は自分の中にある美の基準に従っただけなので。はっきり言えば、私にはネージュ自身はともかくRSAのパフォーマンスが”美しい”とは思えなかったけれど、美の基準なんて人それぞれだ。ルークがあれを美しいと思った以上、そこに票を投じたことを誰が咎められようか。

 でも➁~➃についてはそれぞれかなり思うところがある。ので、このnoteではこれらのポイントと、それからシナリオ上の粗について自分なりに思うところを書いていきたい。

 始める前に一言だけ申しておくと、私は今回のシナリオには評価されるべき優れた点が多かったと思う。少なくとも物語の運び方やあっと言わせる意外性には満ちていたし、本家である『白雪姫』へのオマージュも存分にちりばめられていた。それでもやはり今回のシナリオには多少の粗があったし、本当にその展開が必要かの精査にも欠けていたのではないかと感じられる。

 さて、本題に入ろう。

➁自身の投票先を暴露したこと(しかもステージの上で)

 これについては正直に言えばNRCの代表選手としての自覚がなかったの一言に尽きると思う。NRCトライブはそれぞれの動機はさておき「世界一」を目指してみんなで頑張ってきたはずで、すべてが終わった最後の最後にこれを言い出すのはチームメンバーに対する”裏切り”でもある。

 これを言わずにいられない(たとえ嘘でも自分たちこそが世界一だと胸を張れない)ならば、はなからステージに上るべきではないと思う。もっときつい言い方をすると、「あなたこそ自分たちのパフォーマンスが”世界一美しい”と思えない人間だったのでは?」と感じた。

 ただ、この点についてはゲームのシナリオと設定が関係していると思う。さんざんSNSで指摘されている通り、ルークは『白雪姫』の狩人、魔法の鏡、王子の3つのキャラクターの要素をそれぞれ持っている。(詳しい該当シーンや台詞については多分調べればすぐにわかる)

 一人のキャラクターに複数の要素を背負わせること自体は物語の厚みが増すという意味でも、展開を読みにくくするという意味でも面白いやり方だ。ただ、ルーク・ハントというキャラクターに限って言えばこの点が見事に裏目に出た。

 狩人、魔法の鏡、王子という三者の『白雪姫』における役回りについて確認してみよう。狩人は最初は悪役側。でも白雪姫の美しさに心奪われ主である女王を裏切る。王子は言わずもがな主人公側。対して魔法の鏡は何か。女王の「鏡よ鏡」という有名な台詞から、当然ながら悪役側のように思われるかもしれない。あるいはその問いかけに「白雪姫こそ世界一美しい」と答えるから主人公側?私はどちらも相応しくないと思っている。魔法の鏡は主人公側でも悪役側でもない。その間で審判を下す側のキャラクターだ。

 ではこの3つのキャラクターの要素を一人に背負わせるとどういうことが起きるか。プレイヤーであるにも関わらず審判でもあるという事態が発生する。これ自体は会場にいるすべての代表選手たちがパフォーマーであると同時に、会場にいる参加者として投票の権利を持っているということとも符合する。

 ただ、他の選手たちとルークが違ったのは彼がそれをステージ上で明らかにしたという点だ。これは魔法の鏡という彼の元ネタ(という言い方は正しいのか分からないが)からすれば必要な展開だったけれど、同時にプレイヤーや彼以外のキャラクターから「いや。あなたもメンバーじゃん?」というツッコミを受ける事態も招いてしまった。

 そしてこの点について、私が読んだ限りでは説得力ある説明は(少なくとも現段階では)行われていない。この点がルーク・ハントが『白雪姫』の全く立場の違う複数のキャラクターからインスパイアされた存在であることが必然的に生んでしまった結果だと思う。

➂ヴィルに向けた自己肯定についての話

 上で述べたようなツッコミは彼がヴィルに向けた言葉によってより強化されてしまうこととなった。「キミの美を誰よりも信じなければならないのは、キミ自身だ。」という感動的な台詞がそれとは全く違った文脈になってしまった。

 言っていること自体はとてもいい。万人が納得するかは別にして、少なくとも現時点では多くの人から同意を得られる内容だと思う。ただ、ここで彼はヴィルの話しかしなかった。VDCはチーム戦なのに。7人の選手と1人と1匹のマネージャーで戦ってきたのに。そして何よりルーク自身もその一員なのに。

 この1か月で”パワー”という言葉の意味を理解し、直前にはネージュを仕留めて見せるとセンターの交代を迫ったエペル。ユニーク魔法を発動させ、オーバー・ブロッドしたヴィルとみんなを救ったデュース。4章を超えてソロパートまでもらったジャミル。悔しさを学んだカリム。「サクッと優勝トロフィー貰いにいきましょうか」と話すエース。

 そんなみんなの話はなかった。そしてルーク自身の話も。VDCはヴィルとネージュの戦いではない。NRCとRSA、そして他の魔法士養成学校すべての代表チームのみんなの戦いだ。その視点が少なくともあの語りからは見いだせなかった。

 だから私にはあの話が正直ピンとこなかった。なんかいいこと言ってるなぁというぼんやりとした印象で終わってしまった。

 そして、この自己肯定についての話はもう一つのシナリオ上の問題点をはらんでいる。それはヴィルは本当に「自分たちが世界一美しい」と思っていなかったのかというツッコミだ。

 シナリオの都合上、ルークに魔法の鏡としての役割を持たせるためには彼の1票が勝敗を分ける必要があるので、必然的に他のネームドキャラクターは自分のチームに順当に入れることになる。それはヴィルももちろんだ。つまり、ヴィルVSネージュという争いは別にして、NRC VS RSAの戦いでは自信をもって自分たちの方がよかったと思っていたということになる。

 そうすると「キミの美を誰よりも信じなければならないのは、キミ自身だ。」という台詞が浮いてしまう。ヴィルは自分たちチームの美を信じていた。その上で、その美を会場の他のみんなにも評価されたい、そして1位になりたいと思っていたとすれば、ルークの台詞はなんとなく”ズレた”モノになってしまう。

➃ネージュ・リュバンシェの(恐らくは)長年のファンであったことを隠していた

 最後に恐らくは一番引っかかるひとが多いこの点について。少なくとも私はルークがネージュのファンであったことそれ自体についてルーク本人の責任を問うことはできないと思う。何を美しいと思うか、何を好きになって応援するかは個人の自由なので。そしてこれが明るみに出てしまったのはルーク本人の意思によるものではなく、ネージュがやったことだ。だからこの点についてもルークには責任はない。

 でもそれを隠していたことについては責められても仕方がないし、ヴィルに対する”裏切り”になりうると思う。

 ルーク本人によれば、彼はネージュのファンクラブ「Eternal Snow」の会員番号2番。つまり長年にわたってネージュを美しいと思っていたということになる。そしてそれは恐らくNRCに入学し、ヴィルの隣に収まるよりもうんと前の話だ。

 にもかかわらず、この2年間以上彼はそのことを隠していた。嘘をついていないからセーフなんていう言い分は通用しない。ヴィルのライバルがネージュであること、そしてヴィルがネージュに対してどんな思いを抱いていたかは十分に知っていたはずだ。であれば、少なくともそれを伝えるのが誠実さというものだと私は思う。

 ヴィルとネージュの美は別物だからという主張もあるだろうが、少なくとも台詞の上ではルークはこの両者を「美」という言葉を使って評価している以上、それも無理があるのではないかという感がある。

 この点については正直これを入れてきた理由が全く分からない。『白雪姫』の狩人と白雪姫の関係性からもズレるし、シナリオ上どうしても必要な理由も思いつかない。原案者またはライターの性癖かなという気もする。

 

 以上で私が今回のシナリオについて思ったことはほとんどすべて書ききってしまった。個人的にはヴィルは最初に「手を取った」キャラクターでもあり、ストーリーを通してどんどん彼を好きになっていたので、今回の展開はつらかった。けれど、話としては面白いなと思ったのも事実だ。後編1では不十分に見えたヴィルの行為への報いもひとまずは後編2であったし。(ただあの行為の被害者はNRCトライブ全員とネージュのはずなのでやはりルーク以外のチームメンバーの扱いには疑問も残る)

 もしヴィル・シェーンハイトをここまで好きになる前なら、彼の苦しみや努力に思いをはせる前ならあっさりと受け入れられたかもしれない。だからこれは1プレイヤーの私怨であり呻きだ。多分足りていないところもあるし、違う意見もあると思うけれど、いま自分が感じたことを残しておきたかったので、文章に起こした。

 最後に私はルーク・ハントを”裏切り者”だと思うけれど、それは必ずしも彼への憎しみだけを意味しないということも書き添えておきたい。彼自身が言っているように、「時に裏切りも美しい」のだから。

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