浦沢直樹展で、浦沢直樹の秘密を解き明かしてきたのだ!謎は解けた!・・・・たぶん。
浦沢直樹展、原画だけではなく小学生の頃の手塚治虫単行本からの模写から13歳での初長編作品、キャラの下書きや設定までありました。
「プルート」なんか手塚原作通りのアトムやゲジヒトのキャラがあり、それからの、より人間に近づけたキャラへの変化。アトムの顔や髪型の変化などがあって面白かった。
そうか、この天才もこうして同じキャラを何度も何度も書き直して練り込んで行くんだなぁ。
と、ボクが聞いて実践し、今、教えていることと同じ事をしていらっしゃるんだなぁと、感慨深い物がありました。
二十代最初の頃のなかなか芽のでない苦しみと葛藤の見て取れるような原稿や下書き、キャラの試行錯誤の山を見ていると震えましたね。
中にはやはり原点、手塚治虫や、大友克洋、鳥山明っぽいキャラや絵もあり、ああ、この方もやはり元祖天才、手塚治虫同様に色んな作家さんをリスペクトしてそのテイストを取り入れながら独自進化して今の絵柄に辿り着かれたのだなぁ。
その様はまさしく先日、手塚るみ子さんと田中圭一さんの対談で語られた手塚治虫と同じ「あがく天才」なのだなぁと感じました。
そして自信をつけて、売れ始めた頃の絵柄は本当に独自の素晴らしい物を会得さられている。
それは表情の豊かさ。
それも喜怒哀楽だけではなく、哀しみを含んだ怒りや、笑顔で哀しみを表現するなど、複雑で相反するものを含む表情。
喜怒哀楽のどれとも言えない哀愁のある表情。
何か口に出せぬ気持ちを飲み込んだような複雑な表情。
そういうはっきりしない、いってしまえば中途半端な感情の表情をキャラが見せ始めるんです。
いわばキャラの演技力がぐっと上がるのです。
まるで役者があるときから化けるかのように。
これは僕の以前からの浦沢作品への評価なのですが、その素晴らしさは、そういう複雑な表情がミステリー、謎をストーリー以上に読者に感じさせてグイグイと作品の世界観に引っ張りこむ牽引力となっているのだ。ということです。
浦沢キャラが「それは…」と口ごもって俯くだけで、次号何か語られる。謎が明らかにされる。読まねばならぬ!と読者に思わせる力があるのだと思うんですよ。
それが浦沢直樹最大の武器なんですよね。
その謎は結局、謎のままだったりする事が多くて、ずるいっちゃずるいんですけど、(結局、ともだちって誰だったんだっけ?)
しかし、おもわせぶりで謎に満ちた男や女ほど、魅力的に見えるものなのです。・・・よね?
そして、その何を考えているのか分からない表情の浦沢キャラが、ためて、ためて、次の瞬間、泣きながら笑い、笑いながら泣くとき、こちらも思わず、ぐっと胸に来るのですよ。
これもずるいんですけど、分かっていながらやはり泣かされる。
その間が上手い。抜群に。
さてこの浦沢マジックの源は何かというと、今回の原画展で作画風景のビデオと、そこで描かれている原画を比べ見て、さらにその超拡大コピーを見てひとつの推論に至りました。
それはさきほどの僕の記事にすでにヒントがあります。
皆さん、とっくに気づいていましたか?
そう、僕は単行本派なのでさらに気づきにくかったのですが、それは浦沢キャラの目です。
浦沢キャラの目の多くは、ものすごーく細い微妙な線と細かい点の大量の重なりで描かれています。単行本だと気づかないくらい。
雑誌で分かる以上にです。
しかしそれこそが、ある種のゆらぎと、不安定さ、複雑さを浦沢キャラに与えているのではないでしょうか。だからこそ、口は笑った形なのに、ああこのキャラは心の中では泣いているのだと読者に伝わるのです。
家に帰って他の作家の作品と色々比べてみても浦沢キャラの目は、異様にタッチが複雑で多いのです。
そしてご自身の作品でも踊る警官までと、パイナップルアーミーの途中からではぜんぜん違います。
最近はそういうキャラも多くなってきていますが、浦沢さんが会得した頃は、これほどの目の描き方の多彩で複雑なキャラはなかったように思います。
今でも抜群ですね。
某有名編集長は「今は下手な新人でもそのキャラの目が魅力的かどうかで、伸びしろが分かる。」と言われてました。
「主人公のキャラと作家の目を見る。あたたたたたっ!」とも。
キャラは目が命とは古くからもよく言われますが、あらためてそれを深く理解しました。
印刷に出ないようなタッチでも伝わるもんなんですねぇ。
そう先の記事をもう一度思い出してください。
ビデオの浦沢さんは、眉を描き、目を描いて、他はほぼ一発で仕上げるのに、前髪描いちゃ目をまた描き、輪郭描いちゃまた目にタッチを加え、口を描き、影を加えちゃ、また目に点を足すんです。
そして先ほども言ったごおくごく少ないホワイトのレタッチは、ほぼ目の修整と、星(白い光の点)なのです。
たぶん、これが浦沢キャラのマジックの秘密です。
まぁ絵描きでもないボクの推論にすぎませんけどね。
新人さんがた、一朝一夕に真似はできないものなのだとは思いますが、心がけておいて良いと思いますよ。
顔の一部を、ちょっと描いちゃ、キャラの目を見て「この目は読者に何かを語りかけているか?」と自問することを。書き足したり、書き直すことを。
いやあ、いい物を見せていただきました。
浦沢先生、ナッツプロスタッフの皆さん、主催者の方々ありがとうございました。眼福でした。
皆さん、早く行ったが良いですよ!
今月末までです。
行って早くボクのこの記事を確かめてください。
そして震えてください。ボクのように。
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