『火災調査官・紅蓮次郎』シナリオ「埋み火」

『火災調査官・紅蓮次郎』

「埋み火」

原作 鍋島雅治

○暗雲立ちこめる町。

モダンなニュータウン。

一軒家群。遠くにマンション群。

幾何学的に整備されて無機質な「作られた」感じのする町。

一軒一軒の家は、庶民的な裕福さがある。

狭い芝生の庭にテラスデッキ。

例えばこんな感じの所。(ググールストリートビュー)

その町全体に、むらむらとした暗雲が立ちこめている。

ごろごろと雲の中が鳴っている。

かぶせた浮きネーム。印象的に

『こんな町・・・

燃えてしまえば

いいのに・・』

ビカッ!光る稲妻。町に落ちる。ドシャーン!

揺るがす轟音。

○ニュータウンの広場。なぜいるのか?

ドシャーン!と雷鳴。

白井 「うわぁっ!びっくりしたぁ!」

眉村 「けっこう、近かったよなぁ。」

白井「こりゃあ、今日の

防火・防犯セミナーは

中止だな。」

白井 「ですね。」

白井 「あれ?紅さんは?」

  紅の姿を探す白井。

  紅が、車の中に身を縮めて隠れている。

白井 「あはは。

恐がりだなぁ紅さん。」

眉村 「情けないなぁ、

もと伝説の筒先が

聞いてあきれるぜ」

紅 「あなた方がたは、

   雷の恐ろしさを

   知らないんです!」

紅 「雷は、

光と音の間隔が

短いほど雷が

近い証拠なんです。

さっきのは2秒も

間がありませんでした。」

紅 「音は一秒で

約340メートル

進みますから

ほぼ一キロ以内に

落ちたということに

なります。」

眉村 「え・・」

白井 「そんなそば・・」

紅 「次はアナタのたちの

頭の上かも

しれませんよ。」

それを聞いて青くなる眉村、白井。

眉村 「ま!まぢかよ。」

白井 「どうしよう!」

眉村 「ちょ、ちょっと

    まってくれよぉ」

慌ててベルトや時計などを外す眉村。

紅 「何してるんです、眉村刑事」

眉村 「何って金属類を

身につけてると

雷が落ちやすいって

いうじゃねぇかよ!」

紅 「それは誤りです。

直撃を受けた場合

電流が金属に

多く流れる分、

体を流れる電流が

減るために、

金属を身に

つけていた方が、

逆に生存確率は

高くなります。」

眉村 「そ、そうなのか」

白井 「へぇ~」

紅 「同じ理屈で、

電流が金属の

ボディを伝って

地面に抜けるので、

車の中というのは、

比較的安全なんです。」

眉村 「そういう事は早くいえよ!」

白井 「自分だけずるいですよ!」

車に飛び込む眉村、白井。

紅 「早くドアをしめて!」

ドシャーンとどこかに落ちる雷。

白井 「ひぃいい」

○ニュータウン。

雨上がり、広場、集まって話す主婦たち。

主婦A 「昨日の雷、

すごかったわねぇ」

主婦B「ほんと、

アタシもう

怖くて怖くて」

主婦C「ところで

田所さん・・」

え、とうつむいていた顔をあげる田所洋子。35歳。

美人ではあるが、ちょっとおどおどしている。

洋子 「なんでしょう。」

主婦A 「最近、茶話会や

イベントに、

あまり

出てこられない

ようだけど

体の具合でも

よろしくないの?」

洋子 「あ、いえ、

そういうわけじゃ・・」

主婦B 「あっ!ひょっとして

ついにご懐妊!?

ねぇそうなの?

よかったわねぇ!」

洋子 「え?」

主婦C「まぁ、それはそれは

ずっとみんなで

いつできるのかしらって

心配してたのよぉ!

おめでとう!」

洋子 「あ、いえ、ちが・・」

主婦A「あら、まぁ

そうだったのぉ

それじゃあ

ぜひ茶話会に

出ていらっしゃいな

次のテーマは

「出産と育児について」

にするわぁ

母親の先輩である

私たちが、

田所さんのために

ちゃんとレクチャー

して差し上げますから。」

洋子 「あの、そんなことを

していただかなくとも・・」

主婦A「いいのよ遠慮しないで」

主婦A「あ、それから

昨日行うはずの

防災・防犯セミナー

明日に延期になったの

か・な・ら・ず

出席してねぇ。」

洋子 「あ・・はい。

それは」

主婦A 「ねぇ、田所さん」

洋子の周囲を囲む主婦、

主婦A 「私たちは、

一生、この町に

住み続けなきゃ

ならないのよ

仲良くしなきゃあ。

そうでしょ?」

○田所家。リビング。

洋子と、夫の信二。

信二 「引っ越し?

何言ってるんだ。

引っ越す必要なんか

どこにあるんだ。」

洋子 「ご近所さんたちが

うるさく干渉してくるの。

やたらイベントがあって

それに出ろ出ろって・・」

あきれたようにため息をつく夫。

夫 「なんだそんな事か・・

そんな事くらいで

引っ越すなんて

大げさな事言うなよ。」

夫 「ご近所が仲良いのは

けっこうな事じゃないか。

イベントだって

出たらいいだろう。

退屈しないですむ」

洋子 「でも、私、あの人達と

趣味も話も合わないのよ!」

洋子 「それにアナタは

公園の草刈りとか

共同清掃とかだって

何一つ一緒に、

出てくれたこと

ないじゃない!

いつも私一人よ!」

夫 「あのなぁ

ご近所つきあい

くらい

お前、一人で

うまくやって

くれよぉ。

こっちは仕事と

長い通勤で

疲れてるん

だからさぁ」

夫 「だいいち、

どこに引っ越す

金があるんだ

まだこの家だって

ローンが残って

いるんだぞ。」

洋子 「それは・・」

ため息をつく夫。

夫 「引っ越して来た頃は

土地や家の価値は

右肩上がりで

この家も絶対に

値上がりすると

思って無理して

買ったのに・・」

夫 「今じゃあ大暴落だ。」

夫 「売っても借金だけが

残るだけなんだぞ。」

洋子 「わかってるけど・・」

夫 「だったら

引っ越しなんて

バカなこと

言い出さないで

くれよ。」

夫 「俺たちは、死ぬまで

この家に住み続けるしか

ないんだ。」

新聞に戻りながら、

夫 「それで

いいじゃないか。

子供もいないし

夫婦二人の終の

棲家とするには

この家だって

悪かぁはない。」

もはや、聞いていない。愕然とした洋子。

洋子 「一生・・この町で・・」

部屋の中に飼っている、かごの中の鳥を見る洋子。

○町の中をうろついている紅。

地面にかがみ込むようにして、

家家の裏側をのぞき見ている

(後にガス管を探しているのだと分かる)

紅 「ふむ・・

このあたりも・・」

白井 「さっきから、

人のうちのぞき込んで

何やってるんですか?

セミナーに

  遅れますよ。」

紅 「ふぅむ。」

と、パタパタと飛び立つ鳥の羽音。

見上げると田所家の庭から小鳥を放す、田所洋子。

それに目をとめる、紅。

声をかける紅。

紅 「鳥を放されたんですか?」

洋子 「え、ええ・・

なんだか急に、

かごに飼っているのが

かわいそうになって」

紅 「そうですか・・

お優しいんですね」

と、鼻をヒクヒクさせる紅。

家の周囲に目をやる紅。ポリタンクが目に入る。

洋子 「あの、どなたでしょうか?

なにかうちにご用でも?」

紅 「いえ、なんでも

ありません。

失礼しました。」

会釈して立ち去る紅。

白井 「ダメですよぉ

紅さん。

人妻なんか

ナンパしちゃ。」

パコッ。パイプで白井の頭をたたく、紅。

紅 「あなたじゃありません」

白井 「失礼な!僕は

人妻は人妻パブでしか・・」

○広場・ステージ。

『桜ノ丘ニュータウン 防火・防災セミナー』

白井が泥棒に扮した白井を大げさな演技で捕まえる。

眉村 「この下着泥棒めぇ!

召し捕ったりぃ!」

白井 「まいったぁ!」

しらけた顔の主婦のあいだから、まばらな拍手。

舞台を降りる白井、眉村。

白井 「なんで、僕が

下着泥の役なんですか?」

眉村 「リアリティの問題だ。」

主婦A 「以上、『防犯セミナー』でした。」

主婦B 「ていうか、ただの

小芝居じゃないねぇ?」

×

主婦A 「さて、次は消防庁防災部、

火災調査官の

紅連次郎さんから

防災の心得を

お聞かせねがいたいと

思います。」

紅 「どうも、紅です。」

主婦B 「あら、けっこう、

いい男ね。」

主婦C 「ねぇ!」

洋子 「あの人・・」

主婦A 「その前に

火災調査官と

いいますと、

聞き慣れない

お仕事ですが、

どのような

お仕事なんでしょう?」

手慣れた感じで、マイクを、紅にふる主婦A。

紅 「おほん。

簡単に言いますと、

火災の原因を

調査する仕事です。

例えばそれが、

失火なのか、

事故なのか・・

それとも放火なのか・・」

主婦A 「へえ、そんなお仕事が

あるんですねぇ。」

主婦B 「あの・・」

手を挙げる主婦B。

紅 「はい、なんでしょう?」

主婦B 「私、2時間サスペンスの

ファンなんですけどぉ。

証拠とか指紋とかで

犯人捕まえるんですよねぇ

でも放火って

なにもかも

燃えてしまうん

でしょう?

そんなの分かるもの

なんですかぁ?」

紅 「正直、難しい

ですねぇ・・」

にやりとする洋子。

洋子 「難しいんだ・・」

紅 「それでも

平成17年版

犯罪白書によれば、

放火犯の検挙率は

69.6%です。」

洋子 「そんなに捕まるんだ・・」

きらりと光る紅の目。

紅 「火災になると

何もかも

燃えてしまうように

思われますが・・」

紅 「灰の中には

必ず真実が

埋まっている

ものなんですよ。」

紅 「そして

それを掘り起こすのが

私たち火災調査官の

使命です。」

ガス検知を出す紅。

紅 「例えば、

このガス検知器。

これは残留した

灯油やガソリンを

検知する機械で、

それらが放火に

使われると

すぐに分かるんです。」

洋子 「えっ・・」

紅 「私たちは、

けして放火犯を

見逃しません。」

白井 「こうみえても

紅さんは、

これまでたくさんの

放火犯を特定して

消防庁のホームズと

呼ばれているんですよぉ」

主婦A「それは頼もしいわぁ。

では、そんな紅さんから

防災の心得について

よろしくお願いします。」

しゃべりながら、洋子に注目する紅。

洋子は目を伏せて、何かを考えている。

○自宅。

洋子 「そうなんだ・・

灯油やガソリンを

かけて燃やしたら

分かってしまうんだ。」

ベランダのポリタンクを見て、

洋子 「危ないところ

だったわ。

せっかく買ったのに

あの灯油は

使えないわね。」

洋子 「灯油がダメだったら

ガス・・そうよ

ガスの事故だったら

バレないんじゃ

ないかしら。」

ガス栓をひねる洋子。

洋子 「この家さえ

燃えてなくなれば

火災保険金で

引っ越しができる・・

この町から

出て行けるんだ・・

あの人が帰る前に・・」

と、ピンポーンと鳴るベル。

洋子 「何なのよ!こんな時に!」

ドアを開けると、紅と、白井、眉村。

洋子 「な、なんでしょう?」

紅 「職務上、お宅様の事で

ちょっと気に

なったことが

ありましたので、

よろしいでしょうか?」

洋子 「え・・・」

○リビング。

紅 「けっこうなお宅ですねぇ。」

洋子 「ど、どうも・・」

(お茶を出す。)

眉村だけ、やや離れたところの座布団に座る。

洋子 「いったい何でしょう?」

紅 「ベランダにある

ポリタンクは

匂いからすると

灯油ですね?」

どきっとする洋子。

洋子 「あ・・はい。」

白井 「紅さんの鼻は

犬並みなんです。」

紅 「誰が犬ですか。」

ぽかりと白井を殴る紅。

鼻をヒクヒクさせる紅。

紅 「そういえば、少し

ガス臭くないですか?」

洋子 「す!すいません!

さっきお湯を

ふきこぼしてしまって」

紅 「おやおや。

気をつけてて下さいね。」

紅 「給油の時に

においがするので

室内に置くのは

イヤがる方が

多いのですが」

紅 「外から

目につく所に

出しっぱなしに

しておきますと

放火犯のかっこうの

餌食になりますよ。」

洋子 「す、すいません。

すぐに片付けます。」

紅 「そうして下さい。

しかし・・・」

紅 「灯油ストーブを

使うのは少し

早すぎませんか?」

洋子 「その、さ、

さむがりなんです!」

紅 「そうでしょうねぇ

そうだと思いました。」

洋子 「え?」

紅 「昼間に外から

拝見したところ

こちらのお宅、

床暖房ですよね。」

洋子 「え・・ええ・・」

目が泳ぐ。

紅 「床暖房の上に

灯油ストーブ

までねぇ・・」

洋子 「す、すごく!

寒がりなんです!」

汗をぬぐう、眉村。

眉村 「奥さん、もう

床暖房入れてる

のかい?」

洋子 「いいえ、いくら

なんでもまだです。」

眉村 「なんだか

暑くねぇか?」

白井 「気のせいじゃないですか」

眉村 「気のせいかなぁ。」

紅 「まぁガソリンや

灯油をまいて

火をつけるというのは

放火の手段としては

まったく短絡的というか

愚かな方法なんですけどね。」

洋子 「そ、そうなんですか?」

紅 「ええ。ガソリンや灯油の

気化速度は思ったよりも早く

素人が、特に狭い室内などで

火をつけると自分も

炎に包まれて大やけどを

する事が多いんです。」

紅 「ましてガスなんか

使おうものなら・・」

洋子 「使おうものなら」

紅 「ボン!」

紅 「点火と同時に

大爆発です。

逃げる暇なんかない。

そんな事も知らずに

重傷を負う放火犯が

実に多い。」

ごくっ、唾を飲み込む洋子。

洋子 『あぶないとこだったわ・・』

紅 「まぁ自業自得

ですけれどね。」

紅 「放火という

愚かな行為の中でも

とりわけ愚かな行為です。

ちなみにガソリンや

灯油をまくような

放火犯の特徴として・・」

プルプルと震える洋子。

紅 「社会に対する

疎外感を感じており、

秘めた怒りを

放火をする事で

発散する傾向にある。

つまり、こう

思ってるんです。」

紅 「こんな世の中、

燃えてしまえば

いいんだと・・・」

立ち上がって怒る洋子。

洋子 「勝手に人の事を

決めつけないで下さい!」

驚いた顔の白井。

白井 「ど、どうしたんですか?」

落ち着いた態度で、

紅 「落ち着いて下さい。

私は、ただ放火犯の

プロファイリングを

しているだけですよ。」

洋子 「あ・・・」

慌てて、座る洋子。

洋子 「あなた、

ひょっとして・・」

汗びっしょりの眉村。

眉村 「なぁ、やっぱり

これ、床暖房入ってるぜ」

白井 「暑くないですってば

眉村さんだけですよ。」

ぴくんとなる紅。

紅 「眉村刑事、どいて下さい。」

手袋を脱いで床をさわる紅。

紅 「奥さん、ガスメーターは?」

洋子 「どうかしたんでしょうか?」

ガスメーターを見て、

紅 「異常な速度で回っていますね。」

洋子 「今、ガスなんか

使ってませんよ」

紅 「白井君、すぐに床下に

潜ってみて下さい。」

白井 「ええっ?」

紅 「早く。」

白井 「はぁい」

紅 「どうです?」

白井 「えっと・・・あ、これは!

大変です!」

紅 「やはり」

床をバールではがす紅

洋子 「どうしたんですか?」

眉村 「なんだこりゃあ!」

洋子 「まぁ!」

炭化した床下材。

ガス管から炎が吹き出している。

ぶしゅうう!消化器でこれを消す紅。

紅 「ガス管が、腐食して

ガスが漏れているところに

何かが引火したんでしょう。」

白井 「こんな場所でですか?

いったい何が?」

紅 「おそらく、

一昨日の雷です。」

白井・眉村・洋子。「雷ぃ~っ!?」

紅 「ええ、落ちた雷が

土の中を伝って、

このガス管に

引火したんです。」

洋子 「それじゃあ、

一昨日からずっと

燃え続けて

いたんですか?」

紅 「ええ。」

紅 「2008年の

7月23日に

同様に雷によって

引火したガス管が

床下で三日間

燃え続けて、

ボヤになった

事件がありました。」

白井 「今年はゲリラ豪雨とか

雷が多かったですからねぇ。」

眉村 「おっそろしい話だなぁ。」

紅 「気になっては

いたんです。

このニュータウンには

白ガス管が使われている

ようだとね。」

眉村 「白ガス管って

なんだ?」

紅 「白ガス管というのは、

鉄の管に亜鉛メッキを

した旧式のガス管です。

長い年月がたつと

土中で亜鉛メッキが溶け

中のガス管が腐食して、

ガス漏れを起こす

恐れがあります。」

紅 「1994年頃、

この白ガス管による

爆発や炎上事故が

相次いだため、

1996年には

使用禁止に

なっています。」

紅 「しかしそれまでに

埋設した白ガス管が

まだ大量に残っており

対応年数は20年と

いわれています。」

眉村 「てことは禁止になった

1996年の物でも

プラス20年で

2016年まで・・

もうすぐじゃねぇか!」

紅 「それまでに

埋められた物は

すでに耐用年数を

超えていますから、

こういう事故は

これからたびたび

起こるでしょうねぇ」

眉村 「まるで町の

あちこちに

時限爆弾が

埋まってるような

もんじゃねぇかよぉ!」

紅 「各、ガス会社が

本支管・供給管を

腐食しない

プラスチック管などに

交換する対策を

していますが、

それが終了するのも

二〇二〇年と

いわれています。」

紅 「またガス会社の

多くが、

家庭敷地内の内管は

消費者の物で

あるとして、

HPなどで、

自主的な交換を

勧めているだけ。」

紅 「その工事費用も

消費者の

全額負担と

しているとろが

ほとんどです。」

眉村 「無責任だなぁ!」

洋子 「だいいち

私たち

そんな事

知りません

でしたよ。」

紅 「マスコミで

大きく取り上げて

くれると

いいのですけどね、

ガス会社は、

各マスコミにとって

大事なスポンサー

ですから。」

洋子 「ひどい話だわ!」

紅 「ですねぇ」

紅 「その白ガス管が

このニュータウンには

たくさんまだ使われて

いるようなのです。」

白井 「あ、それで、

あちこちの家の

床下を のぞき込んで

いたんですかぁ。」

紅 「君と違って

ノゾキ趣味は

ありません。」

白井 「ぼ、僕は風俗の

のぞきプレイだけです!

犯罪には

手を染めてません!」

眉村 「やってんじゃん。」

洋子 「あ!」

紅 「どうしました?」

洋子 「それじゃあ、

ひょっとしたら、

うちの他にも

床下が燃えている

お宅があるのじゃ

ないですか?!」

紅 「おお、それは

気がつきません

でした。

ありえますねぇ。」

洋子 「大変!みんなに、

連絡しなきゃ!」

電話を取る、洋子。

洋子 「もしもし!鈴木さん!

大事なお話があるの」

そんな様子をまんぞくげに見る紅。

眉村 「お前が気づかない

わけはないよな・・

なんで黙ってた?」

紅 「さぁ・・」

○広場。

紅 「田所洋子さんのご指摘で

かくご家庭を調べたところ

八件の同様のガス漏れを

発見し、うち二件に

引火していました。」

紅 「ガス会社と協力して

すべて、処置済みです。」

主婦A 「助かったわぁ!

まさかうちの床下が

燃えているなんてぇ!」

主婦B 「ほんと、田所さんの

おかげだわぁ!」

主婦C 「町の救世主ね!」

洋子 「いえ、そんな・・」

一同 「ありがとう!」「ありがとう!」

洋子 「みなさん・・・」

そっと洋子の側で囁く紅。

紅 「こんな町、

燃えてしまえば

いいんだ・・・」

はっとする洋子。

紅 「私、思うんですが

そんな事を

思ってしまう人間は、

本当に社会から

疎外されて

いるんでしょうか?」

紅 「何かに縛られて

ただそう思い込んで

いるだけなんじゃ

ないでしょうかねぇ?」

洋子 「・・・・あの、私!」

告白しようとする洋子に、首を振る、紅。

紅 「できませんでしたよ。

鳥を逃がすような

優しいあなたにはね。

だから、真っ先に

みなさんの事が

心配になったんです。」

洋子 「ありがとうございます。」

紅 「約束してくれますね?

もうバカな事は考えないと」

憑きものの落ちたような顔の洋子。

洋子 「はい。約束します。」

満足げな紅。

○ニュータウンを後にする紅。車内。

子供や老人が遊ぶ平和な町を見ながら、

紅 「平和に見える

町にも、火だねは

くすぶっている

ものですねぇ。」

白井 「ですねぇ。」

感慨深げに、

紅 「人の心にもね・・」

白井 「え?」

眉村 「何のことだ?」

暗雲。ガラピシャーン。目の前に雷が落ちる。

終わる。

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