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研究曰く、「性的モノ化されたレストランでは、そこで働く女性にメンタルヘルスに悪影響があるかも知れない」

宇崎ちゃん献血コラボによる献血者増減についての論文を書いているので、周辺知識を集めています。その中で、避けられない話題の1つが「性的モノ化」です。

なんやかんやで調べた成果の共有を論文の批判的吟味(Critical Appraisal)という形でさせて頂きます(誰も求めていない)。

論文著者曰く、「性的モノ化されるレストラン環境で働く女性のメンタルヘルスが悪くなっているかもしれない」。

つまり、想像通りかもしれませんが、「性的モノ化は当事者のメンタルを悪くする」という結果が得られたようです。

ただ、研究の質自体にはやや疑問がありました。

今回のお題の論文はこちら

Sexually Objectifying Environments: Power, Rumination, and Waitresses’ Anxiety and Disordered Eating

この論文で問題となっている「sexually objectifying restaurant environments (SOREs)」(性的モノ化されたレストラン環境)と表現されています。

関連したWeb pageとしては下記がありました(多分、この論文の紹介としては初出)。

この記事に出てくる”breastaurant”は辞書にはありませんが、wikipedia(eng)では下記の様に定義されています(wikipedia, 2020/01/03閲覧)。

A breastaurant is a restaurant that has skimpily-dressed female waiting staff. 

なお、DIMEの記事では身も蓋もなく「おっぱいレストラン」と意訳されています。

論文概要(short version)

「性的モノ化レストラン環境での労働は『不安』や『摂食障害』が生じやすいのではないか?」・「それらはorganizational power、personal power、ruminationで媒介されているのではないか?」という仮説を明らかにするために、オンラインサーベイが実施されています。パス解析を行なった結果、SOREは、「不安」や「摂食障害」に関連していました。また、organizational power、personal power、ruminationを介した関係でした。

論文概要(full version)

研究仮説
性的モノ化レストラン環境(SORE)での労働は不安および摂食障害と関連がある。

それらは、organizational power、personal power、ruminationを介した関係である。

PECO / PICO
P:レストランで働くウエイトレス
E:性的モノ化されたレストランという労働環境(SORE)
C:上記ではない労働環境
O:不安と摂食障害

研究デザイン
オンラインサーベイを用いた横断研究

対象者
Facebookの広告でリクルート。
U.S. Southeastan public universityのリサーチプールからリクルート。
オンラインサーベイで790人を調査した。欠損値が多い432人と現在ウエイトレスをしていない16人を除外し、252人を対象者とした。

除外となった対象者の内訳
150人除外(サーベイ全体がブランク。つまり、回答拒否?)
275人除外(少なくとも1つのメジャー全体がブランク。)
16人除外(今はウエイトレスではない)
7人除外(1つ以上のメジャーで20%以上の項目が欠損)

データ収集について
いずれも既に妥当性が検証された質問紙を用いて測定しています。

曝露変数(SORE)
SORE環境:Sexually Objectifying Environment Scale - Restraurant Version

アウトカム変数
不安:7-item Generalized Anxiety Disorder (GAD-7) Scale
摂食障害:Eating Attitudes Test-26 (EAT-26)

交絡やその他共変量
組織の力:3-item Gendered Structural/Organizational Power Scale
個人の力:3-item Powerlessness Scale
悲観的な熟考:5-item Booding subscale of the Response Styles Questionnaire
BMI:自己報告された身長と体重から算出

統計解析
相関係数の算出とパス解析を行なっています。

結果と結論
相関係数
SOREと不安の相関係数が0.31、SOREと摂食障害の相関係数は0.27。
パス解析(間接影響の標準化係数)
【SORE ⇒ 組織の力↓ ⇒ 個人の力↓ ⇒ 悲観的な熟考↑ ⇒ 不安】で、0.17。
【SORE ⇒ 組織の力↓ ⇒ 個人の力↓ ⇒ 悲観的な熟考↑ ⇒ 摂食障害】で、0.09。

「SOREは、そこで働く女性の不安と摂食障害に関連している」と結論付けられています。

批判的吟味(Strength;この研究の良い所)

性的モノ化の中でもこれまで注目されていなかったSOREに注目しています(先行文献が、Szymanski & Feltman, 2015しかない、とのこと)。

Introductionの記述が豊富(3.5ページある)。この分野の初心者/他分野の研究者であっても、この研究の背景がよく分かります。

質問紙は、既に妥当性の検討がなされています。それだけではなく、今回のサンプルにおけるクロンバックα係数も算出しています。少なくとも内的妥当性は問題ないと言えそうです。

質問紙の順番は、ランダムに提示されるので、回答順による傾向は最小化できます。これは次のような問題を解決するのに役立ちます。よくあることですが、質問紙の最後の方になると、面倒になって全部真ん中を選択する人がいますが、その影響がある1つの指標だけに固定化しません。

批判的吟味(Limitation;良くないところ)

働いている女性のメンタルヘルスが悪影響あるとのことですが、SORE特有の問題以外もあるように思います。例えば、P.316の右コラムではMistreatmentについて論じているが、SORE特有の問題と言うより、単にブラック企業なだけでは…?

データ欠損による除外が多すぎる。回答者の31.9%しか解析対象になっていません。とは言え、そもそも答えにくい質問が多いと思うので、仕方が無いか。

「欠損値が少ないので、available case analysesを行なった」旨が書かれていますが、欠損値が多い対象者を除外したので、欠損値が少ないのは当然では。

790人⇒252人のフロー図が欲しいところです。というか、計算が合わない。
790-(150+275+16+7)=312。60人どこに行った?

本文中に記載するだけでは無く、記述統計の表が欲しいです。

対象者の約半分が大学生だったので、多いな、と思ったが、大学生のプールにもアクセスしていたから当然では。そして、単位を回答への報酬にするのは良いのか?(日本では、この報酬設定は多分無理)。なんと言っても、履修単位とかいう報酬はエグい。学生は、研究者に阿ねる回答をするのではないでしょうか。

交絡について考慮されていない。SOREとメンタル不調の共通原因などについて考慮すべきだと思います。

BMIを投入していますが、BMIは摂食障害の結果として生じます。この変数を投入することは、因果関係を推論する上で不要の調整だと考えます。

パス解析の特徴かも知れませんが、結果を直感的に捉えにくいです。つまり、SOREによって、不安・はどの位増えるのか?はよく表現できていません。

横断研究なので、因果が逆転している可能生を否定できません(常套句)。

オンラインサーベイなので、Facebookを使っていない人や調査プールに入っていない人は、研究対象になりえません。このことは結果の一般化可能生に問題があるかも知れません(常套句)。

総合評価

SOREがメンタルヘルスに与える影響を考察した論文として重要であると思います。しかし、欠点も多く、著者らも述べているように、今後の研究に向けた鏑矢的な研究であると考えます。

調べたけれど、この記事では参考にしなかった資料等

Perter Glick et al. Evaluations of Sexy Women In Low- and High-Status Jobs. Psychology of Women Quarterly, 29 (2005), 389–395.

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