広瀬和生「この落語を観た!」vol.21

7月19日(火)
「納涼四景(下)」@国立小劇場

広瀬和生「この落語を観た!」
7月19日の演目はこちら。

春風亭枝次『二人旅』
春風亭一之輔『麻のれん』
柳亭市馬『寝床』
~仲入り~
桃月庵白酒『付き馬』
柳家権太楼『へっつい幽霊』

『麻のれん』は一之輔の夏の定番演目のひとつ。按摩の杢市の強情はある意味、物悲しくもあるのだけれど、一之輔はあくまでも落語らしい“意地っ張りの失敗談”としてカラッと笑わせてくれるのが嬉しい。一之輔の個性があるからこそ屈託なく笑える噺だ。

市馬の『寝床』は“義太夫さえやらなければとてもいい旦那”というのが見事に表現されている。店の連中が義太夫を聞けない理由を並べ立てる茂造に、他の演者にはないトボケた可笑しさがあり、旦那との掛け合いが実に面白い。気が利いた番頭の説得にコロッと機嫌を直す旦那の可愛さも特筆モノ。“楽屋”を訪ねた鳶頭が何度も口を滑らせて「誰か代わってくれ~」となるのは五代目小さん流。

白酒の『付き馬』は騙す男の弾むような饒舌さが圧倒的に面白い逸品。若い衆に異論を差し挟ませないこの男のリズミカルな語り口の楽しさは、高い調子の声の使い方が天才的に巧みな白酒のテクニックに裏打ちされたもの。吉原から雷門に至る道すがらで男が語り尽くす“浅草名物”の数々も他の演者とは異なる切り口で演じていて何度聴いても新鮮に可笑しい。今、誰よりも面白い『付き馬』を演じているのが白酒だと断言したい。

権太楼の『へっつい幽霊』は三木助型。銀ちゃんのハジケた演じ方はさすが権太楼。昨夜の吉原の余韻に浸りながら「花魁がチュネ、チュネ、チュネ、チュネ、あたしが痛ーい、痛ーい、痛ーい、痛ーい」と満面の笑顔で独り芝居を続けていて幽霊が出たのにも気づかないのには笑った。幽霊に「誠意を見せろ」と迫って半分せしめる熊さんの迫力もさすが。権太楼らしいパワフルな一席だ。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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