広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.145

8月9日(水)「三遊亭白鳥・三遊亭兼好 二人会」@伝承ホール


広瀬和生「この落語を観た!」
8月9日(水)の演目はこちら。

三遊亭白鳥・三遊亭兼好(トーク)
三遊亭白鳥『ナースコール』
三遊亭兼好『氷上滑走娘』
~仲入り~
三遊亭兼好『のめる』
三遊亭白鳥『真夜中の襲名』

ポンコツ看護婦のみどりちゃんが患者のセクハラ爺さんとドタバタを繰り広げる『ナースコール』を久々に白鳥本人で聴いた。この噺、爺さんがみどりちゃんに「パンツ見せてくれ」と言う場面があるのだが、白鳥曰く「池袋演芸場でやったら『今の御時世でそれはアウト』って女性客から言われた」とか。ドタバタ劇の中の“セクハラ爺さん”という設定なんだから問題ないと思うが、たとえば5月の「爆裂ドーン!」で聴いた鈴々舎美馬の“ヤバい看護婦”が主役の『ナースコール』のように「セクハラ爺さんを糾弾する」演出のほうが時代に合ってるのは確かかも。

兼好作の『氷上滑走娘』は膝が痛くて病院に行ったお婆さんが「少し運動したほうがいい」と言われてスケートを始めてメチャメチャ上達する噺。「上半身だけでスケートを表現する」楽しさがこの新作落語の最大のポイントで、とりわけ素敵なのが“三回転ジャンプの仕草”。これを観ているだけで笑える。兼好を追いかけているとごくたまに聴ける愉快な小品。

兼好の『のめる』は「一杯のめる」が口癖の男の豪快な失敗っぷりが何とも楽しい。詰め将棋作戦を授かったときの「こっちから行かないで網を張って待つほうがいいな」という言葉をそのまま受け止めてホントに網を張ってる、という可笑しさは兼好だけの演出で、訪れた男の「なんだ、この網?」という一言の台詞だけでサラッと表現するセンスが好きだ。

『真夜中の襲名』はもともと九代目正蔵襲名が話題となった時期に林家彦いちがSWAで作った噺で、それぞれ他のメンバーの作品を演じるという「SWAシャッフル」企画で白鳥が演じるようになったのだが、現在白鳥が演じている『真夜中の襲名』は、2009年に二代目林家三平襲名が話題になった時期に作り直したもので、白鳥自身「2009年に作った噺」と言っていた。ただし、2009年当時そのままではなく、少しずつリニューアルされている。

上野動物園のふれあい広場にいる動物たちが「自分たちは主役になれない」と嘆く中、パンダウサギのピョン吉は「僕たちは人間を喜ばせる芸動物だ」という誇りを持ち、“カンカン”という大名跡を襲名する夢を抱いている。だが名跡は赤ちゃんパンダのシャンシャンが襲名することが決まっていると聞き、「初代カンカンは素晴らしい芸動物だった。血筋にアグラをかいて芸動物の自覚がないキミが継ぐべきじゃない」とシャンシャンに直談判しに行く。だがシャンシャンは「お前こそパンダの屋号にすがってるだけじゃないか。上野動物園から出て行け!」と反論する。

するとインド象の長老が割って入り、シャンシャンに「人気者のパンダだけいればいいって? 何もわかっちゃいねえな」と説教する。「日本にいるから可愛らしいってチヤホヤされてるが、中国に行けばパンダなんてゴロゴロいる。お前は中国に返される運命にあるんだ。とっとと出て行け!」 インド象(国宝のシルクロード雲助師匠)がそう一喝すると、ピョン吉は「シャンシャンを許してやってください。この子も可哀想なんだ。まだ子供なんですよ。久しぶりに赤ちゃんが生まれたからって物凄く期待され、挙句は大名跡を襲名しろって言われて、まだ前座なのに人気者って言われて、そんな重圧に押しつぶされそうだから、トゲトゲしい態度で自分を守ろうとしてるんです」

「ピョン吉、ありがとう……僕、どうしていいかわからないんだ。みんなが僕を祭り上げて……」と涙するシャンシャンを、ピョン吉が「上野動物園はみんなで支え合ってるんだ。僕が芸を教えてあげるよ。一緒にがんばろう」と励ます。すると雲助師匠が「ピョン吉、お前も一人前になったな」と声をかけた。「お前が夜中に一生懸命に稽古してるのは知ってる。でもな、自分だけ売れりゃいいって考える奴はダメだ。本当の真打はみんなを引っ張り上げなきゃいけねえ。お前はシャンシャンを引っ張り上げてみんなで上野動物園を盛り上げようと言ってくれた。おまえはもう前座じゃない。真打ちになってラビット亭を継ぐかい?」

「えっ! ラビット亭はウサギの名門ですよね!」「ラビット亭ピョン生はどうだ?」「そんな大名跡……お客さんに認めてもらえるかどうか」「客じゃねえ、仲間内が認めるかどうかだ。抜擢されたり名跡を継いだりしても、仲間内が認めなきゃどうにもならねえ。どうだい、仲間のみんな?」 すると動物園内のみんなが賛同の声を上げ、真夜中にピョン吉改めラビット亭ピョン生の襲名披露口上が行なわれることに。シャンシャンの音頭で客席全員の一本締め。「ピョン吉が大きな一枚看板になったという『真夜中の襲名』でございます」 白鳥の“芸人論”を盛り込んだ、聴き応えのある一席だった。


次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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