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広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.154

11月16日(木)「三遊亭兼好・三遊亭萬橘 二人会」@日本橋劇場

広瀬和生「この落語を観た!」
11月16日(木)の演目はこちら。

三遊亭げんき『真田小僧』
三遊亭兼好『権助芝居』
三遊亭萬橘『辻駕籠』
~仲入り~
三遊亭萬橘『もぐら泥』
三遊亭兼好『死神』

兼好の一席目は『一分茶番』の冒頭で権助が田舎芝居での失敗談を語って「今年のお軽はオスだんべ」でサゲる『権助芝居』。『一分茶番』ではその後、番頭が権助に一分あげるからと『鎌倉山』の権平役を引き受けさせるがメチャクチャになってしまうという展開で、兼好もよく高座に掛ける。この日はマクラたっぷりで大いに笑わせてから寄席サイズの『権助芝居』で一席目を務めた。

ろくに仕事をしない甚兵衛と喜六の二人を見かねた大家が「駕籠屋をやってみろ」と勧める『辻駕籠』は三代目三遊亭小圓朝の演目。当代圓橘がこれを受け継ぎ、弟子の萬橘に伝わった。新米の駕籠屋が客に「北国(吉原)へやってくれ」と言われて「北極」と聞き間違えたり、「威勢よく鳴いて行け」と言われてとんでもない奇声で泣いてみせたりといったくだりは萬橘ならでは。「一概にやれ」と言われた駕籠屋が「市ヶ谷にやれ」と聞き間違えて水道橋に差し掛かったところで客が「一概にやれってのは急いで行けってことだよ!」と怒り出してサゲに向かっていくのだが、「一概に行け」が我々にも通じない言い方なのがこの噺の難点で、だから演じ手が少ないのかもしれない。だが萬橘はこの客を「通を気取って符丁を使いたがる短気な男」として描いているのでドタバタ劇として見事に成立している。「辰巳(=深川)へやれ」と符丁で言われた駕籠屋が「磁石を取ってきます」というのが従来のサゲだが、萬橘は「辰巳は深川だよ! 深川へやれ!」「深川? 浅い川でお願いします」と変えている。

『もぐら泥』は亭主に内緒で金を使っている女房のキャラが独特。腕を結わえられて身動きできなくなった後の泥棒のジタバタする様子のバカバカしさで大いに笑わせてくれる。

兼好の『死神』は「背丈が六つか七つの子どもくらいで顔は皺だらけ」の死神の不気味さが際立つ。ラスト、燃えさしに火を移そうと必死な男を見つめながら、死神が「消えるよ……消えるよ……消えた」と言った後、「こういう野郎の命を取るには、金をやるのが一番だ」と、恐ろしい本音を口にする。この場面、以前は薄笑いを浮かべながら「魂もらっとくよ」と言って拾い上げたものを懐に入れるだけだった。そして場面が一転、あくまで軽い口調で「金がなくて苦しい思いをするくらいなら、いっそ死んじまおう。だけどどうやって死ねばいいかねえ」と言いながら歩いている女の前に死神が現われ、「おい、死にかた教えてやろうか」でサゲ。圓生の『死神』に漂う“怖さ”を受け継ぎながら、主人公の男を生き生きと描いて兼好独自の世界を創り上げている。聴き応え満点の逸品だ。


次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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