見出し画像

広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.171

5月5日(日)「白鳥・三三 両極端の会 Vol.18」

<演目はこちら>

 柳家三三『バックトゥザ半ちゃん』
      ~仲入り~
 三遊亭白鳥『3年B組はん爺先生!』

毎回お互いに宿題を出して新作ネタおろしをする会。今回の白鳥から三三への宿題は「映画をヒントに」で、三三は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を題材に選び、冒頭であらすじを説明してから本題へ。お花と半七が深夜に実家を締め出されて霊岸島に行くというのは『宮戸川』そのままだが、お花は追い返されてしまう。これは人間国宝の白鳥師匠が三三に『宮戸川』の稽古をしているところで、白鳥版『宮戸川』では霊岸島のおばさんが結婚したのは「物わかりのいい弟」久太郎ではなく「厳格な兄」伊勢屋半兵衛だった、という設定に変えていたのだった。「でも冒頭では半兵衛が半七を締め出していたはずじゃ……」と疑問を呈する三三を白鳥は一蹴し、稽古を続ける。

おじさん(半兵衛)夫婦が馴れ初めを話すのを聞いた半七は「え? 俺は半兵衛の子じゃなくておとっつぁんは久太郎……?」と混乱し、急いで帰ろうと外へ出ると落雷に打たれ、気を失うと、浜町の蕎麦屋で目が覚めた。そこに小網町の伊勢屋の次男、久太郎が現われる。半七は過去に戻り、若き日の久太郎が清元のおさらい会の帰りにおみねという女を口説く場面に遭遇する。ここで半兵衛が乱入して「この道楽者!」と久太郎を突き飛ばしてしまうと、半兵衛がおみね(将来の“霊岸島の叔母さん”)と結婚してしまい、自分の存在が消えてしまうと気付いた半七は慌てて間に入り、事を収める。おみねは半七に一目惚れしかけるが、何とか久太郎とおみねを結びつけることに成功。しかし、自分はあの雷で過去に戻ってしまったとするなら、どうやって戻ったらいいのかわからない。途方に暮れる半七。

そこへやって来た蕎麦屋の主人が「テメエら、蕎麦屋で何やってるんだ!」と半七を怒鳴りつける。と、半七はお花とひとつの布団にくるまっていることに気づく。本来の『宮戸川』に戻った半七はこの夜、お花と結ばれる。「この二人が幸せに添い遂げることになったという『宮戸川』という噺、めでたくこの辺で……」

語り終えた白鳥に三三が尋ねる。「でも、雷に打たれたから過去に行ったのに、どうして過去から戻れたんですか? 蕎麦屋に怒鳴られただけで」「だから、蕎麦屋の親父に雷を落とされたじゃねえか」

三三から白鳥に出された宿題は「学園もの」。白鳥は、落語界で師匠が弟子へのパワハラで訴えられる事案が続出して大問題となり、個人が弟子をとるのではなく各流派で学校法人を設立して卒業生を寄席に送り込むというシステムが確立した近未来の物語を創作した。

落語協会が設立した落協学園の3年B組の担任教師、柳家はん治は生徒から“はん爺”と呼ばれて親しまれている。ある日、南の島から三遊亭パパラギという生徒が3年B組に転入してきた。彼は酋長に「三遊亭圓丈の『パパラギ』という落語を憶えて島の子供たちに語ってくれ」と言われて名門の日本伝統落語学園に留学したものの、理事長の大徳寺に「新作は邪道だ! お前は腐ったミカンだ!」と言われ退学になったのだという。転入生に“ラギちゃん”というニックネームを与えたスケ番“こみち姉さん”は「私も昔、大徳寺に『落語は女がやるもんじゃない』と言われたんだ」と打ち明ける。

全国の落語学校が対戦する“落語甲子園”に3年B組から2人、代表を選んで出場することになった。落語芸術学園も立川学園も圓楽党学園も「新入生の減少」を理由に辞退し、1回戦の対戦相手は強豪の笑点学園。落協学園代表として出ることになったのは三三、そして落協学園にいた頃に憧れていた一之輔に一矢報いようと奮い立ったこみちだった。紀伊國屋ホールで行なわれた予選は観客100人の投票で勝利が決まるシステム。笑点学園の代表は宮治と一之輔で、落協学園は100対ゼロで惨敗する。はん爺は「この悔しさを忘れるな!」と、泣きながら生徒たちに拳で喝を入れる。

3日後、日本伝統落語学園の大徳寺理事長が落協学園に乗り込んできた。「笑点学園に負けるとは、桃月庵校長! 名門の落協が落ちたもんだな! ちゃんと教育してるのか!」 そう言ってはん爺のクラスに入ってきた大徳寺は、パパラギを発見して「お前は腐ったミカンだ!」と罵倒。怒りで槍を構えたパパラギを制するこみち。大徳寺が「女の落語家なんて要らないんだ! お前も腐ったミカンだ!」と言い放つと、こみちは大徳寺に向かってチェーンを振りかざす。すると大徳寺は校長に命じてこみちを退学に。

「こみち姉さんは僕のために立ち上がってくれたんだ! 今度は僕がこみち姉さんを守る!」と伝落学園の理事長室に乗り込んだパパラギは大徳寺に向かって「古典だって最初は新作だったんだ! 『試し酒』だって昭和初期の創作落語だ! 『船徳』は圓遊が長編の発端を滑稽噺にしたものなんだ! 新作は邪道じゃない! 落語の未来に必要なんだ! 女性の噺家が女性の目線で落語をやることで落語は発展する! 新作や女流を否定するお前は落語の敵だ! 了見」と熱弁を振るい、「僕に謝れ! こみち姉さんの退学を取り消せ!」と迫る。勢いに押された大徳寺はパパラギを腐ったミカンと言ったことを謝罪し、こみちの退学を取り消そうとする。だが、そこに警官隊が突入してきた。「僕は悪いことはしてないんだーっ!」と叫びながら連行されていくパパラギ。

翌日、朝のホームルーム。はん爺が「転校生を紹介する」と言って招き入れたのはパパラギとこみち。大徳寺が反省してパパラギを釈放させ、こみちの退学も取り消したのだという。「僕は腐ったミカンじゃない。もっと価値あるミカンになりたい。千両もあるミカンに。そんな新作を作りたい」「何言ってるの、『千両みかん』って落語はもうあるんだよ。でもラギちゃん、ミカンだけに一皮むけたね」 オチが決まったところで白鳥が「3年B組、はん爺先生!」と叫んで終了。懐かしの名場面へのオマージュの中に白鳥自身の熱い想いを込めた力作だった。三三といい白鳥といい、やっぱりこの会は最高だ。