見出し画像

広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.165

3月3日(火)「鈴々舎馬るこ勉強会“まるらくご爆裂ドーン!”#66」(2/27の会アーカイブ視聴)の演目はこちら


瀧川はち水鯉『恋愛小説家』
鈴々舎馬るこ『いぼめい』
鈴々舎馬るこ『本の実る木』
~仲入り~
ホンキートンク(漫才)
鈴々舎馬るこ『五人廻し』

ネタおろしの『本の実る木』は昨年度の落語協会新作台本コンクールの優秀作品。もうひとつの優秀作品『鬼斬丸』も馬るこは持ちネタにしている。今回の「爆裂ドーン!」1席目に馬るこが演じた『いぼめい』は一昨年の優秀賞作品で、今やすっかり馬るこの鉄板ネタとして定着。ちなみに作者は林家つる子の『スライダー課長』と同じく青山知弘氏
(=ピン芸人「どくさいイッチ企画」)。

『本の実る木』は、いつも馬るこが演じる「圧が強い爆笑ネタ」とは趣が異なる。ある男が美容室にやって来て「髪型はお任せで。あと、何か変わった話があれば聞かせてください」と言うと、美容師は「では、緑のアフロの話を」と、この美容室に通っていた出版社勤務の男の話を始める。彼の妻の頭に木が生えて緑のアフロのような葉が茂り、あるきっかけで豆本が実るようになった。男がその本の中身を読み、ベストセラーになると確信して勤務する出版社の部長に企画を持ちかけると、部長は「心配だ」と呟き、実は自分の頭にもかつて、本が実る木が生えたと打ち明け、重大な事実を告げる。真実を知った男は妻の身を案じ、慌てて帰宅するが、時すでに遅く……。

「という話なんです、部長さん」と美容師が“変わった話”を締めくくると、客である“部長”は、自らが知る“その後の顛末”を語って「その夫婦は今、どうしていますか?」と美容師に尋ねる……。しみじみとした余韻が残る、切なく愛おしい叙情ファンタジー。あえて言うなら“ナツノカモ風”な作品だ。

馬るこにとって『五人廻し』はかなり前に高座に掛けたものの納得がいかず封印していたネタ。今回、新たに“納得できる演出”を思いつき、この勉強会で披露した。

一人目の客は、「喜瀬川は一瞬来て寿司の上の魚だけ猛スピードで食べて酢飯を残して出ていった」と訴える男で、妓夫に“廓法”云々と言われて吉原の謂われを言い立てる場面では従来のものよりも詳細に述べつつ明治の娼妓解放令から昭和の売春防止法を経て以降のトルコ風呂~ソープランドとなる特殊浴場の細かい規定と店側の抜き打ち取締り対策の実態をリアルに語ってみせる。

二人目の高圧的な客は「喜瀬川はモナカのアンコだけを食べて外側を残して出ていった」と怒り、三人目の気味の悪い客は「喜瀬川は来たかと思ったら襖を開けて拙の顔をジッと見てピシャッと閉めて出ていった」という屈辱を語り、四人目の田舎者は「喜瀬川は鍋焼きうどんの汁だけ飲み干して出ていった」と言う。どの客も“まったく来てない”のではなく“来ることは来た”というのがミソ。五人目のお大尽の部屋にいた喜瀬川は利き酒をしたいと言って大量の日本酒を取り寄せて一口ずつ呑んでベロベロ。「なぜ一円渡して帰したいような五人目の客の部屋に喜瀬川はずっと居たのか」を明確にすると共に、喜瀬川が“ヘンな女郎”であるという側面も前面に押し出した演出で、馬るこらしい『五人廻し』に仕上がった。今後、寄席のトリで使えるネタだ。

#広瀬和生 #鈴々舎馬るこ #いぼめい #本の実る木 #五人廻し