「イラストAI」「AI絵師」に関する議論の個人的整理

イラストAIの話題、一旦落ち着いてきたと思う頃に再燃する、を繰り返してますね(余談ですがこれを書いている現在は「チャットAI」がめちゃくちゃバズってます)
いろんな意見を見て、考えて、時にはツイートもしたりして「イラストAI」についての自分の解釈を固めていっているんですが
ときどき「あれ?あの件についてはどうやって納得してたんだっけ?」ってなるので一度まとめておこうと思います

書き残しておかないと自分で考えたことすら忘れて、うっかりダブスタクソ親父になりかねない

■前提

・ここで言う「イラスト」や「絵師、絵描き、イラストレーター」等は、いわゆる「萌え絵」を指し、「プロアマ問わずそれを描く人」のことである
・同様に「イラストAI」も基本的には「NovelAI」や「Nijijourney」のような、そういったイラストを得意とするものを指す
・ここで語る「イラストAI」は法的に問題ないものとする

※これは現行の「イラストAIが完全に適法である」と主張したいのではなく、「仮に今のイラストAIが法的に問題あったとしても、遠くない将来適法なモノがでてくるであろう」ということと、適法性に解釈の分かれるイラストAIがこれだけ普及した状況を踏まえると、専門知識のない一介のオタクの立場でイラストAIの適法性について議論することは無意味だと考えるからです。仮に「将来に渡り適法なイラストAIを作ることは不可能」と論理的に証明されれば手のひら180度回転します

■自分のポジション

僕は「その主張の評価に、主張そのものの主旨が変わってしまうようなものでなければ、原則的に発言主の属性やポジションは加味すべきではない」という考え
つまり「誰が言ったか」ではなく「何を言っているか」で見るべきと思っているのですが
一応、自分の考えを示す前にポジションを整理しておきます

・オタク。二次元美少女大好き
・AIや法律の専門的な知識はない(なので技術的なことや違法性については考えない)
・絵は描けない、描かない

※正確には10年以上昔、描いてた時期もあるけど「オタクなら誰もが一度は通る道」レベル
・仮にイラストAIによってイラストレーターの仕事が全て奪われることが起きれば経済的にネガティブな影響を受ける


■イラストAIという「テクノロジー」は歓迎すべき

基本的にイラストAIは「便利なテクノロジー」という立ち位置だと思っています
ソロバンができなくても計算できるようになる電卓
英語ができなくても翻訳できるDeepL
そんなものと同列のものと捉えてます

それらのテクノロジー(ないしツール)は人類を豊かにしますし
それらを否定することは基本的に愚かなラッダイト運動だと思います

ややズルく極端な例えですが
僕が特定の病気を専門とする医者で、その特定の病気の特効薬が開発されたとき
「僕の仕事」と「特効薬の普及」どちらが優先されるべきという話なら間違いなく「特効薬」の方でしょう

上記の例えならば(結果僕が路頭に迷うことになろうとも)人類のために「特効薬の普及」を優先すべきですし
僕が「特効薬」を非難していたら「自分のことしか考えない醜い既得権益者」とされるでしょう

イラストAIを否定することはそれと同じことだと思うんですが
一連の議論を見ていると、イラストAIというテクノロジーを「地球環境のために人類を抹殺するマシーン」みたいなテクノロジーだと認識してる人がいるのでは?というズレを感じます

ところで、イラストにおける「AI使用」ってどこからと定義しているんでしょうか

イラストAIで生成されたイラストを人間が加工したものは?
生成されたイラストを参考に自分で描いたものは?
クリスタ等のペイントソフトの線画補正や「ぼかしツール」などのソフトウェアによる加工は?
デジタルデバイスを使ったイラストは?
インターネットを介してイラストを広めたり収入を得たりする行為は?
機械で製造されたペンで、機械で製造された紙に描いた絵は?
とキリがありません

ようは現在の大半の"絵師"はAIを使用しているので
明確な定義もないまま「AI使用」を禁止すると
極論「自分で作った紙と画材で描かれたもの以外は"AI使用"」となってしまいます

僕は上記のような「AI」と「イラストAI」の使用はグラデーションだと思っているので
数多くのテクノロジー(AI)の恩恵に与りながら「(イラスト)AI使用禁止」を主張している人たち、いったいどういう基準でAIを「白」と「黒」に分類してるのか聞いてみたいですね


■イラストAIは、AI絵師は"ズル"なのか

象徴的なツイートがあったので引用します

https://twitter.com/junkresistor/status/1578539964115357698?t=1X5jLfgAnxP7XCoDCFnFKg&s=19


「AIを使って絵を描くのは、カップラーメンにお湯を注ぐのと同等の行為であり、いくらそのカップラーメンが美味くてもお湯を注いだだけの人間をラーメン職人と呼ばないように、AI絵師を"絵師"と呼ぶのは相応しくない」

という趣旨のツイート

このツイート主やこれに賛同する人に聞いてみたいんですが
カップラーメン以下のラーメンしか作れない人間をラーメン職人と呼ぶのでしょうか

客は「提供まで時間がかかるうえ、値段も高いけど、クオリティはカップラーメン以下のラーメン屋」に行くでしょうか

「俺はこのラーメンを作るために十年修行してきたんだ!」と言われても、わざわざカップラーメンより不味くて高いラーメンを食べに行きませんよね

つまりこの主張は「AI絵師以下の絵しか描けない人間は”絵師”ではない」という主張なんですが、そこんところ理解して言ってるんですかね

そもそもなんですが
価値や評価、得られるパフォーマンスと"過程"は別物なんですよ

例えば「手作りの家具」は
・手作りならではの意匠
・いい意味での"ブレ"(人間味的なもの)がある
みたいなところに価値があるのであって
「出来上がるまでにメチャクチャ苦労した」ってこと、本質的には関係ないんですよね

イラストもそうで、そのイラストの評価に「どれだけ苦労したか」は加味するべきではないです

出来上がったものの評価に、「どれだけ苦労したか」を加味する価値観は
「手書きの履歴書じゃないと不誠実」
「エクセル作業でマクロを使うのはズル」

みたいなものと同一の価値観です
個人的にはそういった価値観は愚かで唾棄すべきものだと思いますし、そういった価値観に対する否定的なコンセンサスは"絵師"の人含めて、インターネット上に出来上がっていたように感じました

しかしながら、AIで生成されたイラストは、不誠実である、ズルであるという批判をインターネットで多く見かけました

それを作れるようになるまでの努力、想い、苦労がないから価値がないというのは
「手書きの履歴書」に価値を見出す価値観と同じベクトルのものだと思うんですが
AIイラストを批判する人たちが一貫して「手書きの履歴書は不誠実だ!」「マクロは手抜きだ!」という主張をしてきたんでしょうか
また、若い神絵師の"落書き"に対して「俺の絵のほうが積み上げてきたものが多いからいいイラストだ!」と本心から主張できてたんでしょうか

そのような思想の方なら「AIはズルい」という主張をしていても違和感ないですが
もし、そうでないとすれば自身の矛盾とどう決着つけていたんでしょうね


■とはいえ"絵師"はまだまだ大丈夫でしょう

イラストAIによって"絵師"の仕事が奪われる
なんて言われてますが、正直まだ大丈夫なんじゃないかと思います
理由は大きく分けて三つあります

①単純にクオリティの問題
やっぱり本当に「いいね」と思う絵って人間が描いた絵か、AI生成でも一定の技術がある人が手を加えた絵だなぁと感じます
(まぁ、素人なのでAI生成されたそのままの絵を「やっぱ人間が描いた絵のほうがいいよなぁ〜」って言ってる可能性もありますが)

以前こんなツイートをしました

単純に好みの問題かもしれませんが
昔からよく言われる「上手すぎる絵は抜けない」現象に近いと思います

今のイラストAIって「自動運転」に近いのかなぁと感じています
走る、止まる、曲がるみたいな基本的なことは人間以上の精度でできるんですが
「ここは見通しが悪いから徐行しよう」とか「あの車、ウインカー出してるけど直進してくるかもしれないから気をつけよう」みたいなことはできないじゃないですか
で、ドライバーとして本当に重要なのは「そういう部分」であるように
我々がイラストに求めてるのも、綺麗で正確な線や塗りではなく、「そういう部分」なんじゃないかと思うんですよね
まぁ遠くない未来、その辺にもAIが対応できるようになっていくんでしょうけど
(余談ですが「AIが抜けるイラストを描けるようになる」より「人類がAIのイラストで抜けるようになる」方が早いという議論があり、面白い視点だなと思いました)


ところで、AIイラストと人間のイラスト
見分けがつかなくなってきてるのって
実は「最近の"絵師"がAIっぽくなってきてる」からなんじゃないかと思うんですよね

ここ数年で"絵師"は急激にインフレしてます
二十年前なら第一線級の画力を持った絵描きたちがフォロワー1000人くらいで仕事も得れずに大量に燻ってる状態です
何故こんなに"絵師"がインフレしているのか
それは"絵師"になるまでのテンプレが出来上がったからじゃないかと思います

現代の多くの"絵師"は
イラスト上達のノウハウが共有され、流行りの絵柄を研究し、バズった教本や、さいとう某の動画等、同じハウツーで絵を上達させていきます
みんな同じ方法で絵の練習してるので、多くの絵描きとイラストAIがお互いに近寄ってる状態になっており、イラストAIとの差がより高速で縮まっている気がします


②なんだかんだみんな「情報を食ってる」

ラーメンハゲ、もとい芹沢達也の有名なセリフに
「ヤツらはラーメンを食ってるんじゃない。情報を食ってるんだ」
ってあるじゃないですか

なんかラーメンの話ばっかしてる気がする


こだわりの出汁が使われているラーメンであるという「情報」により、出汁の風味が消し飛んだ濃口ラーメンを「鮎の煮干しの出汁が効いてる」と有難がって食べる大勢の客を批判したセリフです

「過程には本質的には価値がない」みたいなこと書きましたが
実際には人間は「本質的ではないものに価値を見出してしまう生き物」です
例えそれが「手書きの履歴書」を有難がるのと同質のものであったとしても

最近マーケティングの分野でも吐き気がするくらい良く聞きますよね
「とにかく”ストーリー”が大事」だ、と

成分上はまったく同じ食べ物でも
なんかオシャレな名前とか見た目とか、有名な産地とか、生産者の想いとか、一流シェフ監修とか、そういう味にまったく関係ない情報によって、人間は「旨い」と感じてしまうんです

食べ物以外でも例えば、辻井伸行のピアノを評価するとき、「盲目であること」を加点するのは間違ってますし辻井伸行に対しても誠実ではありません
ですが大衆は辻井伸行の曲に「盲目であること」を加点してしまいますし、ソレを知った方が実際に良く聞こえてしまうのです

同じように絵そのものの評価には、本来誰が描いたとか、どんな技法が使われてるかとか、出来上がるまでどんな過程があったのかなんて全然関係ないんですよね
でも結局人間は「作者のネームバリュー」とか「この絵には〇〇さんの✕✕という意図が…」とか「〇〇さんの人格や趣味嗜好」とか「制作時間〇〇時間」とか「△△(キャラ・作品・属性など)といえば○○さん」みたいな、”ストーリー”に価値を感じでしまうんです

ようは「大半の人間は"作品"と"作者"を分けてみることができない」ということです

でもですよ
実際に「金払ってまで人に絵を描いてもらおう」って人って、そういう”ストーリー”の部分にまで価値を見出してる、作品と作者を分けれない人なんじゃないかと思うんですよね

そもそもなんですが、"絵師"がインフレしてる状況下でイラストAIの出現って、実はそれほど脅威じゃないと思うんですよね
絵描きの人口爆増し、画力もインフレして
「そこそこの絵が描けるだけの人」ってイラストAI出る前からどんどん食えなくなってたじゃないですか
元々「フォロワー」だけじゃなく”ストーリー”にも価値を見出す「ファン」を獲得できなきゃダメな時代になってたんですよ

なので、確かにイラストAIによって"絵師"として食っていけるボーダーラインは動いたかもしれませんが
その”幅”はみんなが考えているよりは僅かなんじゃないかと思います

https://twitter.com/sankasast/status/1564452273409114112?t=tEOO6ZsIvf1GWLpRO-eXfw&s=19

それはそうと
最近(観測範囲では)殆ど話題に上がらなくなったNFTですが、イラストAIが普及した今こそ、投機商品としてではない、本来のNFTについて考えるべきなんじゃないかなぁと思います


③イラストAIを一番上手く使えるのはイラストレーター
まあ、これはそのまんまです
イラストAIを「アシスタント」と考えればめちゃくちゃ優秀なツールです

例えば、元々多くのイラストレーターは様々な画像を参考にしながら絵を描いてたと思うんですが、AI君に頼めば一瞬で「参考画像」を何枚でも作ってくれるしアイデア出しもしてくれる
めちゃくちゃ頼りになるのに、僅かな月給で休まず働いてくれるアシスタント、それがイラストAIではないでしょうか
また、今のところ無加工AIイラストの多くは不自然な箇所が多いですが
それらを修正するのには絵を描くスキルが必要になります
いわゆる「AI絵師」をやるのも絵が描けるほうが有利なんですよね

ちょっと話しそれますが(将棋業界のこと全然知らず、雰囲気で話して申し訳ないんですが)棋士とAIの関係って面白いですよね
少し前、将棋のプロ棋士が対局中AIで「カンニング」して話題になったように、既にAIのほうが棋力は上になっています
それでもプロ棋士が絶滅したかというとそんなことはなく、直近でも藤井聡太のようなスター棋士が誕生しました
むしろ、まったくの外野からすると、ここのところ将棋業界が活気付いている雰囲気すら感じます

以前読んだ『リボーンの棋士』という漫画に
誰にも師事せず将棋ソフトとだけ将棋をしてきたため、「AI的」な手筋の天才中学生(高校生だったかも?)みたいなキャラクターがいて、印象的でした

AIによって今の棋士の棋力って一昔前と比べると格段にあがっているという話も聞きます
また、将棋におけるAIの役割は「練習相手・師匠」だけでなく
人類が倒すべき「ラスボス」としての役割も担っています
将棋に限らずですが、トップ棋士とスーパーAIの対戦って(将棋に全然興味ない自分の耳にも入ってくるくらい)毎回話題になりますよね

また、単純に「対戦相手」としてAIを活用してるだけじゃありません
この前たまたま映ってたNHKの将棋中継みてびっくりしたんですが

画面上部に戦況を現すゲージが表示されてるんですよね


「試合を見ててもどっちが勝ってるのかすら初心者にはわからん」
という将棋やチェスなどのマインドスポーツや、eスポーツの欠点をこれ以上なくわかりやすく解決しています


いつでもどこでも対戦できる「練習相手」として
あるいは打ち倒すべき「ラスボス」として
時には「解説者」として
「人間を超えたAI」という存在が、逆に業界の発展に貢献するいい例だなあと思います

イラストレーターとAIもそんな感じの共存の道、あると思うんですよね


■イラストAIの脅威は別にある

イラストAIの脅威と言うと「絵描きの仕事が奪われる!」ってのが声高に叫ばれますが
前述した通り、僕はそういう点での脅威は限定的かなと思っています

イラストAIの一番の脅威は「フェイクニュース」でしょう
AIで生成された画像による静岡の水害デマ画像が有名ですが
素人にはパッと見でわからないフェイク画像(ディープフェイク)が、これもまた"素人"に作れてしまうのってとんでもない脅威です

あるいは、そっくりな絵柄のイラストを本人以外が作れるのも恐ろしい
例えばAIで作られた「鳥山明」風の「孫悟空」を特定の政治的主張のために使えば
多くの大衆を「鳥山明はその特定の政治的主張に賛同している」と誤認させることができるかもしれません

正直僕はAIで生成されたフェイク画像が飛び交うこれからのインターネット社会で、無謬の人で居られる自信がありません


■まとめ

長々と書きてきましたが言いたかったことは以下の4点です
・イラストAIは「便利なテクノロジー」でありそれ以上でもそれ以下でもない
・"絵師"の大インフレ時代を生き残れる、生き残れてるイラストレーターならそこまでAIに仕事を奪われない
・イラストAIを使いこなすイラストレーターが最強
・フェイク画像の氾濫の方が圧倒的に脅威

そもそも「機械やAIが人間の仕事を奪う」って話、それこそ何百年前からありますけど、本当にそんな時代ってくるんですかね
自分自身「今後AIに奪われる仕事一覧」みたいなのがあれば、だいたい上位になってる業種で働いてるんですが
毎日「なんで令和の時代にこんなこと手作業でやってんだよ!」ってキレながら仕事してます

AI君、助けてくれ



最後に、ここまであえて触れなかったことなんですが

イラストAIに否定的な意見をもつ人の多くに
「一生懸命描いたイラストが素材として学習されて、素人に激ウマイラスト作れるのが許せん」
という考えの人が一定数いると思われます

これに関してここまで触れなかったのは
こういった意見はイラストAIの是非を語る上で論じるに値しない、いわゆる「お気持ち」でしかないからです
相応の客観的根拠もなく、「許せない」みたいな感情でなんらかの行為を断じるのは法治国家としてありえないです
(具体的な法的根拠をもとに"現行"のイラストAIには問題があると言う主張なら理解できます)


「違法アップロードサイトのイラストで学習しているからAIはダメ」という話も良く見ますが
法的にクリアでないイラストで学習するAIがアウトなら
(おそらく相当数いるであろう)法的にクリアでないイラストを参考に絵を描く人間ももちろんアウトなんですよね?
僕には両者の違いがわからないです

そして、そもそもの話なんですが
「俺のイラストを勝手に学習素材に使いやがって!」
って、ようは「人間の手を加えられたイラストがなければイラストAIは成り立たない」ってことですし、逆説的に「人間のイラストレーターの必要性」を証明してると思うんですよね

多分今の”絵師”たちって、もっと昔”絵師”の価値が高かった時代に
「”絵師”を目指そう!」と思った人たちだと思うんです

で、彼らが”絵師”になった現代において、”絵師”は大インフレを起こしていた
でも、自分では昔のような市場価値があると勘違いして、プライドを捨てられない
そんな感情から「イラストAIを非難する”絵師”たち」みたいな構図が出来上がるんじゃないかなあと思ってます
僕は”絵師”じゃないので想像ですけど、「現代の”絵師”の市場価値」を正確に把握している人ほど、イラストAIに否定的ではないように感じました


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