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#10 マグネティック/アース、ウインド&ファイアー

最初に買った洋楽のLPは、アース、ウインド&ファイアーの【エレクトリック・ユニヴァース】だった。

83年のリリース。前作の【創世記】あたりからセールスが下降線をたどっていた頃である。前作のシングルカット「フォール・イン・ラブ」はラジオでも頻繁に流れていて大好きだった。

全米チャートは低迷時期でも、日本でのアース人気は決して衰えていなかった。特に先行シングルの「マグネティック」は大量のエアプレイを獲得していた。

モーリス・ホワイトは、時代の音であるエレクトリックなシンセ多用のファンクサウンドを狙い、彼らの代名詞ともいうべきブラスセクションを外すという選択に出る。

評論家のレビューも、チャートアクションも振るわず、メンバーまでもがサウンドの転換に異論を唱えたという。しかし、私にとってアースとは「ファンタジー」でもなければ「レッツ・グルーヴ」でもなければ、9月には決してOAしないと決めている「セプテンバー」でもない。

私にとってアースとは「マグネティック」である。何故ならこの曲は踊れないからである。アースで踊っていた世代には申し訳ないが、私の解釈ではEW&Fはダンスバンドではない。【地球最後の日】や【太陽の化身】が好きな私にとっては、聴きやすいファンク・アンサンブル・グループである。

ファンクで体を動かすのは勝手だが、決してダンスに特化した音楽ではない。基本的にはR&Bミーツ・ジャズである。意見には個人差がありますので、ご容赦いただきたい。

モーリス・ホワイトはジャズの聖地シカゴで青春を過ごし、ラムゼイ・ルイスの弟子であり、出自はコテコテのジャズドラマーなので、ディスコの御仁ではない。

モーリスはソングライトにかかわっていない「マグネティック」を、低迷脱却・起死回生の切り札として世に放ったのだと思う。ファンクバンドとして今一度原点に立ち返ったのだ。チャート成績や世論は思うような結果にならなかったが、わたしにとって「マグネティック」は今でも83年の洋楽の空気感をよみがえらせる名曲として存在している。サビコーラスの美しい掛け合いの高揚感は、安易な口ずさみを拒み黙して聴くことの尊さを気づかせる。

70年代に比して複雑化した近寄りがたいグルーヴが、体は踊らないが心を躍らせることに成功している。EW&F稀代のファンクチューンと申し上げておきたい。

このアルバム後、バンドは活動休止に入り、モーリス・ホワイトは名作ソロアルバムをドロップし、皮肉にも「アイ・ニード・ユー」はチークの定番となる。フィリップ・ベイリーはフィル・コリンズのプロデュースで「イージー・ラヴァー」の特大ヒットを飛ばす。実質的に【エレクトリック・ユニヴァース】は、自らの輝けるキャリアに引導を渡す一枚となった。


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