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【夢幻回航】20回

アイスクリームの移動販売車は、ポップなデザインの牽引車だった。
屋根は水色で、外壁はごく薄い黄緑で、デザイン性の良い文字で店の名前が書かれていたが、世機のところからは読み取ることが出来なかった。
沙都子は何も考え無しに不用意に近付いていったが、世機は何時も初めての場所や店に行くときは慎重だった。

世機は店に感じていた違和感が何なのか、少しだけ気が付いた。
沙都子のあとから近付いて見ると、店内にも付近にも、店員の気配すら無かった。沙都子も店員を探している。
「店員さん!」
沙都子は声をかけてみたが、返事は無かった。
「店員さん、居ませんか?」
さらに大きめの声で、沙都子は呼びかけた。
裏に回って声をかけたが、だれもいる様子は無かった。

さすがに沙都子も様子がおかしいと気が付いた様子で、世機の隣に来て、首をかしげている。
世機は、自分の嫌な予感が当たったのではないかと暗い気分になった。
今回自分たちが調べている事件とは関係ないかも知れないけれど、怪異はどこにでも潜んでいるものだ。今回もばったりと行き当たったのかも知れない。

世機は相手の気配を探ってみたが、霊感にはなにも感じなかった。
どんな相手だろうと迎え撃つ準備は出来ている。
世機はそのつもりで毎日気を配り、鍛錬してきた。
今回はいつもと違う違和感が付きまとっている。
その時、何かがピンときて、脳裏に映像が走った。
世機は守護神と言っていたが、彼には丸顔の少女が取り憑いているのだ。
その霊の顔が脳裏に一面に浮かび上がり、その意味を理解するよりも早く、世機の身体が反応していた。

沙都子の身体をひっつかみ、思い切り後ろに飛び下がった。
そして沙都子を押し倒し、自分はその上に覆い被さった。
沙都子が何が何だかわからないが、世機が理由も無くそんなことをしないのを知っていたので、されるがままにしていた。
30秒くらい経ってからだったか、轟音が響き、炎とともにアイスクリームの屋台が黒煙を上げて吹き飛んだ。
大きな破片が世機の上にも落ちてきたが、幸いにも大した怪我も無く、爆音が治まってから立ち上がって様子を確認することが出来た。

世機は沙都子の手を引いて起き上がらせる。
沙都子は突然の出来事に、呆然としたがすぐに立ち直って武器を手にした。
こういう時の彼女は、普通の女子とは違って頼もしい相棒だった。

世機も気配を探りながら、さらに辺りを見回して、戦闘に備えた。
あくまでも素の構えである。こういう時は構えを取ると素早い反応が出来ない。だから自然体に構えるのだ。
ゆっくりとこちらに向かってくる影を見たときに、二人は注意をそちらに向けた。

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