【22】 鉄道における感染拡大防止

企業向け新型コロナウイルス対策情報配信 2020年6月30日

鉄道を運営する、あるいは利用する企業の経営者・担当者のみなさま、不特定多数の人が利用する駅や車内でも感染拡大リスクを下げることは可能です。それぞれの立場で協力しましょう。

1. 課題の背景:

新型コロナウイルス感染症は人と人との接触を通じて拡大することから、満員電車を心配する声は根強いです。3月9日に政府の専門家会議が公表した考え方では、「満員電車では、①(換気の悪い密閉空間)と②(人が密集していた)がありますが、③(近距離での会話や発声が行われた)はあまりなされません。しかし、場合によっては③が重なることがあります。」と例示されました。

4月から5月にかけて、米国ニューヨーク州で行われた抗体検査では、公共交通機関で働く人の13.4%が陽性で、職種別の陽性率は駅員が17%、車掌が11%でした。日本国内では、乗務員(車掌)や駅員の感染例がいくつか報道されたものの、集団発生に至ったケース、乗客が濃厚接触者に該当したケースはほとんどないようです。車内や駅に不特定多数の人がいても、会話の相手が少なく、短時間であれば感染拡大のリスクがあまり高くならないことは対策のヒントにもなります。

5月には鉄道事業者向けのガイドライン第1版が、6月には利用者向けの呼びかけが、それぞれの関係団体から国土交通省の協力を得て公表されました。これらを踏まえて、鉄道事業者・利用者双方のポイントをまとめます。

2. 企業でできる対策:

○ 鉄道事業者は、利用者向けに、車内や駅での
 飛沫感染・接触感染の防止を図る
○ 鉄道事業者は、従業員向けに、体調不良の状態での勤務、
 職場を介した飛沫感染・接触感染の防止を図る
○ 通勤や出張の利用者は、飛沫拡散防止と混雑緩和などに協力する

2-1. 鉄道事業者が行うこと(利用者向け)

□ 車両と地域の特徴に応じて、ドア開放または空調・換気装置によりこまめに換気する
□ 乗客同士の距離を確保できるよう、混雑状況等の情報を提供する
□ キャッシュレス決済の利用を促すことで、自動券売機などに手が触れる機会を減らす
□ 車内と駅の定期的な清掃の中で、複数の人の手が触れやすい場所を消毒する

車内での飛沫感染防止策は、運行する車両と地域の特徴を考慮する必要があります。

通勤電車として比較的短距離の輸送を担う車両には乗降用ドアが1両の片側に3〜4か所ずつあり、悪天候で窓が開けられなくても数分ごとの停車時にドアが開くことで換気が行われます。ただし、地域によっては、冷暖房の効率を高めるため停車駅でドアが自動で開かず、乗降客がボタンを押した時だけ開く設定になっています。気候や利用動向を含めて設定変更をご検討ください。

新幹線など長距離輸送を担う車両の場合、気密性を保つため窓は開けられず、ドアは1両の片側に1〜2か所ずつで、停車間隔が濃厚接触の目安である15分を超えることも多くなります。このような車両では、定期的に整備を行い、空調・換気装置を確実に機能させることが大切です。

車内や駅における乗客同士の距離を確保するための取組としては、例えば利用者がスマートフォン等を使って、通勤電車では車両ごとの混雑状況について、新幹線などでは座席指定の状況について知ることができるように環境を整備することで、空いている場所へ誘導しやすくなります。

駅の窓口では、もともとアクリル板の仕切りがあればそのまま使えます。他には、待つ乗客の立ち位置の間隔を広げて指定し直すことなどが考えられます。ICカード等を用いたキャッシュレス決済も、現金、きっぷ類、自動券売機などを複数の人が触る機会を減らすことが期待できます。

車内・駅とも、接触感染防止のための消毒方法は、複数の人が触る手すりや機器を中心に、材質に応じて界面活性剤入りの洗剤、アルコール消毒液、次亜塩素酸ナトリウム溶液のいずれかを用いての拭き掃除が原則です。定期的な清掃に胃腸炎を起こすノロウイルスを念頭に置いた消毒を取り入れている場合、特に新しいことをする必要はありません。

2-2. 鉄道事業者が行うこと(従業員向け)

□ 風邪症状がある状態での勤務を避けるための呼びかけを繰り返し、
始業前点呼等でも確認する
□ 休憩所などで「3密」(密閉・密集・密接)と共有備品を減らす

体調不良の状態での出勤及び勤務を避け、安心して休めるようにすることは、新型コロナウイルスに限らず様々な感染症の拡大防止策としても、また作業安全と輸送安全の確保の観点でも大切です。従業員に周知した上で申告してもらうほか、運行乗務員など始業前点呼がある場合はそこでも確認しましょう。

運転士や駅員が宿泊勤務をする際の設備を含め、休憩所などで「3密」(密閉・密集・密接)になっていないか、複数の従業員が手を触れる備品がないか、見直しましょう。

2-3. 利用者が行うこと

□ 風邪症状がある時は、できるだけ利用を控える
□ マスクを着用し、会話は控えめにする
□ 車内の換気に協力する
□ 混雑を避けた時間帯・車両を利用する

従業員だけでなく利用者も、風邪症状が明らかな時は、できるだけ利用を控えましょう。

ほか3点は、鉄道連絡会と国土交通省による「お客様への3つのお願い」に沿って解説します。

まず、マスクの着用について、ここでの目的は声を出す時に飛沫を飛ばさないことですので、サージカルマスクやN95マスクである必要はなく、洗って再利用できる布マスクで構いません。

次に、車内換気に関しては、前述のように、車両や地域に応じて窓・ドアの開放と空調・換気装置を併用しています。また、同じ車内に様々な考えを持つ人が乗り合わせる公共交通機関でもありますので、窓や換気装置の設定を乗客の独断で変えることは控え、鉄道事業者の方針に意見や要望があれば然るべき窓口に伝えましょう。

最後に、混雑を避けた時間帯・車両の利用については、遠隔勤務や時差出勤ができるかどうかが強く関係します。従来あまり取り入れてこなかった企業においても、次の流行への備えとしても、適用範囲の拡大をご検討ください。

3. 関連情報リンク:

1) 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 「新型コロナウイルス感染症のクラスター(集団)発生のリスクが高い日常生活における場面についての考え方」 (2020年3月9日)

2) YouTube - ニューヨーク州知事の発表(2020年5月9日)

3) 鉄軌道事業における新型コロナウイルス感染症対策に関するガイドライン(鉄道連絡会)

4) JR東海 新型コロナウイルス感染症対策に関する取組み

5) 国土交通省 鉄道利用者の皆様へ(新型コロナウイルス感染症対策の利用者向け情報)

6) 日本経済新聞 (2020年6月12日)

4.資料リンク

本資料のPDF
本資料の動画

・本資料の資料↓(衛生委員会に編集してご活用ください)

文責:田原 裕之(産業医科大学 産業精神保健学)
監修:川島 正敏(東海旅客鉄道 東京健康管理室)

※本文章は、産業医有志グループ(今井・櫻木・田原・守田・五十嵐)で作成しました。厚生労働省新型コロナウイルス対策本部クラスター対策班・和田耕治先生(国際医療福祉大学・公衆衛生学教授)のサポートも受けております。
今後も経営者・総務担当者向けに必要な感染拡大防止策情報を随時配信させて頂きます。本情報は著作権フリーですので、ぜひお知り合いの経営者に拡散をお願いします。
※本内容に関するご意見・ご要望は、covid-19@ohsupports.com までお寄せください。
※これまでに配信しましたバックナンバーは、http://www.oh-supports.com/corona.htm をご参照く
ださい。
※動画配信も始めました。下記サイトをご参照ください。
https://www.youtube.com/channel/UC4lRPnKfYPC6cT1Jvom5VbA



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