【32】 企業における濃厚接触者の調査における留意点

企業向け新型コロナウイルス対策情報配信 2020年10月12日

企業の経営者・担当者のみなさま、新型コロナウイルスの感染拡大防止を図るにあたり、個人情報・プライバシーに関する情報の取り扱い、当事者の意向の尊重は大前提です。今一度留意点を確認しましょう。

1. 課題の背景:

本情報配信の第27回「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)の活用」でも取り上げたように、医療機関で患者が新型コロナウイルス感染症と診断された場合、感染症法に基づき管轄の保健所に報告され、接触確認(contact tracing)の調査及び濃厚接触者への対応が行われます。接触確認は結核や麻疹などを対象に昔から行われている手法で、患者が企業の従業員であれば、勤務先の健康管理担当者はほぼ確実に調査への協力を求められます。

報道などでもよく聞く「濃厚接触者」は、患者と接触した時期と状況により決定します。現在の主な目安は「発病した日の2日前以降」に「1メートル以内かつ15分以上の接触」があった場合で、さらに接触場所の換気などの環境条件、マスクなどによる防護の状況を加味します。

そこで今回は、ふだん医療関係にあまりなじみのない方でも、業務外を含む行動履歴の聴取、調査結果に基づく検査や休業などの措置が適切に行われるよう、企業において濃厚接触者を調査する際の留意点についてまとめます。

2. 企業でできる対策:

○ 感染した従業員、濃厚接触者の調査対象となる従業員の
 個人情報・プライバシーの保護について、あらかじめルール化しておく
○ 実際の調査は、保健所の方針に沿って行う

2-1. ルール化

□ 自社の健康情報等の取扱規程に準拠する
□ 生の情報を直接扱う担当者は必要最小限とし、できる限り守秘義務を持つ者とする
□ 社内で情報を伝える範囲は必ず本人に確認して同意を得ることとする
□ 同意を得ることが難しい場合は、保健所を交えて対応を相談することとする

実際の事例に突然遭遇した場合など、慌てて不適切な情報の取扱いをしてしまうおそれが大きくなります。あらかじめルール化しておきましょう。

「働き方改革」の一環として2019年4月に改正された労働安全衛生法第104条では、事業者に対し、労働者の心身の状態に関する情報の適切な取扱い、実質的には健康情報等の取扱規程の策定が義務づけられました。濃厚接触者の調査もこれに準拠する必要があります。

感染と診断された従業員、濃厚接触者の調査対象となった従業員について、氏名、所属、受診した医療機関などの固有名詞が含まれる「生の情報」を直接扱う担当者は必要最小限とします。保健師のように守秘義務のかかる有資格者がいればその人が、それ以外では守秘義務のかかる業務(例えば、健康診断の事務またはストレスチェックの実施事務従事者)の経験がある人が候補となります。人事権などの影響力を持つ方がどの情報にアクセスできるようにするかについても、事業者としての責任と当事者にとっての伝えやすさの両方を加味して設定します。ストレスチェックを実施している企業では、その実施体制が参考になります。

生の情報に限らず、社内で情報を伝える範囲は必ず本人に確認して同意を得ることとすること、同意を得ることが難しい場合は保健所を交えて対応を相談することとすることについても、ルールに盛り込んでおきましょう。

2-2. 実際の調査

□ 感染と診断された従業員から報告を受けたら、無理のない範囲で、
職場関係の接触者をリストアップしてもらい、調査対象者の候補とする。
□ 誰が感染したか、担当者から調査対象者に伝えることについて、本人に了解を求める。
□ 調査範囲・内容の最終決定、調査結果に基づく対応は、保健所の方針に沿って行う。

従業員の感染が判明した場合、症状の強さにもよりますが、勤務先は保健所から通知される前に直接報告を受けることも珍しくありません。その場合、本人の無理のない範囲で、職場関係の接触者をリストアップしてもらい、調査対象者の候補とします。

また、調査対象者には誰が感染したかを知らせる必要が生じますので、担当者から伝えることについて、感染者本人の了解を求めます。

その内容をもとに保健所と相談し、調査の対象者と内容を決定し、調査を開始します。調査結果についても保健所と相談し、特定された濃厚接触者への対応を行います。

なお、感染と診断された従業員、あるいは濃厚接触者の調査対象となった従業員とも、保健所から指定された範囲を超えた措置については、極めて慎重に考える必要があります。

例えば、新型コロナウイルスのPCR検査は、ウイルスにさらされた可能性のあるエピソードが、いつ、どのようにあったのかなどの情報を踏まえて、対象者・時期を決めたり、結果を解釈したりする必要があります。勤務先の上司が検査を受けるよう指示したとの事例も散見されますが、漠然と検査を受けさせて陰性だったとしても、感染していないことや治癒したことの証明になりません。また、保健所が指定する行政検査であれば自己負担は生じない一方、自由診療での検査には1回数万円の費用がかかることが多いです。

賃金支払いの観点では、保健所が対応した結果、入院などの措置により従業員が出勤できなかった場合、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」には該当せず、休業手当を支払う必要はありません。他の私傷病で休んだときと同じ扱いとなります。それを超えて休ませた場合は、休業手当を支払う必要が生じます。

3. 関連情報リンク:

1) 和田耕治「産業医のための、企業が自主的に『濃厚接触者』を特定する際の注意点」日本医事新報社 Web医事新報 No.5032 【識者の眼】

2)日本渡航医学会、日本産業衛生学会 職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド 第3版 (2020年8月11日)

3) 国立感染症研究所 新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2020年5月29日暫定版)

4) 厚生労働省 事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き

5) 厚生労働省 新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)令和2年8月26日時点版

4.資料リンク

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動画


文責:田原 裕之(産業医科大学 産業精神保健学)

※本文章は、産業医有志グループ(今井・櫻木・田原・守田・五十嵐)で作成しました。厚生労働省新型コロナウイルス対策本部クラスター対策班・和田耕治先生(国際医療福祉大学・公衆衛生学教授)のサポートも受けております。

※本文章は、産業医有志グループ(今井・櫻木・田原・守田・五十嵐)で作成しました。厚生労働省新型コロナウイルス対策本部クラスター対策班・和田耕治先生(国際医療福祉大学・公衆衛生学教授)のサポートも受けております。
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