ISBNからのメッセージーー倒産する出版社に就職する方法・第20回

978-4-86680-900-7

昨日、フォレスト出版から送られてきた、三五館シンシャ2018年9月新刊『買いものは投票なんだ』のISBNです。
下4桁にご注目ください。
「おっ、900!」
思わぬ吉兆に、私は興奮しました。
これほどの興奮は先日、ガリガリ君コーラ味を食べていたらアタリ棒が出て以来です。なんという僥倖続きでしょう。

この数字になぜ私が興奮したのかに触れる前に、まずこのISBNとは何かについて説明せねばなりません。辞書的に説明すると次のとおりです。
「ISBN(International Standard Book Number)は、世界共通で図書を特定するための番号。国際標準図書番号。各種の書籍、CD、カセットテープなど、出版社から刊行されて出版取次・書店で流通する出版物に適用される」

つまり、書籍にあてがわれた整理番号みたいなもので、原則的に書店に流通している書籍にはすべてこのISBNがつけられています。
なんでもいいので、本屋で買ったお手許の書籍の裏を見ていただくと、必ずこの数字が入っているのがわかります。(さっき突然、貴宅を訪問した二人のご婦人からお受け取りになられた小冊子には入っていませんので注意)

ちなみに「978」は全世界共通の接頭記号であり、続く「4」が日本(言語圏)を表します。ハイフンで区切られたそのあとの数字が出版社記号で、さらにハイフンのあと本ごとの書籍記号が続きます。ラストの1桁は「チェックディジット」(検査数字)となります。ISBNの数字はすべてこの構造です。

わが三五館シンシャは「発売」をフォレスト出版に委託し、全国に書籍を流通されています。そして、ISBNもフォレスト出版のものをお借りしていて、刊行物ごとにISBNを知らせてもらっており、その9月刊行分が届いたというわけです。

さて、三五館時代、本ごとに割り当てられるISBNの書籍記号に執心している男がいました。
はい、私です。

2013年、三五館が積み重ねた刊行物は600点に近づき、ISBNの書籍記号も590を超えていました。「600」という切り番が近づいてきたのです。編集部の責任者であった私にとっても大きなチャンス到来です。

切り番、獲りたい……。

しかし、「切り番、俺に頂戴ね」――そんなことは言いません。切り番が欲しいなんて、子どもじゃないんですから。

ホテルの大浴場とか銭湯とか入るじゃないですか。ふとジェットバスのところ見ると誰もいない。
「おっ、あいてる」
でも、体を洗って、真っ先にジェットバスの噴射口に直行するわけにはいきません。子どもじゃないんだから。
で、いったん浴槽に入って、「うぅ~」とかうめいて一呼吸置いてジェット噴射の吹き出し口に向かうじゃないですか。みんな。誰しも。
「うぅ~」とかうめいてジェット噴射口のところに行こうとすると、向こう岸にいる親父もどうやら噴射口を虎視眈々と狙っているような、いないような……。
どうします?
私が噴射口に向かった瞬間、あの親父も動き、一足先に噴射口にたどり着かれでもしたら。
万一の事故のこと考えたら怖いよね。
だから、絶対あの親父に私が噴射口を狙っていることを悟られてはいけないのです。
ジェット噴射口? 行かない行かない、子どもじゃないんだから。俺はこうして湯に漬かってるだけ。
そういう顔をしつつ、噴射口Getするチャンスをうかがうじゃないですか。みんな。誰しも。

そんな感じで、編集部員たちにバレないよう泰然としつつ、ISBN書籍記号の切り番Getに狙いを定めていた私。

三五館ではISBNが一覧化されたファイルがあり、担当者は書店用の注文書を作成するタイミングで、ISBNの欄に書名を書き込むのです。その時点で、そのISBNがどの本のものになるかが決定します。
一応、刊行される順番にISBNを取得していくことになっているものの、取得後に刊行の時期がずれることも往往にあり、刊行順にはなっていません。いわば早いもの勝ちなのです。

書籍記号が595番を超えたあたりで、どうやって切り番を確保するか思索を巡らせます。
当時、三五館の年間刊行点数は30点ほど。100単位での切り番を獲るためには、3.3年を要することになります。つまり、この機会を逃せば、次の切り番まで3.3年待たねばなりません。

なんとしても、切り番、獲りたい……。

ただし、「600」番に私の担当作品名を書き込めるのは、きちんと599番までの書名が埋められた段階です。それより早すぎても、遅すぎてもダメです。

何週かごと、メドが立ったものからISBNファイルに書き込まれていく刊行予定作品たち。

978-4-88320-596-7  『村上春樹いじり』
978-4-88320-597-4  『山岳気象予報士で恩返し』

あと2つ……。
どうやら私のほかにジェット噴射口を狙っている編集部員はいないようです。しかし、油断は禁物です。
そして、また数日後――。

978-4-88320-598-1  『賢者の本』

いよいよピースはあと一つです。
切り番は、もう手の届くところまで来ています。
599個目のピースが埋まった瞬間、「600」番は私のものになるのです。
あと一歩です。
(つづく)

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