さよならとしまえん
としまえんなのに豊島区じゃない。
都会からアクセスいいのに田舎っぽい、としまえん。
花火を復活させたとしまえん。
プール出来ない冬の時期、釣り堀にしたとしまえん。
そんなとしまえんが大好きだった。
としまえんがもうすぐなくなる、ときいて寂しかった。
毎週花火があがっていたころに
何度引っ越しても、大人になっても、としまえんはなんとなく心のそばにいた。
私が小さい頃、としまえんは夏、毎週のように花火をあげていた。
いつもは家にいる夜の時間、家族で繰り出して、近所でみるのが楽しみだった。
より良い穴場スポットを求めて、まだ車通りの少ない道をうろうろとする夕暮れ。
見知らぬ人と、通りがかりに会う。
ここだという場所に立つとそれがまた人を呼び、一期一会の集団が出来上がる。
「見られますかねー?」と見知らぬ人とポロポロ会話する母。
どーーん。
一発目の花火が上がり、どよめきが漏れる。
見事に木がジャマで見えない。
笑ってしまう。ぞろぞろとちゃんとみえる場所を求めて集団が移動する。
そんな瞬間が不思議と楽しかった。
としまえんの中で観たこともある。
きっと今までで一番大きな花火。
隅田川とかに比べたら、玉は小さいのだろう。でも近い!
火の粉が降ってくるんじゃないかと思うくらいの空一面の花火。
あんな花火は、もう二度とみられないんじゃないかと思った。隣の父が山のように大きいと思っていた時代だ。
私はまだ小さかった。
増量!できたころに
小学生になって父とお友だちと、行ったとしまえん。
その頃は、絶叫系が大流行だった。
今はなきピンクのトップスピンが売り出し中で、長い行列が出来ていた。鉄棒の空中前回りのごとくグリングリン縦に回りながら鉄棒自体も回転して、きゃぁーっの声が四方八方から飛んでくるやつ。
私は縦にはめっぽう弱いので、一度くらいしか乗ったことがない。それよりも主に横回りの、メガダンス(回って回って回るやつ)やら空中ブランコ(夢の空飛ぶブランコ)が大好きだった。
特筆すべきは一時期、「増量」システムがあったこと。
ご飯おかわり自由と、ちがう。
アトラクションに乗り終わったあと、座席から降りずに「増量!!!」と高らかに叫びながら券をあげると、そのままもう一回乗れる、という奇抜きわまりないサービスだ。
友だちと私は、ブランコで「増量」と叫びまくって、何度も乗っていた。
ディズニーとかじゃありえない。
だいたい、「増量!」って叫ぶシチュエーション他にある!?
けど、その抜けている感じがとしまえんらしくて、そういうとこ好き。
ハタチの頃に
成人式の会場がとしまえんだった。
式典の会場はプールの更衣室。
普段並んでいるロッカーを、どこに片付けたか、私は知らない。UFOキャッチャーも、何もかもとっぱらわれて、ひろーいスペースの前の方にパイプ椅子。
しかしながら、そこにたどり着くまでに顔顔顔。
そこから懐かしい顔を見つけては立ち止まり、立ち話をし、着物を誉めあい、写真を撮る。
一歩進んで立ち止まり、一歩進んで立ち止まり、特設ステージにたどり着いた頃には、もうお偉方の話は一通り終わっていて、スタッフをかってでた子達の感想を聞くという、非常に締めに近いものが行われていた。
だから、私の成人式のイメージは、厳かとは程遠いわちゃわちゃしたものなのだ。
会場には昔好きだったひともいて、変わらぬ姿に嬉しくなって、写真を二人で撮った。甦る甘酸っぱい青春の日々。
ちなみに、スマホ、写メなんてものがなかった時代、帰ってからデジカメデータをパソコンに移そうとして失敗し、全部消えて……泣いた。
新婚のころに
実は一時期、としまえんのめちゃめちゃ近くに住んでいたことがある。どれくらい近いかというと、窓を開けて静かにしてると「きゃーっ!」という悲鳴がかすかに聞こえるくらい。
このころ、二人で夜中、何時間も散歩していた時期があった。としまえんの裏側を、歩く歩く。
すぐ近くが住宅街。
寒い日にプールのそばを通ると、ああ、ここ釣り堀なんだなと、不思議な気持ちになった。
オフシーズン釣り堀にするって、斬新すぎない!?水着のお姉さんいたところに、釣りのおじさんたち並んでるんですよ。
いやいや、お姉さんたち浮いてたとこに、魚泳がしてるんですよ。
それオッケーしたとしまえんのお偉方、すごいな。
娘と行ったころに
娘と良く行っていたのは、アソブラボー。
アソブラボーは、平日でも人がいた。としまえんはがらがらで、ベビーカー押してお昼寝させてた。そんな思い出。
娘が2歳だった頃、地元のベビースイミングに通っていた。ある日、必死になって娘に水着オン服着せて私もおんなじようにして、いそいそと行ったら、
スクールの前に来て、異変に気づいた。休みやー。
呆然とする母と、プール入る気満々の娘。
気づいたら電車に乗っていた。
目指すはとしまえん。
完全に競泳水着だし、浮かれた浮き輪もなく、お弁当持参で、本人たちは浮きまくりながら、としまえんプールで水を楽しんだ。母は若干(え、プールって、意外と高いのね……まぁ、遊園地だしね……そうだよね)と青くなっていたのは、内緒である。
いいんだよ。いいんだよ。はじめての波のプール、はしゃいではしゃいでかわいかったからいいんだよ。泣いてない。
おわるときいたころ
ああ、ほんとに終わっちゃうんだなぁ。スカイツリーになりそうとか、いよいよダメかとか、冗談みたいに思ってたけど、ほんとにしまっちゃうんだなぁ。
それで、この前家族で行って来た。
入り口入って、プールに向かう道で、ジェットコースターに並ぶ列をみた。ソーシャルディスタンス保っているので余計にだと思うが、ジェットコースターにできた長い行列をみて、ぐっときてしまった。
あー、私が小さいころにみた風景だ。
増量!と叫んでいた頃の。
お金いれると動くパンダの背中に乗る娘。
懐かしさがあふれでる。
としまえんに来たら、カレー。
なぜかめちゃめちゃ本格的なカレー。
バターチキンカレーと、熱々のナンがべらぼうに美味しい。
香ばしい香りのナンを、カレーに浸して食べると、やっぱり美味しくて、このお店だけでも続けてほしいと願ってしまう。
親子がいて、若者がいて、カップルがいる。
遊園地らしいきらめきがそこかしこにある。
終わらないで。
娘はまだ3歳なのに。
ハイドロポリスも滑れないし、フライングパイレーツも乗れないのに。
これから同じ場所を歩くかもしれなかった小中学生の娘を見たかった。
もしかしたら、デートの感想とか聞きたかった。
ほんとに終わってしまう前に、もう一度くらい行きたいなぁ。
ありがとう。
としまえん。
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