直系家族ではないドイツ

エマニエル・ドット『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』(堀茂訳 文藝春秋 2022)に以下の記述があります。

中東、中国、北インド、ロシア、セルビア、あるいはイタリア中央部といった、共同体家族が完全に定着したいくつかの極の間に、確かに父系制であるけれども、複数の核家族を結びつけるだけに甘んじていて、共同体的な大家族の発生は確認できない、そういった親族システムの占める広大な空間の存在がはっきりと見えてくる。まず、モンゴルからウクライナまでの草原地帯が、複数の核家族が父系的絆で結びつけられている地域として、他のどこよりも遥かに大きな地理的ブロックを成している。

(上 91-92頁)

これを読んで、マルクス・ガブリエル生まれ育った街である「ジンツィッヒ」を連想しました(『マルクス・ガブリエル新時代を生きる「道徳哲学」』NHK出版新書 2021 の122頁-135頁に紹介されています。

ジンツィッヒ(ベルギーとルクセンブルクとの国境に近い)にあるヘレーネンベルクという名の(おそらく、カトリック聖人の名前であると推測しています)通りの家は全部、親戚であり、ガブリエルは、この通りのほとんどの家で、過ごしたことがある、と述べています。

そして、〈この町は徹底したカトリック的環境にありました〉。つまり、一般的に知られているドイツ社会の特徴である、プロテスタント、直系家族(相続が一人だけに限られる)から外れています。

ここからは想像なのですが、これは直系家族と「複数の核家族を結びつけた共同体」が並立しているのではないでしょうか。

ヘレーネンベルク通りにはすべてが親戚である、という「複数の核家族を結びつけた共同体」という状態にあります。しかし、各核家族は何代かにわたって受け継がれていたでしょうから、相続は分割しておらず一人が大部分を受け継いでいたように考えられます。


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