玄関の電灯
だらだらと画面と戯れていたらもう深夜二時半を回っていた。すでに体も睡魔に根を上げている。
歯を磨こうと階段を降りていくと、何やら1階から明るい光が差し込んできている。
すぐにそれは玄関の電灯がついているせいだと気づいた。恐らく、帰りが遅くなるであろう兄を気遣って母がつけたままにしておいたのだろう。
洗面台の横には兄のバスタオルと寝巻一式が置かれている。
それらは結局、兄が未だ帰宅していないことを意味している。
どうせ今ごろ、あいつは母親に連絡のひとつも寄越さないで、友達か彼女の家だか、あるいはホテルだか知らないが、気持ちよくベッドで眠っていることだろう。
玄関の電灯はきっと朝までつきっぱなしだ──いや、それなら今のうちに消しておいた方がいいだろうか。
……まあ、どうでもいいか。
扉の開いた隣の真っ暗な部屋には目もくれず、自室の布団に体を投げ出した。
こういう時、社会人にもなって親に余計な心配をかけるんじゃないと、僕の口から言えれば良かったのだが。
生憎、生意気な口を叩けるほどこの兄弟の間の距離は小さくない。昨日だってお互い家に居たのだが、一度たりとも言葉を交わしていない。
そんな状態が、いつから続いている?僕が反抗期の時……いや、兄が反抗期の時?いずれにせよ十年は下らない。
家族って、兄弟って──そんな思考もやがて暗闇の中へ消えていった。
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