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「小さな本屋さん」

前に住んでいた家の近くに小さな本屋さんがあった。
高架の下にあって、店内を三十歩くらいで周れる小さな本屋さん。
おばあさんが一人でやっていて、文庫フェアの時期になると、店の外に椅子を出して座りながら、文庫フェアのポスターをセロテープで長い時間をかけながら貼っていた。
新刊の単行本はなかったけど、たまに文庫本を買いに行った。
文庫本を数冊レジに持っていくと、おばあさんはその文庫本を店の奥の部屋に持って行き、なかなか出てこない。
他の本を見て待っていると、五分くらい経ってから、おばあさんが丁寧にカバーをかけた文庫本を持って出てくる。
ゆっくりと時間が流れる小さな本屋さんが好きだった。

久しぶりにその本屋さんの前を通ると、シャッターが降りていて貼り紙が貼られていた。
「母が永眠したため閉店させていただきました。七十年間、長い間ご愛顧いただきましてありがとうございました。娘より」
と書かれていた。
セロテープがおばあさんが文庫フェアのポスターを貼っていたのと同じだ、とどうでもいい事を思った。
その貼り紙の下には何枚か貼り紙が貼られていて、それは小さな本屋さんのお客さんたちからだった。
あたたかい感謝の気持ちが綴られていた。
みんな、小さな本屋さんが好きだった。

しばらく歩くと、いっしょにいた友人が最近ねるるが好きだ、と言った。
それは長濱ねるなのか生見愛瑠なのかと尋ねようとしたが、その前に、セブンルールを見ていると言ったので、長濱ねるの方だと分かった。

帰りに友人が靴下を買いたいと言うから、ドン・キホーテに寄った。
選んだ靴下は5足セットで980円のものだった。
5足とも黒色のものをレジに持っていこうとするので、5足全部色が違うセットもあるから、こっちの方が良いのではないか、と提案した。
友人は「いや、洗濯した後、こっちの方が楽だから」と答えた。
どういうこと、と聞くと「こうなる」と両手で左右のジーパンの裾を上げた。
右が赤、左が青の靴下だった。

僕もあのシャッターに貼り紙しといたら良かったなと思った。

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