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対照的な前後半 断ち切りたかった悪いサイクル J1第5節vs東京ヴェルディ マッチレビュー

マッチサマリ

前半

開始から一方的に押し込んだのは京都。
守備ではサイドに追い込むハイプレスからスタート。奪い引っ掛け攻撃に繋げたり、苦し紛れに前線へ蹴らせることでマイボールで回収したり。
奪えないなとなったらハーフラインを基準にしたゾーン×ブロックへ移行しカウンター狙い。

攻撃面で目を引いたのは長短のパスの使い分け。
開始早々のビルドアップにて、ソンユンがPAギリギリに進出してパス回しに参加したのは象徴的。
相手のプレッシャー枚数に対して数的有利を作る。焦らず余った選手を探す。左右に振って相手が食い付いたら、食い付いて空いたスペースに降りてきてボールを受ける。

ビルドアップとフィニッシュを繋げたのは、サイドバックのハイパフォーマンス。特に佐藤のサイドではヴェルディは引っ掛けることすらできず。ことごとくパスで剥がし突破やサイドチェンジできていました。ヴェルディのサイドハーフ(翁長・松橋)との優位を活かし明確な出口を作ることで、前線に良い型でボールを供給することに成功します。

ヴェルディの守備を中央から分散させたところで、強力3TOPを中央に寄せてロングボール供給。競り勝ってゴールを目指すもよし。高い位置を取ったSB/CHでセカンドボールを回収し攻撃のターンを続けるもよし。
選択肢を作り続け相手に守備の的を絞らせないことで完全にペースを握りました。

前半の一方的な展開を作ったのは、上記で書いた攻撃と守備の連動。
落ち着いて相手陣内まで運ぶ。相手守備陣がパス回しに気を取られていると見れば長いボールを供給。奪われたら即時ハイプレスでサイドに誘導。奪回して攻撃再開。最初にもどる。とても良いサイクルが回っていました。
(マリノス戦レビューでも書きましたが、相手陣地にボールを供給してサイドに誘導しハイプレスからの回収サイクルは、サンガが良いサッカーをするときの典型パターンです)

必然に近い流れで生まれた得点は22分と26分。
豊川のスペールゴラッソはもちろん、天馬のスルーパスから原が決めた得点も素晴らしいゴールでした。

30分を経過したあたりで、京都の運動量が下がり、ヴェルディががようやくゲームに入り始めます。持ち直されそうな気配が生まれますが、慌てることなくセンターラインを基準にしたブロック形成で対応。特定の時間に見せた秀逸なロングカウンターで押し返したりで、そつなく前半をクローズ。
こんなに上手くいっていいのだろうか。キツネにつままれたような前半が終了します。

後半

ヴェルディが先手を打って変化を作ります。
選手交代でSHにドリブルで仕掛けらる選手を投入。2ボランチの一角を担う三木が高い位置に。ポジションミスが多く距離感を崩していた山田に代えてCHに稲見。
染野の1トップぎみの配置になり前の枚数が減りますが、中盤が手厚くなり2CH+アンカーのような配置が増えます。2CHが前線のプレスに積極的に参加することでサンガの後ろに生まれていた+1が消えてしまい、ビルドアップが滞ります。

サンガにも変化。ハイプレスとブロックの併用ではなく、ブロックのみに。
55分あたりから明らかに足が止まり始めてしまいました。追い打ちをかけるような豊川の交代。リズムを作っていた前線でのプレッシングから強度が失われていしまいます。

特に、限定プレッシャーのスタートになる原が、55分くらいを境に全然動かなくなってしまいます。動けていないのか、プレッシングラインを下げてあえて動かなかったのか。どちらかは分かりませんが試合の展開を左右したポイントでした。

振り返りでDAZNを10秒スキップで見ていると、飛ばしても飛ばしてもヴェルディの攻撃シーンばかり。
形式的にはセンターラインを基準にしたゾーン×ブロックで守備。
形としては整っているように見えますが、1stプレッシャーの限定がうまくいかずヴェルディCHのタッチ回数が激増。
外を外周させるためのブロック守備なのに、中央のMFの選手にライン間で山ほど受けられていては本末転倒ですらあります。

後半はずっと守備練習になってしまいました。
ここまで守備の時間が続くと... 走れないから守備で奪えない。奪えないから守備でまた消耗する。前半の良いサイクルとは真逆の悪いサイクルに陥ってしまいました。

選手の体力的にも厳しく、選手交代は遅い上に効果なし(どころかチームのクオリティを落とす)。押し返すきっかけを作れず。

ブロック守備の利点として、押されまくっても中央に枚数を残しているおかげで最後に跳ね返せる点があります。危ないシーンを多々作られながら耐えていましたが、やはり右サイドを突破され山見のドリブル。福田が突いたボールが山見側に流れて後ろから追ってスライディングしたところでPK献上。ソンユンの手の先をかすめて染野に決められ2-1。

押し返す力が残っていない京都はゴール前を固めて逃げ切りを図りますが、京都がゴール前を固めたと見るや城福さんが綱島(188cm)を投入。高さでポイントを作る狙いがまさにはまり、京都のあまりに低レベルな空中戦対応からサイドからフリーでクロス。染野に合わせられ同点。
その後はヴェルディの攻撃が続きますがなんとか凌ぎ試合終了。
2-2ドロー。

PickUp:ショッキングな結果だからこそ


プロスポーツにおける結果と、結果により動く感情はとても重要なものです。私個人では、湘南戦後の方がよほど不愉快で怒っていたのですが、ショッキングな展開に怒りを隠せない方々が多いなと。そしてそれも仕方ない話だなと感じています。
とりわけ、年度最終日の平日にスケジュールを調整して、東京まで応援しに行った人たちの負の感情は…汲み取り切れないなと。とはいえ、マリノス戦で見せた「チームとして好転している兆し」が、この試合でも作れていたことは事実です。

残念で残念な結果ではありましたが、大きな収穫が2つ。
まずは1つ目は言うまでもなく前半の内容。意図した形で攻めて守り2点を奪いクリーンシート。強みであるハイプレスを軸としてブロックを組み合わせた組織的な守備から、課題であった自分たちのパスワークにより組み立て相手陣地にボールを供給。ハイプレスでサイドへ誘導から相手に苦しい状況を作る。金Jを見ていた他サポゲーゲンプレスと表現してる人までいて、これはきちんとポジティブに評価されるべきだと感じます。

2つ目は良い課題が見つかったこと。
今までのように「まず単機突撃をやめよう」とか「適当に蹴り飛ばすのをやめよう」といった、当たり前の話を繰り返すところからは脱却しつつあります。
ハイプレスが止まってしまったのはなぜか。後半ビルドアップができなくなったのはなぜか。といったように、アタリをつけて考えられる段階です。

良かったことは良かったとして継続を、悪かったことは悪かったこととして改善を。前後半(正確に言うと後半15分の前と後ろ)で明確に分かれてしまったチームパフォーマンスの差を掘り下げていきます。

チームパフォーマンスを分けたポイント

良かった前半。なぜあんなに押し込めたか。強さを出せたのか。
悪くなった後半10分以降。なぜあんなに押し込まれたか。強さを出せなかったのか。
良いサイクルと作れた時間と悪いサイクルが続いた時間を分けるポイントになった3点を、順を追って解説していきます。

①運動量低下→プレス・ブロックの機能不全

前半の優勢を作った、敵陣にボール共有→ハイプレスで再度誘導→奪回→攻撃再開のサイクル。運動量をベースに構成されるサイクルは、運動量が失われると当然崩れてしまいます。
プレッシングを捨てブロック1本に振り切ったことで2つの悪い変化が生まれてしまいました。

1つ目がサイドバックへの誘導と圧縮の喪失。
原の限定からスタートしサイドで嵌め込み奪い取れていた守備がなくなり、自由にサイドを変えられて、中央で触られる回数が激増していしまいます。

2つ目がブロック内のライン間守備が崩れてしまったこと。
スライド後や前にプレッシャーをかけた後の戻りが間に合わない事態が多発。
ヴェルディにサイドを変えられ揺さぶられ的を絞ることができず、サンガの守備が甘くなる左を経由して、ブロック内のライン間で森田や稲見に何度もパスを受けられてしまいました。
当然ですが4-4-2ブロックも万能ではありません。(そもそも全知全能で万能な戦術などない)。ブロックを作って密集を作ったとて、相手の揺さぶりで陣形を崩れる瞬間は必ずあります。運動量の低下により、崩れた状態から復活するまでの時間の長さが伸びてしまったことは痛いポイントでした。
 
非保持時間の増加→悪サイクルの形成
①で書いたプレス・ブロックの機能不全により、奪いどころを失ってしまいました。ボールを回され続けて消耗し、消耗したことによる守備精度の低下がまた消耗に繋がる悪いサイクルが始まります。

なんとかしてボール保持の時間を増やして、落ち着き回復する時間を作りたいところでしたが、ヴェルディの陣形変更が刺さってしまいます。
ハイプレスに参加する枚数が増えたことで、ビルドアップの時に作れていた数的有利の1枚が消失。原しかいない前線にとりあえず蹴り飛ばすしかなくなってしまいます。

ただでさえ長い守備時間に加えて、保持の時間を作れずすぐ守備に戻ることに。一方的にボールを持たれる悪いサイクルが始まってしまいまいました。

③ラインの押し下がり→悪サイクル加速
ボールを保持できないことで相手陣地への侵入回数が減り、自陣でのプレーが増えることでラインがどんどん後ろに下がってしまいました。

右サイドを崩され続けたことでチームが右寄りに。反対サイドで相手を複数見ないといけなくなったトゥーリオは頻繁にDFラインに吸収され5バックに。
せっかく奪ったボールが原に入ってキープしてくれても、サポートがなく孤立するばかり。
ボールが入る形も悪いし、サポートもないでは流石の原も時間稼ぎが精一杯。あっという間に相手ボールになってしまいます。

これも去年からのパターンですが、サンガは逃げ切りを狙って5バックにすると大体が上手くいきません。
(成功事例はサイド深いところでの攻撃を封じたAセレッソ戦くらいです)
一度後ろに体重がかかると、かかりっぱなしになる悪いクセ。押された時にいかに押し返すかを考えデザインする必要を感じます。

生まれてしまった悪いサイクル。
打開するために手は打てなかったのでしょうか。

交代カードの切り方・ピンチにこそ出るチームの土台

明確な意思を持って交代選手を起用し見事に挽回した城福さんと、手をこまねいて一つとして有効な手を打てなかった曺さんとの差は、試合結果に大きく影響しました。

運動量が生命線となるこのチームにあって、交代枠を有効に活用できないのは非常に痛いところ。
どうしてこの控えの編成になったのか、怪我等の都合でこうせざるを得なかったのか分かりませんが、スターティングだけでなく控えメンバーの編成にも狙いを持った組み立てが必要だなと思わされました。
(選手交代は監督の仕事の一つでしかないとはいえ)

そして感じたのは、困った時にこそ癖が強く出てしまうものだなと。落ち着いた保持とロングボールの使い分けによる敵陣侵入を、余裕がある前半だけでなく困った後半にも出せるよう。下がってブロックだけでなく、苦しい時にこそ前に出て押し返すために必要なことは何かを考えられるよう。
走行距離やスプリント数がそこまで多くないのに、なぜ運動量が落ちてしまったのか。
などなど。

きちんとしたトライができているからこそ、きちんとした振り返りができて次のアクションが決まる。
この試合では55分しか続かなかった良い時間を60分に、65分に、70分にと伸ばせるように。

良い兆しが見えてきています。
良いところは継続を。悪いところは改善を。
粛々と繰り返すだけです。結果に必要以上に引きずられず、良いチームになっていきましょう。

さいごに

怪我人多数での連戦。落ち着いて振り返ってる間もありませんが、絶好調のガンバ戦との対戦は目の前に。
難しい試合になるとは思いますが、感じつつある手応えを伸ばし、結果に繋がると良いなあと。
「こんなんサッカーちゃう!パチンコや!」ではなく、ヴェルディ戦のように戦術的にも振り返られる試合にしてもらえればなあと期待しています。

記事は以上です。
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