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攻守における機能不全 必然の現在地「17位」と、巻き返しの鍵を握る3ユニット J1 2024年ハーフシーズンレビュー

「最高で最強」「最強で最高」
…どっちだっけ?

キーワードからかけ離れる実態が続き、いつしかそんな疑問すら浮かばなくなりました。

曹貴裁体制4年目。
チームを作る時間は存分に与えられ、補強も自身が望んだであろう選手を揃えることができたはず。

集大成のような位置付けで臨んだ2024シーズン。
ほぼ折り返しの17節を終えた時点の結果は

  • 19位(最下位と同勝点)

  • 得点13(ぶっちぎり最下位)、失点31位(18位)

  • ホーム6連敗

悲惨。あまりにも悲惨。
結果が伴わないだけでなく、内容もお客さん離れが心配になるほどのクオリティ。
チームとして完全に崩れてしまっています

とはいえ、6月初戦のセレッソ戦で引き分けてからはチームが好転。
6ポインターでの劇的な勝利も続き、24節終了時点で降格圏を脱するに至りました。

相手の悪コンディションを差し引いても、ブンデス2位のチームを圧倒。
「強い時のサンガ」が戻ってきています。
思い返すと、去年は同じような戦い方で最終13位。

多少下ブレることは覚悟していたものの、ここまで苦しいシーズンになるとは想定していなかった。この上下はなに?

「おもろない」「サッカーしようぜ」
など、ぶつぶつと文句を言いながらマッチレビューを書き続けると、チームの鍵となる要素に当たりはつくものです。

中断時点までの総括テーマは「なぜここまでチームが壊れてしまったのか?去年との違いは?好転の要因は?」です。
中身に入りましょう。

「曺貴裁サッカー」の成否を分けるもの

就任当初から、良くも悪くもチームの方針は一貫しています。

「走力」「インテンシティ」を全面に押し出し戦う。
引いて守らず、前から積極的に追い続け相手にペースを握らせない。
チームを支える柱は「ハイプレス」と「敵陣でのサッカー」の2つ。

そして、チームを左右するドライバーを考える時も複雑に考える必要はなく、ここから逆算するだけ。
つまり「前からのプレスがハマるかどうか」「敵陣でのプレータイムが多いか(自陣でのプレータイムが少ないか)」の2点です。

ここに異論はないと思います。
普通に試合を見た印象でも、ハイプレスがハマり敵陣に押し込み続ける試合は「圧倒できている」とワクワクを感じるはず。
一方で、前からのプレスがハマらず自陣への侵入を許し続けるときの悲惨さは記憶に新しいところ。

前からのプレスがなぜハマらなかったのか。
敵陣でのプレータイムがなぜ少なかったのか。
チームのサイクル全体がどう崩れてしまっていたのか。
掘り下げて見ていきます。

機能不全を作った要因(〜5月末)

少しだけ前提を。
守備は「プレッシング・ブロック」で、攻撃は「ビルドアップ×フィニッシュ」で分けて検討します。スタンダードな分析の分け方です。
また、このチームの生命線がハイプレスな以上、順番も守備のプレッシングから考えていきます。

守備で抱えていた問題

プレッシング:単騎突撃プレスによる前線崩壊と消耗

スプリント数で勝ち、試合に勝つ。
京都に限らない2022シーズンのトレンドでした。

スプリント数で大勝しないと始まらなかった2022年

ただ、スプリント数が勝利に強い影響を与える…は過去の話。

去年からはリーグ全体でも傾向が大きく変化。
スプリント数が多いチームはリーグ戦順位が下ブレし、スプリント数が少ないチームはリーグ戦順位が上ブレることになります。

そして2024シーズンのサンガに目をやると「走り勝てば勝つほど試合に勝てない」傾向が生まれてしまっています。

スプリント数で大勝ちした試合の悲惨な結果
14節:浦和(+58) ×
9節:新潟(+50) ×
3節:横浜FM(+49) ×
17節:C大阪(+39) △

奪える見込みはなくとも相手DF・GKに突撃。
周囲が付いて来ていなくても相手DF・GKに突撃。

敵チームの京都への対策は浸透しており、食いつかせて逆サイドへ展開して剥がす、奪われそうになったら迷わず大きく蹴りひっかけさせない。
この対策を徹底するチームには強烈に苦しい展開に。

剥がされて生まれた前線のスペースを埋めるために中盤や後ろが動かされ、空いたスペースを活用され失点。または良い形で奪えず自陣への侵入を許し続け、一方的に消耗を強いられることに。
前半30分でガス欠し、60分でリードしていなければ絶望的。
そんな展開が続きました。

ゲーム開始から圧倒しうんたらかんたら…。
この趣旨も目的も意味もよくわからないスローガンの実現が原因だったのでしょうか。
勝利のための手段であるハイプレスが目的と化し、強みどころかチームを壊す最大の原因になってしまいます。

ブロック:下がりすぎるライン・回復できない陣地

ラインが一度下がり始めると歯止めが効かなくなってしまう。
後述するビルドアップと大きく関連しますが、自分たちで保持して組み立てることができないことで下がったLINEを押し上げ陣地を回復し、敵陣でもサッカーに戻すこともできない。

「DFラインの枚数を増やしたのは下がれとの意味ではなかったのだけど、チーム全体の重心が後ろにかかってしまった。」
この試合後監督コメントは少なくとも去年の4月9日のAアビスパ戦から始まり、今年も数えきれないほど聞きました。
ずっと、ずっと同じミスを繰り返しています。

ゴール前にバスを置いて逃げ切ることができるチームではありません。
モウリーニョ・インテルのように。

不要なハイプレスによる消耗も大きな原因の一つなのでしょう。
守備の枚数が足りているのに戻りすぎ、危険なバイタルを開けてミドルを打たれ失点。枚数が足りているはずの中央を割られ失点。
嫌というほど見せつけられたシーンです。
(今年でいうとサヴィオ・椎橋のゴールシーン)

ブロックに回ると下がりすぎてしまう。
そして押し戻す仕組みはもちろん、ガス欠により個人の頑張りにも期待できない。
ハイプレス空転で自陣に侵入されるだけでなく、押し戻すこともできない。

こうして、弱いときの典型である「自陣深い位置でのプレー時間が長いサンガ」が生まれてしまいました。

セットプレー守備:意図が読めないゾーンへの転換

今年頭から採用していた、セットプレーでのゾーン守備。
去年はマンツーマンで失点がかさんだことに対するアプローチで、課題として認識している点は良かったと思いますが、これが大裏目。

早々に練度の低い守備を見抜かれ、ホーム開幕戦から失点が重なります。
毎試合2~4回セットプレーからエリア内でフリーで撃たれているので当然なのですが…。
(ゾーンで守ることそのものはさておき、ここまでフリーで撃たれる守備戦術は正解と呼べないでしょう)

枚数を増やす、弾いた後のアプローチは佐藤が埋める…etc。
昨年も前半で失点がかさみ、徐々に穴を埋めて失点を減らしていきました。
急な土台からの変更にチームが付いていけなかったと考えられます。

攻撃で抱えていた問題

ビルドアップ:パトリック放出の裏目
後ろからの組み立てを志向するものの、まるで上手くいかずショートカウンターの餌食になり続ける。これも昨年嫌ほど見たシーンです。
(サンガスタでのレイソル・ベルマーレ・アルビ戦を筆頭に)

「後ろからビルドアップしよう」だけでは繋げないのがサッカーです。
個人のスキルはもちろんチームとしての意識や動きの整備が重要で、これがサンガにはありません。
(サンガ時代は「守備は良いけど足元イマイチだよね」と評されていた井上黎生人が、レッズでの初先発でヘグモ監督から組み立ての技術を絶賛されていたことからも伺えるでしょう)

中途半端な後ろからの組み立てに見切りをつける。
そしてまずは長身FWの頭を目がけたロングボールで敵陣に起点を作る。
収まれば攻撃スタート、収まらなければ守備に回る。

理想を捨て割り切った夏から2023年の勝ち点荒稼ぎが始まりましたが、パトリックを放出し山崎のコンディションが上がらない2024年は前線にボールを届ける術がなくなってしまいました。

高身長ながら空中戦を本職としない原では足りず消耗するばかり。
マルコ・豊川が常時競り勝てるはずもなく弾かれるばかり。

パトリックがいれば...と思うシーンは多々あれど、放出そのものが問題ではありません。
代わりに獲得したマルコが空中戦を得意とするタイプからほど遠いことからも、前線FWへの空中戦頼みから脱却したい意図があったのでしょう。
ただそれを実現するための策が何もありませんでした。

シティのようなパスワークで崩す必要ありませんが、ボールを保持し休む時間は作らねばなりません。
マイボールになる度に失ってカウンターを受け続けることは、雑なハイプレスとの相乗効果でチームの体力を削りに削りました。

フィニッシュ:攻守に疲れ果て至ったアタッキングサードで
ここまで書いた守備やビルドアップの流れで考えると、フィニッシュで抱える問題も明確です。

高い位置でボールを奪えない

チーム全体の重心が後ろに倒れて相手ゴールから遠い

前線・敵陣深くに良い形でボールを運ぶことができない

アタッキングサードにボールを供給できたとてFWに良い形で入らない

きちんとしたフィニッシュの形を作れない
(文脈なくゴールを奪える豊川に頼るしかない)

不用意なロストを繰り返し、ずっと相手の攻撃ターンが続く

「守備」のパートに戻る

…こうして悪いサイクルが生まれ機能不全に陥り、チームは崩れてしまっていました。

ここまでが問題の点を線でつなげた話でした。では
①前からのプレスがハマらない→ハマるようになった
②敵陣でのプレータイムが少ない→多くなった
のはなぜでしょうか。

機能不全の解消・挽回のキーとなる3ユニット

組織の問題を解決するのは個。このチームらしい話です。
各個人がコンディションを上げている中でも、チーム全体のパフォーマンスを改善させる特筆すべき動きを見せる3つのユニットにスポットを当てます。
チームの問題をどう解決してくれているかに沿って見ていきましょう。

DF:鈴木義宜・宮本優太

お世辞でも過大評価でもなく。
チームを変えた原動力はこの二人です。疑う余地はありません。

義宜のライン統率で下がり過ぎる課題がクリア。
ハイラインで生じるデメリットである背後に生まれるスペースは、宮本のカバーリングで手当て。

守備だけでなくビルドアップへの貢献も大きく、宮本・義宜が持って動かせることで作った時間を中盤以上の選手が活用しています。
動かすだけでなく寄せて剥がしてから供給もでき、受けた味方の余裕が段違いに増えました。
二人がCBで出場すると、中盤以上の選手のオフザボールの動きの質と量が一気に変わります。

個人の武器と特徴に二人の相性の掛け合わせが、チームが抱える「ブロック」「ビルドアップ」における問題を一気に解消してくれました。

また、直接ではありませんが「ハイプレス」の改善にも一役買ってくれていると推測しています。
(義宜が試合後のコメントでも前線でのプレスが改善していることに言及してくれていることからの推測です)

いかんせん組織がないチームなので、義宜や良い時の武田のようにチーム全体を見て動かせる選手のバリューは計り知れないですね。

残留への道筋は二人から作られてる。
それほどまでに大きな貢献だと感じています。
(そろそろ義宜がセットプレーから決めてくれそうな気配も感じています)

MF:福岡慎平・平戸太貴

守備が崩壊した状況で、より守備的で戦える選手が欲しい状況。そこで金子の代わりに入ったのは福岡で、天馬・武田の代わりに入ったのは平戸。
素直に考えるとハマりそうもないメンバーチェンジが完璧にハマり、お粗末でしかなかったビルドアップが大きく改善されました。

まずは福岡。
「なぜ初先発がシーズンも折り返した6/30だったのか」
湘南戦の福岡を見た率直も率直な感想です。

中盤の底で落ち着き捌き続け、的確に動きパスコースをチームに供給し続けるものの、動きすぎて大きな穴を空けることがない。

同じ背番号10を背負った庄司悦大のようで、しかし同じではなくあくまで福岡らしい良さを発揮。
チーム全体のペースをコントロールし急ぎすぎるチームを適正スピードに導いてくれました。
(「ボールは急いで前に蹴るとすぐに返ってくる」ですね)

次に平戸。
町田戦では試合の勝敗を決めるミスに絡んでしまうなど、序盤戦こそ苦しんだ平戸でしたが、16節グランパス戦から先発の座を奪取(以降途中出場は1回のみ)。
出場時間も長くほぼフル出場。チームに欠かせない存在になっています。

求められるMF像そのもの

去年から見せ続けていた質の高いセットプレーのキック。
広いカバーエリアとボール奪取に、パスでのチャンス創出。
サンガあるあるの「加入2年目でチームにばっちりフィット」のパターンそのものとなりました。

特にこの二人で強調したいプレーは、右サイド(相手左サイドバック)に供給するミドルレンジのパスです。
ベルマーレ戦あたりからの話。右サイド深い位置にアタッカーを集めて質と数で殴る作戦が当たり始めていますが、狙う位置に良いボールを届けているのはこの二人。

スペースが開いたタイミングを見逃さず高精度のボールを供給することで、相手のラインを下げ味方の陣地回復を実現。
これもまたチームを大きく変える好プレーの一つです。

FW:マルコ・原大智

前述した「右サイド深い位置にアタッカーを集めて質と数で殴る作戦」を主導する2人。

原については深く語るまでもありませんが、果たしている重要な役割に絞って。

序盤戦は、死屍累々のCF→左WGコンバートで犠牲になり低調。攻撃で目立った違いが作れない一方で、慣れない左サイド守備で大穴を空けることも多々。でしたが。

マルコのサイド起用にめどが立ったことで中央へ固定。
地上戦では右に流れマルコとともに強いプレッシャーをかける一方で、空中戦では左に陣取りサイドバックとのギャップを活用し起点に。

突撃の自重と中央への固定で、守備タスクが軽減されていることも重要な要因の一つ。
コンサ戦あたりからコンディションの向上もめざましく、ビルドアップからフィニッシュの問題をあらかた解決しつつあります。

そして最後に、マルコ・トゥーリオ。

シーズン前には「どう見ても監督が使いこなせないタイプのCF」と予想され、開幕後も良い動きは見せるものの決定機逸が続きいつしかベンチへ。
どころかメンバー外も。
「やはり…」と嫌な予感が漂っていました。

そして迎えたベルマーレ戦。
負傷した豊川の代わりに右WGに入ったところで転機を迎えます。

豊富な運動量で守備に貢献しつつ相手を攪乱。
特に福岡慎平に生かされる形で相手のサイドバック裏を突き続け、チームが主導権を握る大きな要因に。
見事なアシストまで記録し先発の位置を完全に取り戻すことに成功します。

好調は一試合で終わらず、6ポインターである磐田戦でも逆転弾をお膳立て。
サイドに張り続けることで相手を食い止め、持てば落ち着いてキープすることでチームの前進を助け、プレッシングでは連動して追い込む。

ストライカーとしてエゴが足りないとの批判を見ますし、同じ意見でもあります。がしかし、豊川とは違う良さがまさに今のチームにハマる存在。
プレッシング・ビルドアップ・フィニッシュ…多くの局面でチームを助けるハイパフォーマンスを見せてくれています。

良いウインガーっぽいスコア

シュツットガルト戦では遂に初ゴール。
ラファエル・オリベリラの二人ブラジル人選手の加入で、一層ギアを上げてくれそうな気配を漂わせています。
動画でしか見たことがない豪快なゴールを心待ちにしつつ、今まで通りの活躍も期待しています。
間違いなく今後のカギを握る一人です。

最後に

機能不全を引き起こしていた問題と、解消に大きな貢献をしてくれている選手。セットプレー守備は気付けばゾーンからマンツーマンに戻っていて、去年の後半のような安定感を取り戻していました。
いったい何だったのかとの気持ちが拭えませんが…。結果修正されているのでヨシとしましょう。
(セットプレーで失うと致命傷になるのは去年と同じなので、これも本当に大きなポイントです。がセットプレーノハナシハイマイチヨクワカラン。)

推しのチームを客観的に見ることなどできません。
しかし、極力フラットに今のチームを見ても、ここから挽回し残留を勝ち取れるだけの土台は整ったと感じています。

そしてその直感は、あくまで組織的に戦えればとの前提の上に成り立っています。
重要な要素を並べましたが、兎にも角にも前からのプレスを突撃ではなくコレクティブにできるかどうか。まずはここです。

シュツットガルト戦の前半が再現されることをここから祈りつつ、大事な大事な中断明けを待ちましょう。まずはグランパス戦。

記事は以上です。
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