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ライラックとガベル 第13話「先達の忠告」

 茶番でもセットが豪華ならば見応えがあるものだ。
 元オージア最高裁判所の地下は、少なくとも公的な文書においては職員用通路と資料保管庫のためのスペースとなっている。
 そしてそれは事実であるが、そのちっぽけな事実ではとてもこの巨大な穴倉を埋め尽くすことはできないだろう。

 地上階にあるどの裁判場よりも厳かで暗く冷えた議場が地下にある。まるで一世紀前の貴族が怪しげな客を招き、権力について語り合うかのような重厚なカーペットに数々の動植物のはく製が壁を飾り、ばかに長いテーブルと、ばかに座り心地の良い椅子ども。

 ロスロンド最古にしてこの国最初の裁判所、その法廷は現代の様式とは若干異なる。
 広い四角形の部屋には壁ごとに扉があり、手前には二十席の傍聴席を並べ厳重に柵で囲う。
 まるで猛獣を閉じ込めるような柵の向こうは磨き抜かれた飴色の床。その中央には細い発言台、左右に被告および原告席。
 そして真正面には崖のように聳える四段組の裁判員及び陪審員席。

 公的な文書を辿れば百年近く空席であったはずの裁判席は、今や出で立ちも年齢もあまりに不揃いな男女で埋まっていた。中には十歳程度のあかぬけない顔をした子供までいる__椅子のサイズが合わないのか、屈強な黒服の男がその膝で椅子を務めていた。

 他の関係者は全員揃っているようだ。

「おかえり、ガベル」

 最上段の中央席にかけていたアラスターがのんびりと言った。ひとり季節外れな柔らかそうな生成りの背広を着て、そばで紅茶を用意していた部下の腕時計を覗き込む。「定刻五分前だ。すばらしい__好きな席に座り給え」

 ガベルは何も言わずに座った。この場で最も粗末な椅子に。
 傍聴席を囲う柵を押して開け、そのすぐそばにあった椅子だ(おそらくそれはかつて、被告人が発言台に向かうまでに一度待機するための椅子だった)。

 おそらくガベルは、左右の原告席或いは被告席のいずれかに座るべきだった。今や質のいいアンティークが飾られ、分厚いクッションを備えた椅子に。

 ギッ、と木製の椅子が軋んだ。その音に、他の候補者たちはめいめいにその端正な顔をしかめた。そして裁判員席に座る面々は、苦笑いか、あるいはたじろいでアラスターの顔色を窺った。

 だがアラスターは「結構」と微笑んだ。テーブルの上に両手を重ね、枯れ枝のような十本の指を順繰りに動かし。

「では諸君。今日までこの国の発展を願い、自らこの国の表舞台から消えた実に清貧で、献身的な友たちよ」

 アラスターは自分の笑顔をこの場にいる全員へ振りまいた。「そして、そんな友に彼彼女こそはと見込まれた若者たち……」
 ライラックは傍聴席の隅に腰を下ろした。長ったらしい茶番の幕開けに右手は煙草を求めたが、この部屋に入る前にポケットというポケットを空にされたことを思い出す。
 することがないのでライラックはガベルの後頭部を見た。崩されたブラウンの髪はむしろ完成度を増した。両肩の線は床と並行だ。

 緊張しているのか? とその肩を叩いてやりたくなったが、その真っすぐな肩の線はまさしく無敗の弁護士だった頃のそれだった。叩けば砕けるのはライラックの手の方だろう。

「__老人の唯一の取り柄は時間に厳しいことだ。せっかちなほどに」

 アラスターは口を逆三角形にして笑った。

「各々の候補者について、今更自己紹介などさせるまでもなかろう? したいか? したい方はご随意に。アレクサンドラ、君の息子にひとつスピーチでもお願いした方がいいかね。それともヘンネル、君がバーミッドくんだりお連れしたお嬢さんに一曲歌っていただこうか」

 指名された男女はどちらも被りを振った。女の方はまだ優雅さを纏っていたが、男の方は苛立ちを抑えているのが仕草でわかった。
 この茶番劇の支配者はアラスターだ。その証に、集った高貴な衣服の誰一人、陽気な老人の隣の席に座っていない。
 
「では、ガベル。自己紹介を済ませていないのは君だけだ。そこに立って、自己紹介を」

 言った当人のアラスターにとっても意外だったのだろうが、ガベルはすぐに立ち上がった。
 そして彼はジャケットの皺を一度伸ばすと(それはガベルが弁護士時代、一次弁護へ入るときの仕草とまったく同じだった)、迷いのない足取りで証言台に立った。

 音を立てて視線がガベルに突き刺さる。それは蛇が茂みの上を這いずるような音だった。だが少なくともガベルの後ろ姿は震えもしなかった。
 ガベルはその場で軽く右手を上げた。何も握っていないただの右手だ。

「”宣誓。私は法廷において自らの良心に従い、嘘偽りを述べず、また知りうる全てについて隠匿しないことを誓います”」

 詩を詠むような口調でガベルはそう言い、右手を下ろした。
 その宣誓によって、ここが法廷だということをその場にいた全員が久しぶりに思い出した。それこそ何年ぶりか、あるいは何十年ぶりに。
 この巨大な茶番劇の舞台の名前は、かつての法廷ではなく、未だなお法廷であることを。

「お集まりの皆さんにご挨拶申し上げます」ガベルは滑らかに喋り出した。「私はガベル・ソーン。フィンダレス法科学院で規制法秩序を学び、特に法哲学に基づく刑法の解釈について研究を行いました。
 私は弁護士です。ですがおそらく皆さんに対してより親切な自己紹介をするなら、私の父がフレデリク・ソーンであることを述べるべきでしょう」

 フレデリクの名前が出た途端、特に正面の陪審員席に座っていた男女が身じろいだ。身振りしたのかもしれない。顔を顰める男がいれば、わずかに身を乗り出してもっと良くその顔を見ようと頬杖をつく女もいた。
 ガベルはその全てに無関心だった。

「どうか忘れないで頂きたいことがあります。それは、私は私の意志に反して此処にいるということです。
 私が此処に留まり、関わり合いたくも無い貴方がたに名乗ったのは、ひとえに私が脅迫され、友人の命と尊厳が人質にとられているからです」

 ガベルは教師のように静かに説いた。出来の悪い、それでも愛さざるを得ない幼い子供へ教えるように。

「自己紹介ということですので、貴方がたに対し最も重要な、紹介すべき私の考えを改めてお伝えします。
 私が貴方がたの一員になることはありません。ましてや、貴方がたの組織の長になどなる気はありません。
 貴方がたは__アラスター氏は私の友人を人質に取ったことで私を支配できると考えたかもしれませんが、それは法律家に対して最も取ってはならない悪手でした。少なからず法律を学び、平等と公平の精神を学んだものならば、脅迫と支配には断じて同意しません」

 以上が、ガベルの自己紹介だった。彼は自己紹介を終えると、軽くその場で形式的なおじぎをして、それから再び背筋を伸ばした。
 誰もがそれを挑戦的で、挑発的なポーズだと思ったことだろう。
 だが傍聴席にいるライラックから見たそれは、何百回と見てきたガベルの、一人の弁護士が弁護を終え、裁判官や陪審員、被告からの質問を待つという、なんら珍しくない当たり前の態度だった。

 重苦しい沈黙が場に漂ったが、あるとき軽快な拍手の音がそれを打ち払った。

「やあ、やあ素晴らしいスピーチだ」

 アラスターはゆったりとした拍手を贈った。「君のエネルギッシュなところを見られて感激だ。私と会ってからこのかた、君のそんなに元気いっぱいな姿は見られなかったのでね」

 アラスターに続くように、他の聴衆たちも皆手を叩いた。特にガベルと相争う立場の若い候補者たちの中には不服そうな態度を隠さないものもいたが、少なくとも誰もが、アラスターを前にして堂々と啖呵を切った若者の度胸を認めないわけにはいかなかった。

 そんな喝采にも近い拍手を浴びる勇敢な若人は、しかし儀礼的なおじぎすらしなかった。
 ガベルは騒音が止むまで根気強く待った。そして再び法廷に静寂が戻ってようやく口を開いた。

「お互いの立場は明らかでしょう。改めて申し上げます、アラスター氏、直ちに私と私の友人を解放してください。その意志が貴方にありますか?」
「私にあるのは、今度こそ私は南国でのバカンスを楽しみたいというワクワクした気持ちだけだな」

 ブルーハワイ毎日飲むのだ、とアラスターはうっとりした顔で言った。周囲の誰もがそれを微笑ましく見守る中、ガベルはただ、そうですか、と述べた。

「ところでアラスターさん。一つお尋ねしてもよろしいですか?」
「いいとも」
「貴方と貴方の馬鹿げたご友人の皆さんは、今貴方がたが腰を落ち着けている椅子の真上に__いえ、見上げずとも結構、この部屋の天井のさらに上の話をしていますから__何があったかをご存知ですか?」

 誰もがそれに答えなかった。誰もが顔を見合わせて互いに尋ね、知恵を借りようとしたが、少なくともこの場にいる誰にとっても、この威厳ある大広間の頭上にあるものといえば、ただのがらんとした廊下だけだった。
 強いていえばその地上一階の廊下は、太い通路が十字に交わっていて、交差点となる中心部には、ちょうど革靴を乗せて靴紐を結び直すにはちょうどいいような古ぼけた台座があるだけだ。

 そしてライラックもまた記憶を辿った。この部屋の真上に何があったか?
 きっとガベルが訪ねているのは、今やただの足置きとなったあの台座に、かつて何が乗っていたかだろうが____

 少なくともライラックが初めてこの施設に足を踏み入れたとき(それはライラックがフレデリクの洗礼を受けた、まだ十歳にも満たない頃の話だが)、台座はすでに空っぽだった。

 当時すでにこの裁判所は元裁判所であって、貴重な税金を取り壊しに使うよりも、文化財として保護する方がまだましと判断された廃墟だった。
 当時すでに、首都はミラリスに移り、荘厳な量子秤を備えた最高裁判所の建設は始まっていた。

「私が生まれた年に、ちょうどあの台座は空になりました」

 ガベルが言った。「あの台座には銅像がありました。二つで一つの、野生の狼の銅像です。この国固有種であり、現在行政の記録上では絶滅したとされているオルドリアオオカミの番を模ったものです」

 聴衆は静かだったが、それは突然始まったガベルの奇行に対する興味ゆえの静けさだった。
 ガベル・ソーンという人物の行いは彼らにとっていまだ無価値だが、“フレデリクの息子“のする一挙一動は彼らにとって鑑賞に値するものだ。

「狼という動物に広く言えることですが、彼らは生涯に番をたった一匹しか作りません。番のどちらかが死んだ場合には新たに番を持つことはありますが、存命の場合、決して二心を抱きません。
 ですがオルドリアオオカミの特徴として、彼らは集団を形成しないことが言えます。彼らは一生を番とだけ生きていきます。番は多くの場合に子を成しますが、その子も番を得るとただちに親元を離れます。彼らは群れを作ることなく、常に最小単位で独立して生きていきます」

「その彼彼女らがかつて裁判所の中央に座していたのは、彼らの厳格な一対一の信頼と親愛が尊ばれたからです。自らの意志で他者を選び、そしてその他者を慈しむこと。自由意志と隣人共愛の精神を、他でもないこのオージアという法治国家が肯定したからです」

「だが貴方がたはそれを知らないと言う。この建物がどのような目的と信念を象徴しているかを知らず、自分が暮らす国の歴史すら知らないで自分たちこそ歴史の創造主だという顔をしている」

「それどころか私を脅し、私の友人を支配し、まるで自分たちこそこの国の古き神であるかのように思い上がっている____これは私の仮説です。しかしそうでなければとても、これほどの厚顔無恥を堂々と晒してはいられないでしょう」

 ガベルは聴衆に理解を求めた。わかるかと尋ねた。
 それは怒りというよりも哀れみや、いっそ親愛による質問だった。

「貴方がたの行いの全てがどれほど恥ずべきものかわかっていますか? 他者を支配できると考え、脅迫と暴力を振りかざす自由が自分にあり、自分は特別であると根拠もなく信じることが、この現代国家においてどれほど軽蔑される振る舞いであるか」

 ガベルが初めて顔を歪めた。視線が一瞬動いたが、何を見たのかは誰にもわからなかった。
 背後のライラックもガベルが微かに身じろいだことはわかったが、その意図はわからなかった。
 何かして欲しいのか? 何かを探しているのか? 
 どれほど崇高な演説をしても、聴衆には響かないことをガベルはとうに知っているはずだ__ならばガベルは何故こんなことをしているのだろうか?
 弁護士としての誇示か? 
 いち市民としての反抗か?
 それらが少なくともアラスターに無意味であることをガベルは思い知っているはずだ。
 仮にこの時、この場にいるアラスター以外の全員を改心させたとて、そのことに意味などない。彼らはガベルの信念に共感したとして、彼らのアラスターに対する敬意と恐怖が消えるわけではない。

「私たちがひどく愚かしい存在だとして____」

 声を発したのは、聴衆のうちの一人だった。アラスターより低い壇上の席に座り、黒い燕尾服を身に纏った紳士だった。「それは果たしてどれほどの意味があるだろうか? つまるところ、私たちがこの国において唾棄すべき悪辣な市民であることで、君がこの国における素晴らしき善良な市民だったとして、その善良さは君に何をもたらしてくれる?」

 紳士は鋭く尖った顎を撫でた。アンダーリムの眼鏡の奥にある目は白く濁っていたが、生気に満ち満ちていた。

「君はどうもフレデリク氏に情熱で対抗しようとし、惜しみない情熱で偉業が為されると考えている。だが現実の君は、父親の足元にも及ばん」

「全ての息子が父の後を追うわけではなく、全ての父親が息子にとって正しい道を示すわけでもない」

 ガベルは言った。「リンデベルグさん、私はフレデリクという父親に対抗しようと考えたことはありません。彼を私の生活と戸籍から追い出したのは私ではなく、単なる行政法に基づく手続きにすぎないのです」

 紳士が黙った。言い返す言葉ならごまんとあっただろうが、少なくとも紳士の頭にあるのは、たまたま親の七光りで自分の目の前に立っているだけの若者が、何故自分のファーストネームを知っているのか、という疑問だけだった。

 ガベルは紳士の驚きと無言の問いかけには答えず、ただもう一度、一瞬だけ視線を動かした。

「この馬鹿げた状況に追い立てられた時、私はいくつかの“情熱的“な対抗策を考えました。
 そしてそのうちの最も有効そうな一つの方法というのは、現在最高権力を持つアラスター氏の推薦を受けた私が従順にその指名を受け、承継した最高権力を持ってこの場の全てに解散を命じることです」

 アラスターの推薦という殆ど確定的な後押しでもって主席に座り、そうしてはじめて号令を出す。この場にある全ては今日このときあらゆる権力を失い、慣例的な一切は無効であり、組織だった全ては解散され、よって自らもまたあらゆる影響力を失うものとする。
 
 しばしば裏世界と呼ばれるような領域ではルールが無いことを恩寵のように言うが、ルールが無いということは、己が蛮行を許されるように、己に対する蛮行もまた防ぐ手立てがない。

 そしてこの場における唯一絶対のルールといえば、主席という存在、これだけだ。

 ガベルの言葉に、誰もがアラスターの顔色を伺う。
 そして当然、アラスターの顔は笑っていた。
 反逆の予告をされてなお、アラスターは寧ろ満面の笑みだった。

 ガベルはその笑顔に、この日はじめて返した。微笑みを。

「しかし、私はその手段を用いるつもりはありません」
「ならばどうする?」

 アラスターがわくわくした様子を隠しきれない様子で聞き返した。「私の後継者になるつもりはない、私から権力を受け継ぐ気もない。だが君はここから逃げ出したい。五体満足で、そしてできれば__友人も連れて」

 数人の肩が震えた。それは今日はじめてここに連れてこられた前途有望な若者たちであり、アラスターと長い付き合いである男女でもあった。

「どうするんだガベル、どうやって君は私に対抗する気なんだ__君は一体どんな手を用いて__私を、見事追い払ってみせようと言うんだ?」

 アラスターは依然最上段の椅子に深くもたれ、くつろいだまま足を組んだ。背中を丸め、目をすがめ、椅子の肘置きにおいた左右の手の指先は待ちきれないとばかりに何かを奏でている。

 ライラックはにわかに腰を上げた。
 だが立ちあがろうとしたその肩を真後ろから押さえつけられる。
 広い掌と長い指先、衣服越しだというのに感じる痛いほどの冷たさ。
 一体いつからそこにいたのか、ジンがライラックのすぐ後ろに立っていた。

「あのフレデリクを葬った魔法を私にも見せてくれ、ガベル」

 アラスターが言う。両手を上げ、指をぱっと広げた。
 奇妙な円形のタトゥーがアラスターの手のひらに刻まれているのが見えた。

 ガベルは一瞬顔をしかめ、それからわずかに顎を引いた。

「私は貴方のために法を犯すつもりはない」
「どうして君は自分自身を偽ってしまうんだ? 感情に貴賤をつけるのは愚かなことだ。だから誰もが死ぬ。自分自身を失ってしまう」
「貴方に対して強い憤りはあることは否定しない。だが彼女ほどじゃない」
「彼女?」

 ガベルはひとつ呼吸を置いた。自らに決断を迫るように。

「私はひとつの事実として、アラスターさん、貴方のような存在がこの世にあることを知っている。私の父がそうなったように。そして彼女がそうであるように」

 ガベルが顔を苦痛に歪めた。彼の頭が震えた。
 堪えがたい痛みに耐えるように眉間に皺を刻み、唇を強く噛み締める。

「アラスターさん、貴方からすれば私は若輩者でしょう。でもだからといって、貴方がこの世で最も長く生きているわけじゃない」

 ガベルが深く息を吐いた。かすかに口元から覗いた彼の歯が赤く染まっていた。
 ガベルは口の中を切ったようだ。
 より正しくは、彼は彼自身の歯で頬の肉を嚙み千切ったのだ。

 ガベルの吐く息には血の匂いが混じった。

 少なくともそれは人間の嗅覚で嗅ぎ取れるような濃さではない。現にこの場にいる誰もが、ガベルが口の肉を噛み千切ったことに気づいていない。
 
「アラスターさん」

 ガベルが言った。

「貴方は彼女を怒らせた。自由と共愛は元来彼女のもので____」

 ガベルが言葉を切る。
 そのほんの一秒とない静けさに滑り込む。くぐもった悲鳴。慌ただしい足音。
 遠くで銃声が鳴った。だが一発だけだ。
 部屋の外には何十人も銃を持っているものがいただろうに、鳴ったのはその一度きりだった。

「____あのブランケットもね」

 ゴン、と音が鳴った。
 ややあって、またゴンと鳴る。ゴン、ゴン、と。

 重々しいその音は、閉ざされた法廷の扉をノックする音であり。
 その音は毎年必ずロスロンドで聞くことのできる、嵐の音そのものだった。


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