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苦くて寂しいチャーミングなゲーム。ディスコ エリジウム。

バルダーズゲート3がGotYを獲り、しかしながらプレイ環境的にも内容的にも自分がやって楽しめないのが確実なゲームであったので、バルダーズゲート的なものを何かやりたいなと思い立ち、ディスコ エリジウムをプレイしました。Switch版。

結論としては私はこのゲームとそこで描かれる世界が大好きになってしまい、スペシャルなゲームになりました。P3Rに続いて好きになれるゲームを続け様に遊べたのは幸運なことです。

ディスコ エリジウムはマルティネーズという地区で起きた殺人事件の謎を捜査する、TRPGの要素が取り入れられたRPGです。しかし戦闘システムは一切ないので、日本の人にとってはTRPGの要素を取り入れたアドベンチャーと表現した方が実際に近いものが想像しやすいかもしれません。

ゲームを開始すると主人公は全裸で目覚めます。酷く散らかった見知らぬ部屋、ふらつく足取りで行動するうちに、深酒の影響か記憶が全く無いこと、どうやら自分は警官で、しかも殺人事件の捜査の最中らしいこと、そしてその死体がもう一週間も建物の裏庭の木に首吊りのまま放置されていることを知っていきます。

死体は少し伏せました。

このゲームでは開始時に24種類のスキルにリソースを割り振って作ったキャラクター(プリセットもあります)を操って事件の謎を解き明かしていきます。捜査の様々な局面でダイスロールが行われ、自分の持つスキルや装備、それまでの行動による補正とダイスの目によって成否が判定されるところがTRPG的です。スキルの振り方によってはほぼ成功しない行動があったりそもそも選択肢が現れないこともあるので、自分のキャラクターの特徴やプレイヤーの選択やダイスの気まぐれによって、捜査の展開は様々に変化していきます。私は知識とコミュニケーション能力に全振りして始めたところ、ゲーム開始直後、自室で部屋の明かりを点けたら死んでしまいました。

また、死体の腐臭に耐えきれないためにまず死体の近くに辿り着くだけで一苦労し、ようやく辿り着いたのはゲームをプレイしてから二時間近く経ってからでした。その後も力技で道を切り開く行動はほぼ取れず、検死をする為に死体を木から降ろそうと四苦八苦して諦め、結局死体は何日もぶらぶらと吊られたまま事件を解決しました。色んな人にたくさん物乞いをしてお金も貰いましたし、ハッピーエンドです。

共産主義革命に失敗し、大きな戦争を経て今は諸国に分割統治されているかつての大国レヴァショールには寂寥と退廃的な空気と汚職、酒と薬と犯罪が蔓延っています。舞台となるマルティネーズという地区では企業と労働組合が戦争寸前の緊張関係にあり、戦災によって四階から上が破壊された元高層ビルはそのまま安アパートとして今も使われています。その街にいるのはレイシスト、同性愛者、共産主義者、密輸業者、行き場もなく流れてきた者たち。

ディスコ エリジウムについて書くのであれば、そのテキストには必ず触れなければなりません。基本的にテキストベースで進んでいくこのゲームでは、とにかく膨大なテキストを浴びることになります。英語で120万ワード程度あるらしく、ハリーポッター全巻ぐらいの物量とのことです。

ディスコ エリジウムのテキストの凄さはその物量だけではありません。その物量のテキスト全てに趣向が凝らされているということです。一人の人物に話しかけると現れる大量の選択肢、選んだ先に現れるまた別の複数の選択肢。更にはそこまでプレイヤーがしてきた行動を踏まえて変化するテキスト。豆知識、横道、世界観の説明、野次、罵倒、共感、ふと垣間見えるそれまでの生き方。東欧的なバックボーンにはどうしても馴染みは薄いものの、ゲーム開始直後にとても難解な文章をドバッと投げつけられて以降、進める度に次から次へと押し流すように放たれるテキストにモミクチャにされているうちにこのゲームの魅力を暴力的に理解させられます。

ゲームには面白いかどうかという軸とは別軸でチャーミングかどうかという軸も重要だと考えています。その退廃的な雰囲気とは裏腹に、ディスコ エリジウムはとてもチャーミングなゲームです。私はすっかりこの世界が大好きになってしまいました。どうしようもない主人公の奇怪な行動に対する人々のリアクションは笑えますし(そうです、このゲームは思わず笑ってしまうシーンがいくつもあります)、マルティネーズに暮らす人々にはきちんと一人一人血が通っていて、様々な面を持っています。ゲーム終盤、クライマックスで現れる意外すぎる乱入者には夜中に声を出して笑ってしまいました。カラオケを歌うシーンでこのゲームは私の中でスペシャルなものになりました。それとプレイ中にこの感じ何かを思い出すんだよなと考えてたんですが、moonでした。

世界から置き去りにされたままのマルティネーズ。世界に開いた2ミリの穴。カラオケ。いつの間にか喋らなくなったネクタイ。サッドFM。インスリンデナナフシ。イノセンス。タイタス・ハーディ。内燃機関。開発が頓挫した野心的すぎるゲーム。ハードコア! 商業地区の呪い。鳥の糞に塗れたジャケット。ウルトラリベラル。吊られた死体。サンドイッチ。白熊の冷蔵庫。あの寒くて湿ったレヴァショール……。

おじさん二人、ブランコで潮が引くのを待つ。

とても良いゲームでした。終わり。




あ、ちゃんと書いとかないといけないことがもう一つありました。Switch版だけなのか分かりませんが、エラー落ちが頻発するのは本当に萎えました。オートセーブの間隔が長いため自分で逐一クイックセーブを繰り返す羽目になります。エンディング、スタッフロールに入った直後にエラー落ちした時は乾いた笑いが出ました。

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