カバラの歴史:メモ

学習途中のメモです。

●カバラ(ユダヤ神秘主義思想)の歴史

前1947~48年頃頃 伝承ではアブラハムが『創造の書(形成の書)』(セーフェル・イェツィラー )を記した。(ゲルショム・ショーレムによれば実際は3世紀に書かれたとされるが、執筆年代は不明。遅くても10世紀初め)。内容は、神は10のセフィラ(数)、22のヘブライ文字、これらを合わせて32の経路を通して世界を創造したことが解説される。

前586~前515年 バビロン捕囚(第一神殿〜第二神殿)の間、バビロニアにて研究される。

前3世紀 エチオピア語で『第一エノク書』が書かれる。

前20-後50年頃 アレクサンドリアのフィロン。ユダヤ哲学者。ディアスポラのユダヤ人に対する迫害を止めるため、ユダヤ教とプラトン哲学の調和を説いた。しかし、彼の思想はユダヤ人からは受け入れられず、むしろキリスト教徒に援用された。

西暦1世紀 メルカバ神秘主義(メタトロン神秘主義)
カバラの起源とされる。清浄を極めた瞑想により神を幻視し、神と融合し、神から直接啓示(預言)を受けようと試みる運動。ゾロアスター教のマギ、ミトラス教の秘儀、エッセネ派(死海文書)、メルカバ神秘主義、思索的カバラ(数秘術)を経て、ユダヤ教神秘主義は発達したとも言われる。メルカーバーとはエゼキエル書に登場する神の戦車のこと。
メルカバ神秘主義者は、瞑想により、七つの天→七つの宮殿→メルカバの下部にいる生き物(ケルビムや車輪)→そして神の玉座に至り、そこに座る人物(神)の姿を見ることを目指した。しかしこれは大ヤハウェそのものではなく、かつて昇天したエノクが最高位の天使に姿を変えた小ヤハウェ(メタトロン)なのであった。
このメタトロンは、元々ミトラ神であり、「玉座の上に座る者」を意味し、最高位の天使とされ、小ヤハウェと呼ばれる。ヤハウェ(大宇宙)と小ヤハウェ(小宇宙、エノク、アダム・カドモン=原初の人)は一つであり、その神人合一を果たすことがカバラの究極目的とされる。
カバラでは第1セフィラのケテルの天使はメタトロンで、第10マルクトはメタトロン(またはサンダルフォン)とされる。メタトロンは昇天したエノクが天使化した姿、サンダルフォンは昇天したエリヤが天使化した姿で、双子とされる。神は創造の過程(セフィロトの樹の下降)において人を自分の似姿に創造したゆえに、神(小ヤハウェ=アダム・カドモン)と人は双子なのであり、第10セフィラから精神を向上(セフィロトの樹の上昇)させ第1セフィラへと到達し、神人合一することで、創造の第七日目の完成を目指す。
キリスト教においては、このエノクの昇天(メタトロン)の秘儀はイエス・キリストに置き換わり、エリヤの昇天(サンダルフォン)は洗礼者ヨハネに置き換わり、キリストとその教会の花嫁の結婚(合一)を目指すという教義に置き換わっている。
アイン・ソフ(無限)は神ヤハウェであるが、彼は目には見えない。ヤハウェの化身としての小ヤハウェこそメタトロンとされた。メタトロンは、ミトラ、エノク、ミカエル、メシア、そしてイエス・キリストと同定された。ヤハウェと小ヤハウェは一体であり、単なる天使ではなく、神と同等とも見なされた。ヤハウェと自らの姿を人類に顕現する小ヤハウェ(メシア)は神なのか天使なのかは秘儀とされた。これはキリスト教の三位一体論の論争とも繋がる。またメタトロンはヘブライ語ではミカエルと呼ばれたので、メシア=天使長ミカエル=イエス・キリスト説が生まれた。この説を採る教派は今も存在する。

カバラのキリスト教への転化
・不可視のアイン・ソフ(ヤハウェ)の顕現であるメタトロン(ミカエル)→神の独り子イエス・キリスト
・義人エノクの昇天→義人イエス・キリスト
・預言者エリヤの昇天→洗礼者ヨハネ
・神と人の合一→キリストとエクレシア(花嫁)の結婚


33年 イエス・キリストの磔刑。

66-73年 第一次ユダヤ戦争。

70年 ローマ帝国によりエルサレム神殿崩壊。ユダヤ人たちは各地に離散し、ディアスポラとなる。これにより旧約聖書(タナハ)、口伝律法(ミシュナ)、カバラ(ユダヤ神秘主義)の成文化の必要が要請される。多くの律法学者はパルティアの都市ネヘルディアに移住したが、ラビ・ヨハナン・ベン・ザッカイはサンヘドリン(ユダヤ教の最高法院)を守り、サンヘドリンはヤムニア(ヤブネ)に移転される。

90年頃 ヤムニア会議。聖書(タナハ)の正典が決定される。

132-135年 バル・コクバの乱(第二次ユダヤ戦争)。ラビ・アキバ(40-135年)はユダヤのカリスマ的指導者となり、バル・コクバ(星の子)をメシアだと主張して、ローマ帝国に反乱を企てる。しかし戦いに破れ、彼と弟子たちは処刑される。それ以降、サンヘドリンはガリラヤのティベリアに移される。

●ラビ・シモン・バー・ヨハイ(通称:ラシビ)。
150年頃 伝承では、ラシビが『ゾハールの書』(光輝の書)(セーフェル・ハ=ゾハール)を書き記す。
ラシビはラビ・アキバ(40~135年)の弟子。ラビ・アキバとその弟子たち(約2万4千人)はローマ人に戦いを挑んで殉教する。アキバが死ぬ前、ラシビはアキバとラビ・イェフダ
・ベン・ババにより後継者に任命される。迫害から生き残ったのはラシビと息子エラザーと他三人のみ(計5人のみ)。
彼は息子と共に逃亡し、ツファット近くの洞窟に13年間隠れて、『ゾハールの書』を書き記す。ラビ・アバの口述筆記により、アラム語で書かれた。その後、この書はツファットの洞窟に長年隠されてきた、とされる。

200年頃 ラビ・ユダ・ハナシー(138-271頃)を中心にミシュナ(成文化された口伝律法)が編纂される。

390年 ティベリアでゲマラ(ミシュナの注解)が編纂される。これをパレスチナ・タルムード(もしくはエルサレム・タルムード)と呼ぶ。

500年 ラビ・アシとラビナ・バル・フナ(499年没)によってゲマラが編纂される。こちらはバビロニア・タルムードと呼ぶ。タルムードには2種類(パレスチナ版とバビロニア版)あるが、一般的に権威があるとされるのはバビロニア・タルムードの方である。

イェフダ・ベン・シェムエル・ハレヴィ(ユダ・ハレヴィ)(1075-1141)
スペインのトレド出身。ユダヤ哲学者、詩人。
1140年『クザーリ(ハザール)の書』…異教の王とその臣下のユダヤ教への改宗物語。

モーシェ・ベン・マイモーン(モーゼス・マイモニデス)(1138-1204)
スペインのコルドバ出身。
1161-68年『ミシュナー註解』
1168-77年『セーフェル・ハ=ミツヴォット』(戒律の書)…ユダヤ教の613の戒律の一覧。
1168-77年『ミシュネー・トーラー』(全14巻)…ユダヤ口伝律法の法典化。
1185-1191年『迷える人々の為の導き』…ユダヤ思想とアリストテレス哲学との融合。

12世紀末 『バヒルの書』(セーフェル・バヒール)(光明の書)が書かれる。作者不明。文字が不鮮明で現在でも解読不能。

1290年頃 『ゾハールの書』がツファットの市場で魚の包装紙として使われていたのをカバリストが発見し、買い取った。スペインのラビ・モーシュ・デ・レオン(1250-1305)がこの発見された『ゾハールの書』を出版する。(実際はラシビの名を借用して彼が書いた偽書であるとの説が一般的)。
カバラの最も有名な書。世界はアイン(無)、アイン・ソフ(無限)、アイン・ソフ・オール(無限光)の流出を経て、第1のセフィラから稲妻の閃光が発せられて第10のセフィラまで到達し、物質界が創造されたとする。新プラトン主義の影響が感じられる。

1471年 イタリアで『ヘルメス文書』のラテン語翻訳版が発行される。(ヘルメス・ルネサンス)

ピコ・デラ・ミランドラ(1463-1494) イタリア
カバラをキリスト教に最初に取り込んだ人物。彼は1486年『人間の尊厳について』で、人間には自由意志が付与され、理性により善の道も悪の道も選べることが、他の動物とは異なる人間の尊厳だと説いた。
彼はプラトンとアリストテレスの調停、イブン・シーナ(超越主義)とイブン・ルシュド(合理主義)の調停、カバラとキリスト教の融合などを試みた。彼は魔術を信じたとカトリックから危険視されたが、彼自身は黒魔術は否定しており、自然科学(白魔術)を信じていると主張した。
また占星術は人間が運命に左右されるとするもので、神が付与した自由意志を持つ人間の尊厳に相応しくないとして退け、『反占星術論』を書いた。彼はカバラに精通していたが、彼のカバラは聖書解釈をキリスト教に応用するもので、魔術や占星術を取り込むものではなかった(むしろ魔術や占星術には反対論者)。

1492年 スペイン王国で両王はユダヤ教徒追放令を布告し、スペインのユダヤ教徒(主にスファラディー)は各地に離散する。

1520-25年 ヴェニスのキリスト教徒ダニエル・ボンベルグ(1549年没)によって中世のラビたちの注解も加えられたタルムード完全版が出版され、現在のバビロニア・タルムードが完成した。しかしゲマラの多くの箇所は現在欠落している。

●ラビ・イツハク・ルリア(通称:アリ)(1534ー1572)。
1534年 アリはエルサレムに生まれる。エジプトで育つ。スペインから追放されたユダヤ人の子孫。商業で生計を立て、カバラの研究に没頭する。ラビ・モーセ・コルドベロ(通称:ラマク)(1522-1570)の諸文書(『石榴の庭』1548など)も研究した。伝承では、7年間ナイル川のローダ島で7年間孤立して過ごしたという。

1570年 アリはイスラエルのツファットに移住する。彼のもとに弟子たちが集まりカリスマとなる。アリの諸文書『生命の樹』『意図の出入り口』『転生の出入り口』など。世界は未完成であるとか、霊魂転生を説く。
1572年 アリ死去。彼の息子ラビ・ハイム・ヴィタル(1543-1620)とヴィタルの孫が教えを継承し、ルリア神学として広まる。

1543年 マルティン・ルターが『ユダヤ人と彼らの嘘について』を著す。

1614年 薔薇十字団(ローゼンクロイツァー)
クリスチャン・ローゼンクロイツ(1378-1484)という伝説上の人物により創設されたと言う。実際にはヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエが中心人物だったと言われる。
薔薇(Rosen カバラ、ゾハールの書に登場する薔薇)+十字(Kreuz キリスト教)の融合を表す。
1614年『全世界の普遍的かつ総体的改革』とその付録『友愛団の名声』。
1615年『薔薇十字団の信仰告白』
1616年『化学の結婚』(小説)…化学とは錬金術のこと。

1665年 シャブタイ・ツヴィ(1626-1676)による偽メシア運動。
ガザの預言者アブラハム・ナタン(1643-1680)の扇動により説得力を持ち、ユダヤ人の間に熱狂的に迎えられ、シャブタイ派(サバタイ派)を形成する。
1626年 シャブタイはトルコのスミルナ(現イズミール)に生まれる。禁欲生活と奇行が目立つ生活を送る。
1665年 ルリア神学に傾倒したガザのナタンは幻を見て、ツヴィがイスラム勢力からユダヤ人を解放するメシアであると預言し、ツヴィも本気になってメシア宣言をする。彼は古い律法を廃止した。
1666年 ツヴィはイスラム教への改宗を迫られるとすぐに応じたが、ナタンはこれも神の戦法であり、霊的領域での闘いに移行したと主張した。すなわち、異教に改宗することで異教を内部から腐敗させ、神の国の到来を早めるという思想である。
1676年 ツヴィの死後もナタンはメシアの再臨を主張し、シャブタイ派の信仰はその後もしばらく続き、ハシディズムに影響を与える。

ポーランド出身のヤコブ・フランク(1726-1791)は自称メシアとして現れた。彼はキリスト教に偽装改宗した。彼の思想はシャブタイ派より過激で、この世の悪を人為的に増大させることで終末を早めるというものだった。彼の思想に傾倒する者をフランキストと呼ぶ。1756年、彼は正統派ユダヤ教から破門を受けた。

1750-19世紀末 ポーランド・リトアニア連邦(現ウクライナ )出身のラビ・イスラエル・ベン・エリエゼル(バアル・シェム・トーブ)(1698-1760)によって、ルリア神学はより内的傾向を持ち、「ハシディズム」(敬虔主義)が興隆する。ハシディズムのほとんどのラビはカバリストであった。

1850年迄 ドイツのアブラハム・ガイガー(1810-1874)により、ユダヤ教の世俗化を容認する「改革派」運動が興隆する。一説には、フランキストたちが改革派を推進したとも言われる。

1856年『高等魔術の教理と祭儀』
エリファズ・レヴィ(1810-1875)。近代魔術の父。セフィロトにタロットの大アルカナを組み込んだ。

1881年〜 ウクライナとロシアでポグロムが多発し、多くのユダヤ人が虐殺される。これを機にユダヤ人のロシアからアメリカへの移住が盛んになる。

1890年 ナータン・ビルンバウム(1864-1937)が、ユダヤ民族、シオニズムという概念を考案した。

1894年 ドレフュス事件。

1896年 テオドール・ヘルツル(1860-1904)は『ユダヤ人国家』を著し、シオニズム運動を起こした。

1897年 バーゼルで第一回シオニスト会議が開催される。

1913年 バルフォア宣言。

ゲルショム・ショーレム(1897-1982)
ドイツ出身のユダヤ人。ヘブライ大学教授。カバリスト。シオニスト。ユダヤ神秘主義研究の第一人者。エラノス会議にも参加した。
1941年『ユダヤ神秘主義』
1960年『カバラとその象徴的表現』
1973年『サバタイ・ツヴィ伝』

●ラビ・イェフダ・レイブ・アシュラグ(通称:バール・ハスラム=梯子の所有者)(1885-1954)。
1885年 ポーランド出身。ワルシャワで裁判官、教師となる。
1921年 イスラエルへ移住。
1927年『パニム・メイロット・ウマスビロット』…アリの『生命の樹』の解説書。
1937年『タルムード・エセル・セフィロト』(10個のセフィロトの研究)
1945-53年『ペルシュ・ハスラム』(梯子の解説書)…『ゾハールの書』の解説書。
1954年 死去。

ラビ・バルーフ・シャローム・アシュラグ(通称:ザ・ラバシ)(1907-91)
バール・ハスラムの子。父の文書をさらに詳しく述べる。
『ゾハールの書』とアリの諸文書の包括的な注釈を行った。

1915年 バラ十字会AMORC設立。薔薇十字団の後継団体。
AMORC(アモールク)とは「Antiquus Mysticusque Ordo Rosae Crucis」というラテン語の頭文字で、「古代から継承された神秘哲学を研究する、バラと十字を象徴とする団体」を意味する。ハーヴェイ・スペンサー・ルイス(1883-1939)によりアメリカに設立。

1941-1945年 ナチス・ドイツによるホロコースト。
ホロコーストはギリシア語で「全焼の供儀」(律法で規定された犠牲の一つ)を指す。

1948年 イスラエル国の建国。

ハバット・ルバビッチ運動
ラビ・メナヘム・メンデル・シュネルソン(通称:レッベ)(1902-1994)はソ連出身、ニューヨーク在住。ニューヨーク州ブルックリンに本部を持つ正統主義のハバット派(メシアニック・ジュー=イエスをメシアと認めるユダヤ教)の指導者で、死後も信者からメシアだと見なされている。

1984年 カルフォルニア州ロサンゼルスに「カバラセンター」の設立。
創設者フィリップ・バーグ(1927-2013)。
※歌手のマドンナが信者である。

1991年 「ブネイ・バルーフ カバラ教育研究所」の設立。
ブネイ・ブルーフは'' バルーフの息子たち'' の意味。
創設者マイケル・ライトマン(1946-)。
カバラは宗教でも神秘主義でもなく科学であると主張する。


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