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日の出のかんそく

勉強

小学生のとき理科の課題で「日の出のかんそく」をすることになった。
画用紙に東の方向にある建物なんかを描いて
何時にどこから太陽が出たかを描くというものだ。

マチナカにいたので、東の方向もどこもみな建物だらけ。
そこで二階建ての家の屋根に上がって「かんそく」することにした。
花火大会のときにも何度か上がって見ていたし。

さてかんそくする日は何時に日が出るのだろうか。
親が新聞を見て、5時何分と調べてくれた。

方位磁石なんか無くて
「ウチの玄関はまっすぐ北向きだ」という親の助言に従って
屋根にまたがってまっすぐに画用紙を付けた画板を置いて
「自分が向いている方向が東!」ということにした。

さて屋根に上がって日の出を待つ。
お父さんの腕時計を握って
お尻の下には痛くないように、座布団。

空は明るい灰色でどちらをむいても同じ色で
まるでうちにあった大きな金属の果物皿の色だと思った。

届かないとわかっていても手をのばしてみたら
なんだか手が届いたように思えた。
自分の上が全部「そら」だった。

とてもしずかで風も無く
ぼんやり空を見ていたら
細い黒い糸のようなものがゆっくりと形を変えながら流れていく
あ、渡り鳥だ!

やがてあたりがはっきりと明るくなってきて
遠くの建物に日が当たって金色に光りだし
もう、日が昇っているのに太陽はなかなか顔を出さず
やがて一生懸命に見ていた場所とは違うところから
ひょっこりと顔を出した。

ここらだろうと思っていた場所の絵を描いておいたのに
そこじゃないところから出てきたしまったものだから
絵を描きなおさなくてはならなくなり
消しゴムを持ってきていなかったし
あせって上から描き足したけどごちゃごちゃになって

私は半べそをかきながら屋根から下りた。

方角も基準点もそんなことは全く頭に無く
科学的には全くもってアバウトで残念な「かんそく」だったが

あの日のシルバーグレイの空としずけさが
宝物のように心に残っている。

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