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足音がついてくる

小さな怪奇現象

昔々、中学生の時だった。
学校からの帰り道、大抵は友達と一緒なのにその日は一人で
薄暗くなった雪道を歩いているとすぐそばから音が聞こえる。
タン、タン、タン、タン…
自分が歩くのと同じリズムで・自分と同じスピードで
足を速めると早くなり、ゆっくり歩くとゆっくりに。
立ち止まると音は止まり、歩き出すと一拍遅れてまた始まる。
もちろん、周りには誰もいないし自分の足音でもない。
困ってしまって
水木しげるが書いていた妖怪「べとべとさん」かもしれないと思ったので
雪の踏み跡を一歩横に外れて
「べとべとさん、先にお越し」とつぶやいてみた。
そう言うと、べとべとさんは追い越していってくれるのだという。
で、歩きはじめると
再び、一拍遅れて
タン、タン、タン、タン…
あれ~?効かないよ?
そこで、歩きながら音の出所を集中して聴いてみた。
身体の中央の・お腹より下の・膝より上…
のぞきこんだ私の目に
パーカーの裾でファスナーの金属製の「つまみ」が揺れているのが見えた。
ファスナーを閉じて前を合わせていたから
金属製の「つまみ」はあごのところまで引き上げていたが
このパーカーはファスナーのスライダーが2個ついているタイプだったのだ。
私と歩調を合わせてタン、タン、と音を立てていたのは
下の方についている「つまみ」がパーカーの裾に当たっていたのだ。
立ち止まったら音が止まったのは当たり前で
歩き出すと一拍遅れて音を立てたのは
一歩踏み出した時に「つまみ」が身体側に押しつけられ
次の一歩で前に降り出されて・それが戻って当たっていたのだ。
なあんだ!と
少しだが怖がっていた自分がおかしくなって
翌日の通学時、友達に話したら
ホントに「べとべとさん先にお越し」って言ったのぉ?と笑われた。
自分としては大まじめだったのだが。

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