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大人は聞いてくれない

小学生の時学芸会の小道具が壊れたのを私が壊したことにされた。
私じゃないのに、と家に帰って母に不満をぶちまけると
母は自分が子どもの時にあったことを話してくれた。
北海道の田舎の浜育ちの母が尋常小学校の頃の話。

道を歩いていたら小さな女の子が男の子たちに囲まれていじめられていた。
やめなさいと言うと
男の子たちが
「お前がこの橋の欄干に上がって向こうまでいけたらこの子は放してやる」
と言ったので
覚悟を決めて草履を脱いで懐に入れ(当時は着物)
橋の欄干に上がって
そろりそろりと向こうまで渡ったのだと言う。
やっと渡り切ったら、男の子たちは
「やーい、おとこめっけー!(おとこおんな)」
とはやし立て、小さな女の子をそこに残して行ってしまった。
それで
女の子は助け出せたが
それを見ていた人が親に言いつけたらしい。
家に帰ったら
「お前は橋の欄干に上がったんだって!?」
と、ひどく叱られた。
「だって、だって…」とワケを話そうとしても
聞いてもらえなかったのがものすごく悔しかった
そういうことを
母は本当に悔しそうに話してくれた。

いいことをしても報われるとは限らないし
いくら理由を説明したくても聞いてもらえないこともあるのだと
小学生の自分にはあまりにも理不尽な話だったが
大人になるにつれ
何度も同じような目に遭った自分は母に似ているのだろう。

そうそう

こんなこともあるから、子どもの言うことは聞くべきだよ。
誰の話でもだけど。

もうひとつ

太平洋戦争中、父が戦地に出征したとき
母はお腹に一人抱えて、まだ小さな兄を育てていて、姑も一緒だった。
空襲警報が札幌の空に響きわたったとき
「敵機の姿一目見てから死んでやる!」
と思った母は防空壕には入らずに
仁王立ちになって空をにらんでいたのだと。
「それがねえ、頭の上からごうーんって聞こえるんだけど全然見えなくてね。」
そのうち北の方から小さく「ど、どおおーん」と爆発音が。
後から、札幌の北、石狩が爆撃されたのだと聞いたのだと。


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