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千年のみどり

勉強

昔々、遺跡発掘のアルバイトをやっていたことがある。
掘っていたのはおよそ1000年前の遺跡。
さて、地表からどんどん掘り下げていったところ
地下2mより深いところに厚い粘土層があった。
当時そこは川べりで、川が氾濫して分厚い泥で覆われてしまったのだ。
その粘土層を移植ゴテで丁寧にはがしていくと
きれいな「葉っぱ」が出てきた。
押し葉のようにぺったりとしているが、緑色をした普通の木の葉だ。

桜餅の葉みたいだな

と見ていると
みるみるうちに暗い色に変わっていき
ものの1分ほどで濃い茶色になってしまった。
まるで地面に張り付いている晩秋の落ち葉のよう。

厚い粘土層の下で水に漬かり空気をさえぎられ
葉っぱは千年の間緑のままでいたのが
粘土をはがされ空気にさらされ急激に酸化してしまったようだ。

移植ゴテを動かし続け
次に目にしたのは
粘土の中にきらりと光った細長い甲虫の外羽だった。
これは、アオカミキリモドキの羽の片方だ、と思った。
緑色の光沢が美しい。
もう片方はどこに行ってしまったのだろう。

そしてこの美しい緑の羽も
なんとか緑色は残ったものの、みるみるうちに光沢を失っていき
千年の時間はホンの一分で流れ去ってしまった。

そうだ

このアオカミキリモドキの名前が分からなくて調べたことを書いたのだが
確かに昔々発掘現場でこれを見つけたときは
コイツはアレだアイツだ、とわかっていたのに
そのことを忘れてしまっていたワケだ。
記憶なんてこんなモノなのか。(呆

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