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私家版あらしのよるに

「あらしのよるに」という絵本がある。(木村裕一作、あべ弘士絵)ある嵐の夜に真っ暗な山小屋で出合ったヤギのメイとオオカミのガブが相手の姿が見えない中で話をしているうちに親友になるというお話。一作目は嵐がおさまり、二ひきは再会の約束をしてまだ暗い野原へ出て行く。読み終わったとき、明るい光の中で再会しちゃったら、どうなるんだろうと思いつつも・ここで終わってほしい、ひそかに続編が出ないことを願ってしまった。

ところがこの作品は好評で、続編が出てしまい、何話か続いた後にあまり好きではない最終回を迎えてしまった。自分としては、この悲しいだけの終わり方がどうにも好きになれかった。これでは読んでいる子どもたちだってかわいそうではないか。
「悲しい」と「感動する」は違うのだ。

 で、自分ならこうするという結末が脳内にできあがった。
今では自分的に「あらしのよるに」の結末はこちらになっている。


 ガブはオオカミの遠吼えを耳にした。追手が迫っている。
「メイは大事なともだちだ。おいらが守ってやるぜ」
ガブは、そっとねぐらを抜け出した。
雪が積もった尾根の端まで歩いていって、首をのばすと
雪の斜面をこちらへ向かって登ってくるオオカミたちの姿が見えた。
「よおおおおーし!」
ガブが前足に力をこめると
「ぬけがけしようったって、そうはいきませんよーだ。」
「あっ、メイ。」
「わたしだってこのツノでオオカミの1ぴきや2ひき…。」
「コワイこというなよ。」
メイはずいっとガブの前に出た。
「いいですか、これがヤギのたたかい方です!」
メイはうしろ足をふんばり、おどり上がってニ本の前足を高々と上げて
力づよくふみ下ろした、そのとたん
メイの前足が胴体までずぼっと雪に入って
メイの身体の下から、まっ白な雪にぴーっと真横にさけ目がはしり
白い地面が「ごっ」と下に落ちた。

 ガブはあわててメイのしっぽにかじりついた。
おそろしい音がひびき、だんだん大きくなって
雪けむりがどんどんふくれあがりながらふもとへと拡がっていく。
ガブは雪の崖にぶら下がったメイのからだを力いっぱい引っ張り上げた。
メイの身体がガブの後ろに飛んで、メイのしっぽが「ぷつん」。
ガブはひっくりかえった拍子に思わず「ごくん」。

「あ、メイのしっぽ、たべちゃった。とうとうメイをたべちゃった!」
と、びっくりしたとたん、ガブは吐いた。
雪の上にげえげえとくるしそうにメイのしっぽと血を一滴のこらず、吐いてしまった。

「そんなにまずかったんですか。」
メイは雪の中にすわりこんでおしりの傷をひやしながらガブを見ていた。
「いや、そういうわけじゃないんだけど。」
ガブはまだ、はあはあ息を切らしながらメイのしっぽをていねいに雪の中に埋めている。
「なんだか、おいらのおなかが、メイは食いものじゃないって。」
ガブは目に涙をためて、メイを見つめた。
「はいたら、なみだが出ちまいました…。」

ずっと下、山のふもとに、まっしろな雪がデコデコにもりあがっている。
オオカミたちのすがたはどこにもみえない。
「あいつら、雪にくわれちまった。」


「なにがあったって、おいらたちはともだちですからね。」
「ええ、なにがあったって、ふたりでがんばれますもんね。」

二ひきは山の向うへと連れ立っていく。


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