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惻隠の情

古代中国には孔子と並ぶ思想家の孟子がいた。
時代は紀元前350年あたり。
この孟子の言葉で良く知られるものに
「惻隠(そくいん)の情」がある。
これは「人間には誰にでも同情心というものがある」という
孟子の性善説を表す言葉で
孟子はそれを例えて
もし幼児が野井戸に落ち込みそうになっているのを見たら
人は誰でもいてもたってもいられなくなって助けようとするだろう。
としている。
そういう「忍びざるの心」を惻隠の情と呼んだのだ。
だがしかし
これを高校の古典で習ったときに
「いやー、子どもを井戸に突き落とそうとするヤツもいるでしょ」
と思った。
世の中には確かに善人はいるけど悪人だって間違いなくいる。
さてそこで
今日、夕方に大きな公園を通り抜けようと歩いていて
ふと気づくと、小さな女の子が自分のずっと先を歩いていたのだが
まだ2歳くらいの小さな子なのにそばに大人がいない。
というか、そばに誰もいない。
あれ?と思って周りを見回すもそれらしい大人がいない。
100mくらい離れた所で親子連れがぱらぱらと遊んでいたが
この子の保護者はどうしたのだろう?
追いかけてくる人もいないし
はて?
ちょと。
待って。
どゆこと?
小さな女の子はちょこちょこ・どんどんと進んでいく。
親は?保護者は?どこ?と見回しながら
それとなくその子の方に近づいていって
これ、傍から見たら自分が不審者だよなーと思いつつ見守っていると
はるか遠くから30歳くらいの男性がスマホをかざして駆けてくる。
保護者?お父さん?
この持ち方はスマホでこちらを動画撮影しているようだ。
ずうっと近づいたところでその男性がちょこっと会釈をしたので
私は同じくちょこっと会釈を返しながら
胸に手を当てて「よかったー」とだけ言ってその場を離れた。
きっと、元気に歩く子どもの様子をずうっと撮影していたのだろう。
で、スマホの画面だけ見ていたのだろう。

そうしたら
不審なばあさんがあたりをうかがいながら
子どもに近づいてきたから慌てて走ってきたとか?
それは勘弁してほしい。
もし私がホントに凶悪な人間だったら
男性が走ってくる十数秒間に
どれだけのことを我が子にされるのかを想像して欲しい。

家に帰ってから夫にこのことを話すと
そういう時には子どもに近づかないようにと言われた。
犯罪者にされて警察に連れていかれると。
その子が事故に遭ってもしょうがないのだと。

警察官にはちゃんと状況を説明するし
警察に行ったってちゃんと話すから!
とにかく
私は子どもを放っておけなかったの!

と反論すると
「お前はホントに絶滅危惧種だな」と。

自分だってネット上の
泣いている子どもを助けてやろうとしたら不審者扱いされた
などという話は読んで知っている。
いやな世の中だなーとは思っている。

それでも私は子どもを放ってはおけないのだ。
絶滅危惧種で結構。


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