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【編集後記】秘密のひとくち

KUKUMUに記事を投稿してから、早一ヶ月が経ってしまいました……!

家族に秘密で桃を喰らう。ひとりでおいしいものを食べる。ただそれだけの行為をつづったエッセイなのですが、思入れのある一本になりました。

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このエッセイを書きすすめているうち、ひとつ重要なことに気づいてしまいました。それは「 私って、ひとりっきりのシーンじゃなくても、家族のまえで堂々と『秘密のひとくち』を楽しんでいるんじゃない?」ということ。

私は台所を主戦場とするシュフです。お客さんは夫と4歳の娘。シュフになる前はまったく知るよしもなかったのですが、シュフには「キレイに仕上がったものや、おいしい部分は、お客さんに優先して提供したい」というプロ意識みたいなものが自ずと湧きあがってくる習性があるんですね。
シュフ歴わずか7年ほどの私にも、職業意識の片鱗が少しづつ芽生えてきています。

たとえば、チャーシュー。
肉を薄切りにして盛り付けるとき、夫と娘のお皿には、赤身と脂肪の比率が理想的な厚みのある一切れをのせていきます。無意識のうちに自然とそうなるのだから、シュフとは不思議な生き物です。一方シュフのお皿には、脂身がやたら多い部分や、見栄えのよくない切れ端がのりがち。

いっけん、シュフってソンな役回りに見えますよね。でもでも。この「切れ端」がなんともウマい。おもわずニヤリとしてしまうウマさがあるんです。
もちろん、夫や娘には「あなたたちのお皿にのっているお肉が、一番おいしいところなのよ」という顔をします。それはウソじゃあない。紛れもない真実なんだけど、「切れ端」のおいしさは秘密。ひとり占め。その秘密が「切れ端」をいっそうおいしくしてしまうんだから、こまったものです。

桃にしたって、やっぱりそう。
私は、桃をキレイにカットするのがめちゃくちゃ苦手です。種を中心にクルっとまわして半割にするアレが上手にできません。だから、ふだんは桃の表面から削ぎ切りしていくスタイル。

そぎぎりスタイル

お客さんである夫と娘には、桃の一等あま~い「皮に近い部分」や「あたまの部分」を差し上げることにしています。きちんとフォークも添えてテーブルに出せば、ふたりは「おぉ~、ありがとう!」と言いながら、夢中になって桃を口にはこんでゆく。

そんな二人を眺めながら、シュフはひとり「芯に近い部分」の桃を、直接手にとりむしゃぶりつきます。

「桃は種から遠い外側の部分が一番おいしいんだよねえ、でも種のまわりの実がもったいないからさ、わたしゃ残さず食べるよ。フォークが種にあたって食べにくいから、仕方がなく手に持って食べるんだよ」。

言いわけじみたひとりごとを言いながら、種のまわりをねぶるシュフ。「芯に近い部分」の甘みはたしかに少なめ。けれど、この「ねぶる」食べ方が桃をさらにおいしくする、とシュフはひっそり思っているわけです。

「お客さんによろこんでもらいたい」。そのおもてなしの気持ちにウソはありません。けれど、シュフしか知らない「秘密のひとくち」がある。内心で、おもわず「うふふ」とほころんでしまう甘美な秘密がある。

こういう秘密って、私にかぎらず全シュフにあるんじゃないかな。「うふふ」なひとときがあるシュフ。これってわるくない職業だな~と思うんです。

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