偽悪

「へぇ…、偽善者が許せない?そうか、何かあったんだね。なんでそんなに許せないの?……うん、あぁ、自分の感情偽ってそばにいられたくない。そうだね。わかるよ。信頼していた人が本心から優しくしてくれていたわけじゃないって、辛いよね。聖書いわく、『偽善者:小羊の毛皮をかぶった狼』、だってね。

でもさ、いつも思うんだよ。 『偽善は悪なりや?』ってね。何。太宰の『人間失格』みたい?冷やかさないでよ。僕は真面目な話をしようとしてるんだ。いや、君の話を否定したい訳でもないよ。とりあえず僕の隣に座って、話を聞いて。よし、良い子だ。(頭を撫で、わらう。そして手揉みをして深呼吸。話始める。)


まだ僕が高校生だった頃、僕には好きな人がいたんだ。ん?大丈夫だよ。今は君の事が大切だ。これは昔の話。

この子は事情があって、学校に来られなかった。時々来ても、遅刻だったり、早退だったり。夏休み前から、単位不足が危ぶまれた。僕はそんな彼女の為に自分の事そっちのけで尽くした。授業の版書を送ったり、連絡事項を伝えたり。彼女に教えるために苦手な勉強だって頑張った。

そして最後にいつ会ったかもわからなくなった頃、僕は彼女に完全に惚れてしまった事に気がついた。そりゃあもう、彼女の爪先に接吻できるくらい。その上から頭をグリグリ踏みつけられても良いくらいね。 あぁ、僕は正気さ。(清々しい笑顔)

そんなにも僕は彼女に溺れてしまったわけだけど、最初はそんなつもりなんてさらさらなかった。皆初めはそんなもん?まぁね。でもね、僕はねぇ酷かったんだよ。酷いんだよ。

高校に入学した春、孤立していた彼女は一人でいた僕に話しかけてきた。そして昔の話をしてくれたんだ。イジメられたトラウマで学校は嫌いだけど、進学はしたいこと。少し不安定な親の事。人間不信。 次の日彼女は学校を休んだ。

僕は考えた。自分には仲の良い友人も、肯定してくれる家族もいない。 この人を、利用したらどうだろう?(今まで見たことのないような、悪魔の微笑。) 丁寧に接して、怪しまれない程度に優しくして、そしてありったけの愛情を注いだら?きっと彼女は喜ぶだろう。優しいこの僕に感謝するだろう。(盛大に声をあげて笑うも顔は能面の如し)

あぁ、良いじゃないか。この人も、きっと嬉しいだろうし、自分の欲求も満たせる。誰も、損をしない。 今のこの子は弱ってる。そこに、つけこもうじゃあないか。 ふふ。そうやって僕はあさましい事を始めたんだ。

彼女が好きだと言った物は全部調べた。話をあわせるために。
できるだけあの子をクラスに張り付けるために私の周りの人を彼女に紹介した。
しまいにはそっとあの子のロッカーを開けて彼女のあらゆることを知ろうとした。

僕はしたかった事を全部やりとげた。僕は息ができなくなった事にようやく気がついた。



おや、震えているのかい?(伸ばした手を払い除けられる。)
どうしたんだい?僕の事が嫌いになった?
触らないでって、どうしていきなり。
私にも偽善的な事してたの、ってまさかそんなワケが…
待って!

行っちゃったか。



(そっと呟く)
偽善から生まれる善だって、信じてよ。」

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