「のほほんと」

あなたは中絶手術は二度目ですね
もう繰り返さないほうがいい
そう口にしないかわりに
医者は麻酔の量を減らした
「はい1からゆっくり数を教えて下さい」
注射器がチクリとしてから8で暗闇にストンと落ちた
固いベッド まぶしい天井
私は急に目が覚めた
痛い 痛いよ
医者が今まさに
私の股の間を覗き込み
ざくりざくりと冷たい器具で掻き回す
もうするな
もうするな
この痛みを忘れるなと
子宮から胎児が落ちてくる
さっきまで優し気に微笑んでいた看護婦が
目を吊り上げ私の腕を押さえ込む
ここは女牢か拷問か

あの痛みは二十代
医者の思惑どおりにはいかず
私は三十代にも繰り返してしまう
授かりものを抱いてあげることもできなかった
ときおり思い出し むせび泣く
それでも私は平然と生きる
タネを植え付けた男といえば
痛みすら知らないで
のほほんと生きてる
のほほんと






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