Action
「帰るよ」
ばあばの機嫌が悪いから。
じいじに用が済んだらさっさと帰れって言われたから。
「コロナだから長居はしないよ」
本当のことは言えないから、嘘ではないけど真実ではない言葉で息子に帰るよう促した。
「ごはんたべたい」
今までならお昼ごはんくらい一緒に食べて帰ってたもんね。
「私たちがコロナに感染してると思ってるの?へー早く帰らなきゃねー」
一瞬、何言ってるかわからなかった。
コロナに感染してたらマスクもせずに家に上がって話したりしません。どろどろした黒いもので苦くなった。夫も息子も、もう近づけたくないと思った。
そのとき、息子が私のところに戻ってきた。先ほどまでは帰りたくなさそうにリビングまで走って行ったのだけど、何か伝わったのか、気が済んだのか、すんなり靴を履いて車に向かってくれた。
「ありがとう」「ばいばい」
いつもなら車が見えなくなるまで見送ってくれていた両親。今日はすぐに扉を閉めて消えていった。
いつものように、いつまでも手を振って「ばいばい」と言い続ける息子を見て泣きそうになった。
夫の両親や親族はみんな優しくてあたたかだ。あそこに帰りたい。距離が邪魔をする。コロナなんてなければ。
どんなに友人や近所の方と仲良くしても、親族の壁があることは知っているから、やっぱり両親に愛してほしかったな。
でも、それ以上に、息子に恥ずかしくない私でありたいから。今は悲しくても、きっと大丈夫になると信じて。
大切にしてくれる人を大切にしたい。
愛し愛され、尊重し合える関係がいい。
世界は家族だけじゃない。
あなたがあなたで在ることが素晴らしくて、どこに行っても大丈夫。生きていけるよ。
そういう風に育ってほしい。
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