空と空
「ねぇ、そこのおじさん」
なんだい
「ひさしぶり。また助けて欲しいんだけど」
ああ、不良の女子高生かい。
「そう、あなたの出来の良い娘さんと違う夜中にぼけっとしてる不良の女子高生よ」
それで?
「だーかーら。これ二回目ね、やっぱりユーモアっていうの?あるんじゃないかな」
覚えてたからね
「うん、覚えててもなかなか返せないものよ。ネタ振っても返してくれない人とか逆に振ってくれる人も少なくてね」
今日は元気だね。あれからはゆっくり寝れるているのかい。
「まあね、割と。私結構頭良いからさ。なんというか物分りっていうの?理解も早くてね。自分の環境がバシーっとビシーっと頭に入ってきたわけ」
なら、もういいだろう。助けはいらないんじゃないかな。
「それがね、多感な女子高生は助けを求めて空を見上げるのよ」
空は君を救ってくれるのかい?
「駄目ね、広いだけだわ」
そうだね。
「あれが”そら”なら私は”から”よ」
面白い事を言う。
「頭よさそうに聞こえるでしょ」
それで、何があったんだい。
「なにさ、付き合ってくれないの」
その話続きはあるのかい?
「ないわよ。関心してもらいたいだけ。女子高生の武器よ。これは」
面白いな。
「多感だからね」
それで、多感な女子高生は今回は何を助けて欲しいんだい?
「前に教えて貰ったじゃない。ちょっとした事とかをクリアしていく奴」
ああ、逆上がりするのに随分時間が掛かっていたね。
「はいはい、おかげさまで随分私のパンツも見れたでしょう」
君が勝手に見せていただけだろう。僕が待っていた時間とは対価になるのかい。
「なるに決まってるでしょ。おじさんはお金出さないと普通見れないものなんだから」
必要だから出すんだ。僕には奥さんもいるし、女子高生のパンツにお金は払わないよ。
「はいはい、ご馳走様」
それで、それが判っているなら今の状況を自分で対応できるとは思うんだけど。
「それがね、また違う問題なの。なんというか心の安心っていうのを手に入れたからこその問題っていうの?なんだかぼけっとしちゃってね」
もやもやがあるんだね。
「そう、それ。思わずこんな時間に空を見上げちゃうような奴」
遅い時間にはあまり出回らない方が良いと思う。
「そうなんだけど、そんな時間に外に出ているっていう特別感はあるでしょう。といってもこんな時間なんて女子高生には特別でもなんでもない時間なんだけれども」
かもしれないな。今日も帰りの電車で君と同世代だろう女の子を見たよ。
「それそれ。ただれてんのよ。私らって」
本筋から離れてると思う。
「なんだかね、私って年頃だし、沢山何かを持ってると思ってたんだ」
ああ。
「それでね、そのたっくさんある物っていうのを、今度はどうにかしたいと思ったの」
どうにかとは。
「なんだろ。わかんない」
それを僕に助けさせるというのかい。
「そう、それ。なんだろうどうにかってって思ってたときに、おじさんが通ったのよ」
巻き込まれたっていう訳だ。
「いいじゃない、今のおじさんってお金払って女子高生と話してるのよ」
ええと。
「必要だから出すんだ。でしょ?さっき言ってたわ」
君は人のユーモアすら奪うのかい。
「ユーモアすらとはひどい話ね。ユーモア以外におじさんから奪った物なんてあったかしら」
時間だよ。
「まぁ別にいいじゃない。女子高生は勝手なのも特権よ」
どうせ反論すれば別の素敵なおじさまについて行くんだろう。
「だってそういえばおじさんは付き合ってくれるじゃない」
ああ、そうだね。
「うん、だからおじさんの事結構好きよ」
ありがとう。
「素直なのね」
僕はそれで生きてきたからね。
「それで話戻すけど。なんかね、無いのよなーんも。どうにかしたいけど、そのどうにかが見つからなくて、どうにもならないんだったら無いのと同じなんじゃないかなって思うの。それでなんていうか若者の特権の自分探しをしてた訳」
それで、見つかってないっていう事だね。
「そう、いまだなーんも」
それは僕も同じだよ。
「え、駄目。それは駄目。これはそういう話じゃないんだから」
どういう話なんだい。
「おじさんが可愛い女子高生に諭して教えて導くの」
そんな簡単な話なんて無いよ。
「前回そうだったのよ。とりあえず私にとってはね」
なら早速答えを出そう。
「あるんじゃないの。早く。ほらほら」
話相手さえいればそれで大丈夫だよ。
「えーなにそれ。私友達沢山いるよ?」
そうじゃない、こういう話だよ。自分を曝け出しているような、そんな話を出来る相手だ。
「まぁ、こういう話は友達にはしないけど」
そうだろう。僕もなかなかこういう話は人にはしないよ。
「おじさんも自分探しとかした事あるの?」
ああ、君みたいに夜中に外に出歩くことはしなかったがね。
「じゃあどうしたの?」
廃線で寝転んでみたよ。そして空を見た。
「配線?なんの?」
もう使われてない線路の事だよ。昔みた映画の真似と好きな歌の真似を同時にしたんだ。
「それで、私はそこに行って『大丈夫』って言ってあげればよかったの?」
ああ、よく知ってるね。
「逆よ、おじさんが知ってるとは思わなかったわ」
僕は音楽が好きなんだ。あの歌は君が産まれた位の頃の曲じゃないのかな。
「時代なんて関係ないわ。あいむしーんぎんいんざれいん。これ知ってる?」
知ってるよ。
「それ多分おじさんが産まれた頃の曲じゃないの」
なるほど、君は面白いな。
「まかせて。そこらの女子高生とは違うのよ」
あと、僕が生まれるずっと前の曲だよ。それは。
「別にそこらへんはどうでもいいわよ。それで、おじさんは線路上に寝転んでみたりして何かを手に入れれたの?」
わかってるだろう。
「つまんないなぁ。私と同じじゃない」
そうだよ。君と同じだ。
「ならこのもやもやはどうすればいいの?」
そういいながら多分、少しでもなくなってないかな。
「うーん、納得できないけど実感はあるわ。これがその話すって事なのかしら」
これが僕の答えだよ。
「だったらまたもやもやが増えてきたらおじさんち行くわ」
駄目だ。
「だったらここで空を見上げてるから助けに来てね」
たまたま通りがかったら善処するよ。
「なんにも解決になってないのね」
それを歌にするのはどうだろう。
「歌?なにそれ」
歌っていうのは自分を曝け出す事なんだよ。
「それはわかってるわよ。それになんの関係があるかって話」
君に必要なのはアウトプットだと思う。歌じゃなくても良い。絵だったり演技だったり、なんでも良いんだ。
「あー、あーあー、なるほどね」
そう、物分りが良い子は僕は好きだよ。
「なに、ホテル行く?」
今のは撤回する。
「冗談よ」
わかってる。
「でも、別におじさんだったらホテル行ってもいいわ。今そう思った」
冗談でも止めてくれ、僕には奥さんも娘もいるんだ。
「だからいってんのよ。だって安心でしょ」
まぁ、そうかもしれないが。
「そういう事よ」
君はやっぱり面白いな。
「うん、そう言ってくれるおじさんの事結構好きよ」
僕はそれで生きてきたからね。
「略したわ」
ああ、君は次知恵熱で寝付けなくなるって言うんだろう。
「それがユーモアって奴よ。おじさんわかってるわね」
なにもわかってないさ。
「さて、私は帰るわ。ぶっちゃけ寒かったし」
そんな格好していれば当たり前だろう。
「これは女子高生の意地よ。北海道の子なんて雪の中生足なんだから負けてら
れないじゃない」
風邪は引かないように。
「はいはい、それじゃあねおじさん。ありがと」
ああ。
「あ、そうだ」
なんだい?
「パンツ見とく?」
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