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The King

キングという2019年の映画を見た。主演はティモシー・シャラメ。監督はデヴィッド・ミショッドという方だそう。映画には詳しくないし、むしろ2時間の拘束を嫌うたちで、どちらかというと苦手というか、見るにはすごく気合が必要なものである。
ここ最近、イギリスのヘンリー8世あたりの時期のドラマを見ているのだが(これについても、追々まとめたい)、キングはヘンリー8世のテューダー朝よりもひとつか二つ前の時代、100年くらい前の話で、気分的には少し寄り道する感じで見た。単にキーヴィジュアルのティモシー・シャラメに惹かれただけかもしれないが。
キングというのは、ランカスター朝のヘンリー5世のことで、原作はなんとシェイクスピアの戯曲である。
映画の総評としては、なんというか、少し心に残るものが少ないという点で物足りなさはあったが、時代的な面白さを感じるには十分でもあった。
私の世界史の知識がかなり忘却の彼方であることもあって、色々と面白かったというか。

まず、この時期のイギリス(イングランド)王室の雰囲気に違和感を感じるところから始まる。テューダー朝の世界観からすると、大分質素であるし、王への敬意もそんなもの!?という印象。
それもそのはずで、(調べたところによれば)この頃のイギリスは諸侯の集まりというか、まだ国という概念が薄い頃。確かに王と臣下や民衆との距離感は、日本で言えばお城のお殿様に近い。
この映画はフランスとのとある大きな戦いがメインに描かれていて、それに向かう王の決意とか、そういうのが丁寧に描かれているようだった。で、何故そもそもこんなにフランスとバチバチしてるのか?ってところが次の違和感である。
所謂有名な百年戦争なわけであるが、百年戦争とかあったな、ジャンヌダルクね、くらいしかもはや覚えてない私にとってはまた一から調べることになる。
大前提として、このランカスター家というのは、その前の王朝のプランタジネット家の分家なわけだが、このプランタジネット家の始まりがフランス人であるということを知っておかないとならない。
先ほども書いたとおり、国という概念が薄い時代なので、今でいうイギリス・フランスあたりの領土を一体的に考えた方がわかりやすい。現在、北海道、本州、九州、四国をまとめて日本として見ているのと近い。
そのため、イングランドの王様がフランス人(貴族)になるとどうなるのかというと、フランスにもたくさんの領土を持っているということ。さらにはフランス王家との繋がりもとても深いため、領土争いが頻発していたということ。
つまり、百年戦争はイギリスvsフランスというよりは、内戦と捉えるのが正解なのである。世界史をきちんと学んでいる人からすれば当たり前のことだと思うが、テューダー朝の世界観からいきなりキングを見るような私みたいな人はお気をつけ願いたい。
ここまで頭に入ると、この映画の背景も大分わかってくる。
もっと言えば、イギリス産の羊毛とフランドル地方の関係までわかっていれば、最後の最後の側近(と思われる人物)との会話の理解も深まるかもしれない。というかこの人、最後まで立ち場も名前も謎だった。見落としていただけかもしれないが。ただずっとひたすらに怪しかったのが、最後の顛末で明かされたのは面白い。

さて、この時代の領主中心の世界が崩壊すると、後のテューダー朝の絶対王政が始まるわけだが、ハッとしたのは日本の室町、戦国時代とほぼ同時代なこと。日本で徳川家康が天下統一して江戸幕府が開かれたのは1603年であるが、織田信長の安土桃山時代が始まったのは1568年。戦国時代は15世紀末から始まるのはご存知のとおり。
ヘンリー5世の治世は1413年〜1420年と短いが、百年戦争は名前のとおり1337年から1453年と100年以上やっている。その後イギリスでは薔薇戦争という更なる内戦を経て、1485年からテューダー朝が始まる。日本は少し遅いか?笑
戦争の意味合いなど違う点は多々あると思うが、なんというか、全く違う地域の違う人種であっても、似たような歴史を辿っているというのが面白いなと。

中世の、国がまとまるまでの激動の時代は、前提となる知識を再確認しないと私のように違和感を感じ、調べながら映画を見るという珍妙なことになるわけだが、これは昨年の大河ドラマの鎌倉殿を見ていたときとも近い。
王の孤独、重責、戦いの意味、敵だらけの政界での生き抜き方、その辺の重々しさというか暗さ、辛さなんかも、鎌倉殿と通じるものがあった。
近世以降は現代にも通じる価値観なども多くあるが、中世に関しては、そもそも主権国家ではないし、宗教観も全く違うし、頭を中世に切り替える必要があるなと。そんなことも感じた映画だった。

とまぁ、この映画を理解するための知識は得ることができた気がするが、専門家の人からすればとんだ勘違いもありそう。ん〜この時代の講義を受けたい。

余談だが、ティモシー・シャラメの魅力にも今更ながらにハマってしまいそうで困った。まだまだ見たいテューダー朝作品があるというのに。

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