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懺悔

ある街の片隅で
手回しのオルガンを弾く
おじいさんがいました

そのおじいさんは
目が見えません
見えないせいで
子供達からイタズラをされます

服やオルガンに
落書きをされたり
右と左の靴紐を縛られて
歩いた途端、転んでしまったり

ひどいことをされていても
おじいさんは怒りませんでした

ひとりの少年が
おじいさんに聞きました
「どうして、こんなことされても怒らないの?」

おじいさんは
少し困った顔をして答えました

「これはね、罪滅ぼしなんだよ
 昔、私に息子がいてね
 私が殺したも同然のことを
 してしまったんだよ

 夫婦ゲンカが絶えない家でね
 奥さんが一人で出て行っちゃったんだ
 残された私と息子で
 生活をしていたんだけど
 私が息子に
 八つ当たりばかりしていたんだよ
 息子はまだ9歳だったなぁ

 ある晩、
 家に帰ったら息子がベッドで寝ていたんだ
 『起きろ』って触ったら冷たかった…

 慌てて救急車を呼んだけど
 遅かった
 遅かった
 遅かったんだよ

 私が奥さんと息子の気持ちを
 踏みにじっていたことに気づくのが
 遅かった
 どうして、
 『ありがとう』『ごめんなさい』が
 言えなかったんだろう…

 だから、神様は私の目を潰したんだろうな

 息子の供養にこの手回しオルガンを弾いて
 ここで息子に聴いてもらって
 『今までごめんな』って
 毎日謝っているんだ
 もう、30年もやっているよ
 もうそろそろ、
 お迎えが来てもいい頃なんだけどな」

少年はただ黙って、
おじいさんの手回しオルガンを弾く手に
そっと自分の手を添えました。

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