RIVER 【中編】
ひと月くらいたった頃、また青柳が訪ねてきた。突然来た青柳を見て、山本はオロオロしている。
「こんにちは! 山本さん。今日はお話があって参りました。
私、◯◯新聞の記者をしております。
先日、山本さんに助けられて病院の関係者や救急隊の方達に、山本さんのお話を伺って大変興味を持ちました。
上司に企画を提案したらOKが出たので来たのですが、取材をさせていただけませんでしょうか?」
「新聞の記者さんだったんですか! 取材ですか…なんだか恥ずかしいなぁ」
「山本さんの普段やっていることを教えていただきたいんです!」
山本は青柳の話を聞きながら、手持ち無沙汰からその辺に散乱している物を片付け始めた。青柳の顔を見たかったが、どうしても照れくさくてまともに見られない。失礼だと思いつつも片付ける手は止まらなかった。
すると、窓の外が気になった。山本の意識は川岸にいる小学生くらいの男の子二人へ釘付けになった。
男の子たちは、石を投げて水切りをして遊んでいた。楽しそうに、はしゃぎながら足を大きく踏み込むと、ひとりの男の子が足を滑らせ体勢を崩し、川に落ちた。
その時、山本は一部始終を見ていた。青柳の話もどこへやら、すぐロープと浮き輪を持って外へ助けに行った。
青柳は話の途中で山本がいきなり出て行ったので、どうしたのかとビックリしたが、ことの成り行きをすぐ理解した。
そして、青柳はそのレスキューの様子を慌ててスマホで撮影した。
必死に今起こっている全てを収めたい、その気持ちだけだった。
「青柳さん! 救急車呼んで!」
おとなしい山本が怒号とも聞こえる声で青柳に言った。
救急車、警察車両、子供達の家族、野次馬…だんだんと人々が集まってくる。
あたりは騒然としていたが、山本はやるべきことをやって冷静だった。
青柳は新聞記者の証である腕章を付け、無我夢中で山本のことを撮っていた。
そして、翌日の朝刊で山本のことが大きく掲載された。
青柳は、その朝刊を持って山本を訪ねた。
「山本さん、スーパーヒーローですよ。スゴイですね!
私が撮った動画もニュースに流れて話題になっているんですよ」
山本は驚いた反面、なぜか浮かない顔をしていた。
「青柳さん…取り上げてくれることはありがたいし嬉しく思うよ。
でも、俺はスーパーヒーローじゃない。目の前で危ない状況にいる人を助けたいだけなんだ」
「なぜ……そう思うのですか? 何か…あったのですか?」
山本の浮かない表情がさらに歪んだ表情へと変わった。
「昔ね、大学の時の友達と山あいの自然豊かな川でバーベキューをしようってことになってね。前の日まで大雨が降っていたんだけど、次の日はよく晴れてくれてね、朝から出かけてみんなと楽しんでいたんだ。
そしたら川の上流からゴォォォってものすごい鉄砲水が流れてくるのを見たんだ。逃げるというより立ち尽くしていたよ。水がすぐそこまできた時、『逃げろ!』という言葉を聞いて走ったけど、ひとり流されてしまったんだ……後ろを振り返った時は濁流に流されていく友達の顔を見たんだ」
そう言うと山本は、左手で顔を覆った。
来週につづく…
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