放逸する「表現の自由」のから騒ぎ

二週間休むんじゃなかったのかよと言う話だが、先日有ったでしょ。ね、ほら。あの騒ぎ。お題にこんなものが届く程度には。

例のヘイトツイートで脅迫からのアニメ頓挫の件について。

はいはいはい、来ると思ってた思ってたよ紗水さんも~。もっとも、投げ込んだ人が何を聞きたいのかは知らないけども。

正直、事の顛末をちゃんとわかってるわけではないので、順を追って話をすることはできない。要は「小説家になろう」から発掘されたライトノベルが商業出版ベースに乗り、次は満を持してアニメ化されますよ、と言う段になって、実は原作者が中韓に対してヘイトスピーチを繰り返していたことが発覚、これを盾にして誰かは知らないけど関係各位に脅迫がなされ、事態を重く見た関係各位が降板や流通差し止めと言う実質上の白旗をあげちゃったので、これじゃあってんでアニメ化の話そのものが吹っ飛んだ。そんな筋書きだったよな、確か。

で、ここで問題になってくるのは、今回の事態は「思想統制」で有ったり「表現の自由の迫害」に相当するのか、今後益々「表現の自由」は脅かされて行き、ある種の思想に基づく全体主義的傾向を示して行くのではないのかと言う素っ頓狂な危惧が発生していることなのである。

君たちの言う「表現の自由」って何よ。

何をどう発言しようが「自由」であるのが「表現の自由」だが、その発言を咎めるのもまた自由だ。「何を言っても怒られない」ことを表現の自由は最初から保証してなどいない。何を言っても構わないけれど、その代わりちゃんと責任持てよ、と言うのが「自由」の根源に存在する。そして、そのことを説明するために、ネトウヨだのパヨクだのと言う幼稚な発言で立場だけを断罪して済ませることはできないのだ。

私の立場から言うなら「ヘイトスピーチしたきゃしろよ、その代わりそれによって生じる不利益を被る覚悟が有るのなら」だ。言ったことには責任を取れ、それが例え揚げ足取りだったとしてもだ。これを何の背景の説明もなしに「ヘイトスピーチは良くないからするな」と命令形で言い切ってしまうと結局喧嘩にしかならない。そう言う道徳心だとかモラルだとかで説明をしようとするから話が拗れるのである。なぜなら、道徳心もモラルも結局のところパーソナルなものでしかない。もっと言ってしまえば「正しい」と思っていることさえパーソナルなものに過ぎない。

つまり、これを読んでいるあなたが無条件に「正しい」と思っていることをもしかしたら私は「無条件に正しいとは認めがたい」と思っているかも知れない。それを知ったらあなたは自らの「正しい」と言う拳で私を殴るだろうか? 良いだろう、だがそれこそが本当の「思想統制」であり、造反分子を見つけ出して袋叩きにするための「全体主義」の始まりだ。

今回結果的にアニメ化が吹っ飛んだケースは、単に企業側のリスクマネジメントに過ぎない。それは、ヘイトスピーチそのものを批判して看板を下げたのでなく、脅迫と言う歴とした犯罪行為を背景にした危機管理としての一方法であったに過ぎない。だから今回のこの馬鹿馬鹿しいから騒ぎの中で唯一問題になる側面が有るのだとしたら、この脅迫と言う行為が本当に有ったのかどうかなのだ。もしこれがなんの刑事告発もなく押し通ってしまうのであれば、それは確かに世間で飛び交っている思想統制の流れが現実のものになり得るかもしれないが。

何度かこのコラムでも言っているが、思想信条だの正義感だの道徳心だのと言うのは極めてパーソナルな物事である。従って、個々人の間においてその点で齟齬が出ることはどこにだってあることだ。その齟齬を徹底的にやり込めれば闘争になり、互いの責任を基に妥協点を探ると言うのなら、それは交渉になる。つまるところ、最終的には個々人の利益か不利益かを推し量った上で行使されるのが「表現の自由」なのだと言うことを、改めて考え直さねばならない。単純に「人の嫌がることはしない」などと言う道徳教育は初等教育の場でしか通用しないものであって、自らの利益のためなら相手にとって不利益な発言をすることだってオトナの世界にはゴマンとある。そう言った後ろ暗い部分を隠して綺麗事だけが罷り通るようになったら、それは間違いなく全体主義だと断じても構わんだろう。

世の中そんなに単純ではない。シンプルな視野狭窄に陥ること、自分の発言に責任を持たないこと、不利益を盾に第三者を脅迫すること、その全てがアウトだ。今回のから騒ぎの全容は、恐らくそんなものなのだ。まぁ脅迫の事実は有ったのか無かったのか知らんけども、なぜ刑事告発するなり被害届を出すなりせんのじゃろね。どうもそこんところはイマイチ不可解だが、どっちにしても制作会社も出版社もこのまま押し通すのは不可能だと判断したがゆえのことだろう。

自由を語るなら責任も背負え。

いつまでガキのままのつもりだ。




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