幸福を支える仕組み(橋爪大三郎)
橋爪大三郎(社会学者)
幸福は、霞か蜃気楼のように逃げていく。手にしたと思うとすり抜ける。追いかけてもつかまらない。
幸福が確かなかたちをとるのは、過ぎ去った場合だ。あのころは幸せだったなあ。過去は揺るがない。病気や怪我をして、それまでがどんなに恵まれていたとやっとわかる。大切なひとを亡くして、どんなにかけがえがなかったかを思い知る。
誰でも子どものころは、幸福だった。誰かがあなたのために、生活の条件を整えてくれていた。コストや犠牲も払ったろうが、あなたには気づかせなかった。安心して食べて、遊び回った。そんな時代が過ぎても、幸福の原点のように記憶にしみついている。
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