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ニューヨークで学んできたこと(2010年5月 NPT再検討会議に参加して)

ニューヨークで学んできたことはたくさんあります。

一番確実な移動方法は徒歩であること。
信号を守っていたら置いていかれるけど、自分の眼で安全を確認してからでないとクラクションの嵐に遭遇すること。
走っている車の8割はタクシーだけれど、客を乗せていないタクシーを捉まえるのは運まかせであること。
地下鉄は東京の方がよっぽど複雑で、思っていたほど怖くないこと。
だから、東京の地下鉄で迷っている外国の方がいたら親切にすべきだということ。
ポストを探すよりスターバックスを探す方が簡単なこと。
ビールを買う時は身分証明書を携行すること。
ピザを買うなら考えている以上にお腹にたまるので、1ピースで十分だということ。
タイムズスクエアに車を停めて立ち去る不審者には気をつけること。
常に監視カメラで見られているので、悪いことをしてはいけないこと(監視カメラのないところでも悪いことをしてはいけません)。
核兵器を使用したことは過ちだったと考える米国人もいること。
二度と使ってはいけないと思っている米国人はたくさんいること。
そして、正しいと思う道を進むこと。
正しいと思うことを、声に出して訴え続けること。

オバマ米大統領の「核なき世界へ」発言、米露の新戦略兵器削減条約、米国務長官が明らかにした「5113」という、途方もない数字の、それでも43年間で84%も削減された米核弾頭保有数。
そして、国連で開幕したNPT再検討会議。

日本から持ち込んだ700万筆の署名を、わざわざ受け取りに外へ出てきてくれた再検討会議議長は、会議の開会あいさつで「昨日署名を直接受け取った。市民社会の熱意を私たちは受け止めなければならない」と述べ、国連事務総長も「核兵器廃絶の明確な約束」の再確認を、核保有国に対して求めました。
ニューヨークで行なった署名活動や集会、現地労組との交流などからも、核兵器の廃絶は、夢の話しではなくなってきているんだという実感を持つことができました。

確かに流れは作られつつあります。
と同時に、それを好ましくないと考えている人も確実に存在しているはずです。
そうした脅威を抑えることができるのは、僕ら市民の声だということも、ニューヨークで学びました。
国連事務総長しかり、NPT再検討会議議長しかり、広島・長崎県知事しかり、誰れもが、ここまで辿りついたのは「核兵器を廃絶しよう」と訴えるみんなの声のおかげだと。
そしてこの先、本当に核兵器が廃絶されるまで、訴え続ける声が不可欠だと、彼らは僕たちに呼びかけました。

「No More Hiroshima, No More Nagasaki, No More Hibakusya」
被爆者を英語に訳すと「Hibakusya」だということも学んだことのひとつです。
二度と悲劇をくりかえさないという想いと、5年前の教訓(前回の再検討会議への期待と失望)が、今回の再検討会議までの運動をより強固なものにしたのだと考えます。
5年前との違いは、敷かれているレールに乗ったのではなく、自分たちの手でレールを敷いてきたことでしょう(もっとも僕は今回初めて列車に乗った口ですが)。5年前は、やってきた列車に乗ってみたら、途中でレールが途切れていた。
だから今回は、目的地まで自分たちの手でレールを敷き続けなければ・・・ということです。

雇用・賃金闘争を中心に活動していたアメリカの労組は、「イラク戦争で死ぬのは組合員、核兵器を廃絶して予算を暮らしに回せ」と訴えて、組合員の賛同を得て平和運動を課題に加えたそうです。
振り返ってみて、日本はどうでしょう?
自分が参加することになって、初めてこの再検討会議のことを知った僕を含め、どれだけの日本人が興味と関心を持って、平和を考えてきたのでしょう?
GWの真っ只中に開幕したNPT再検討会議が、日本でどれだけ報道されたのかわかりません。
ニューヨークでは(僕が見た限り)連日爆弾テロ未遂事件とタンカーのオイル流出のニュースばかりでした。
仕事ができることも、好きなサッカーができることも、W杯が開催されることも、平和があってこそです。

核兵器廃絶の機会が訪れています。
でも、ここからが本当の闘いです。
オバマ大統領は「自分が生きているうちには難しいだろう」と云ったそうです。
長崎市長は「昔は核兵器というものがあってね、でもみんなの力でなくしたんだよ」と、孫に語りたいと云いました。
僕も遅まきながら「あの2010年のNPT再検討会議の時にニューヨークへ行って、パレードにも参加したんだぜ」と、誰かに自慢できるようにしたい。
被爆者がイギリスを訪れ、被爆体験を話したあと、学生達が質問してきたことは「自分たちには(核廃絶のために)いったい何ができますか?」ということだったそうです。
僕の(的外れな?)報告を読んで、何かを感じてもらえたなら、あなたも今日から何か始めてみませんか?
原爆投下から65回目の夏、広島ではかつてない規模の原水爆禁止世界大会が計画されています。
一緒に広島へ行くのもいいかもしれませんね。
なにしろ新幹線で、4時間で行けるんですから。

追 伸

NPT再検討会議が閉会し、全会一致で共同文書が採択されました。
そこには、核廃絶への道筋こそ示されたものの、いつまでにという期限を明記することはできませんでした。
半歩前進。

日本サッカー協会は、2022年にサッカーW杯を再び日本で開催しようと招致運動を進めています。
広島市の秋葉市長は、2020年までの核兵器廃絶と、同年の広島市でのオリンピック開催をと訴えていました。
僕は、サッカー日本代表チームを強くするためには(岡田監督ではダメだという以前に)サッカーの普及こそ重要と考え、地域で子どもたちを対象としたサッカーチームを運営しています。
サッカーの母国イングランドでは、こうした活動をグラスルーツ(日本語訳すると「草の根」です)と呼んでいます。
平和を求める活動も、同じ表現を使いますね。
僕のチームの子どもたちが、いつか日本代表としてW杯のピッチに立つ日を夢見て、サッカーと平和の草の根活動に取り組んでいこう。
(個人的には)一歩前進。


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