勝手に独立、憲法も貨幣も作りました国家についての壮大なルポ
総ページ数、576ページ。辞書に近い硬派な存在感と、表には大量の札束を抱える無表情なソマリランド人。このアンバランスさだけでも十分に読む気を誘うが、さすがに長かった。
『西南シルクロード…』に続く高野秀行著、『謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』を読んで。
解説では、ある大学教授兼ノンフィクションライターが「一気に読めてしまう」と書いていたが、よほど記憶力の良い人なのだと思う。
ただでさえ複雑なソマリの氏族名は、1日あくとすっかり忘れてしまう。たとえ忘れなかったとしても、前後関係やどういう立ち位置にある氏族だったのかは、完全に頭から消え去っている。そのため、巻頭の地図や前章を読み返すことになり、なかなか進まない。
ただ、それでも飽きずに最後まで読みきったのは、筆者が「天空の城ラピュタ」と称すこのソマリランドが、奇々怪々でありながら、現実的かつ理性的に国づくりを行っていたからだ。
ソマリランドは、内戦が続き、無政府状態のソマリア連邦共和国から勝手に独立を宣言し、独自の憲法と貨幣を作る一方で、政治的には、複数政党による民主化へ移行し、普通選挙で大統領選を行うという、極めて異次元の国家運営を続けている。
国連はその存在を認めていないが、例えば、長老院(氏族の長老)と議会(政治家)の関係は非常に理にかなっており、日本の衆参院のシステムより優れていると感じられる。
また、複数政党制を採用しているが、国民が混乱しないよう政党は3つに限られている。何だか分からない政党が乱立して、文字通り国民に混乱を招く日本とは大違いである。
筆者は2009年と11年の2回にわたって、ソマリランドをはじめとするソマリア連邦共和国に渡り、現地の人々への聞き取りからその国の姿を明らかにしている。自分で見聞きしたことを信じる姿勢には共感を覚えるし、筆者ならではの粘り強く、しなやかな感性が満ちた力作だ。
筆者は、人物観察に秀でている。人それぞれの個性を引き出し、言葉にのせるのが上手い。それを隣のお友達感覚で話してしまうから、ソマリランドに行ったことのない読者も、あたかも彼らに会ったかのような親近感を抱くようになる。
筆者は続編として、『恋するソマリア』を上梓しているが、そのタイトルからして熱量はかなり高そうだ。私自身はしばらくソマリアを休憩して、また恋しくなったら読んでみることにする。