未来2018年3月号を読む

「愛憎劇」ってけっきょくなんの触れ込みにもなっていなくて買わなかったよ(西村曜)

映画か小説かわかりませんが、「愛憎劇」と書いてあった作品を買わなかった話です。どんな話だって愛憎劇なのではないか。そして人生もまた愛と憎に尽きる気もして、それでいて一言では語れないよねということです。主体の気持ちは必ずしも明らかにされていないのですが、惹かれる歌です。


全員が前を見ている箱の中おりこうさんとは静かな子のこと(秋山生糸)

箱の中は教室かなにかなのでしょうか。あるいは、皆が均質に存在している様子をたとえたものでしょうか。たしかに静かな子のことを「おりこうさん」と言ってしまうことがあるな、と気付かされます。しかしそれって大人の都合なんですよね。そして私たち自身も、誰かに同じように思われているかもしれない、という発見があります。淡々とした表現が告発の効果をあげています。


月はいつも奇跡のような新しさ、新しすぎる自転車のよう(服部真里子)

「月はいつも同じ」という感想は多くみられるのですが、作者は「新しさ」と言っています。しかも「新しすぎる自転車のよう」なのだから、月も新しすぎるんですね。自転車のイメージをどのように取るか難しいのですが「新しくて自分にはふさわしくない感じ」を読み取るのがいいように思います。新しくなれない自分のことを地上から想っているのでしょうか。


嫌いなのか好きじゃないのか好きなのか嫌いじゃないのか分かってますか(御糸さち)

この連作とても好きで、全部載せたいくらいなのですがこの歌にします。人間の感情ってすごく微妙で、自分でもわからなくなっちゃうこと度々あります。わかるのが本当にいいのかどうかわからないけど、でも「こういう気持ち」とはっきりさせたい気持ちは絶対ある。でも実際の感情はうにゃうにゃと、渾沌としている。その感覚を巧みに描いていると思います。


爆弾であり愛であり全自動うんこ製造マシンである子(価格未定)

子どもを詠んでいますが、「かわいいかわいい」という歌になっていなくて冷静な視点があってとてもいいと思います。子どもを自分の外にいる他者としてはっきり描いている。そのことが愛だなあ、と思うのでした。「マシン」という、身も蓋もない捉え方がいいですよね。


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