未来2018年4月号を読む(2)

ブラジャーにふくらみふたつ かなしみは二倍になるよ、ふたりでいると(西村曜)

「ふたりでいると喜びは二倍になり、悲しみは半分になる」なんて言葉がありますが、この歌ではかなしみは(も?)二倍になっています。悲しみが半分になったらうれしいけど、二倍になるのもすごく大切で意味があることのように思えます。ふたりでいるからこそ感じられるかなしみというものがあり、それに着目したことがふたりの関係性をかけがえのないものにしている、と言っていいでしょう。この歌、たとえば「だからこれからはふたりでいよう」ということなのか、あるいは既に一緒にいて、感じたことが呟きとして漏れたものか、それによっても色彩が変わってくると思いますがどうでしょうか。女性の目から詠まれた歌か男性からかはわかりませんが、ブラジャーのふくらみがきいています。


冬の雨があたためている道路と家その景に自分を代入してゆく(遠野真)

冬の雨、冷たいものをイメージしますが作者はあたたかいものと捉えているようです。冷たい道路や家に霧が立っている景色をイメージしましたが、どうだろう。

「代入」という言葉はなぜ選ばれたのでしょうか。もともとその景色に自分の場所があって、そこに然るべき手順として自分を代入したのだと読むべきか、あるいはもっと「無理な感じを承知しつつ入れ込んでいく」みたいな感覚を読み取るべきなのか。代入……「その景と自分を入れ替える」と読むこともできますね。雨に自分があたためられるということが主眼になっているのだと思います。主体の気持ちを描写しなかったのが歌を幻想的で美しいものにしていると思いました。たゆたうようなリズムも見事です。


あるくといふ具体へ繋ぐためにある足に履く靴あすは磨かう(かみのきみえ)

「前に進む」とか「一歩先へ」みたいに「あるく」をもとにした比喩は色々ありますけれど、作者は「あるくといふ具体」と言っていますので、このあるくは具体的な徒歩の方です。そういう比喩的な励ましを拒もうとしているのだと思いました。そうして実際に行うことができる徒歩の方に意識を向けようとしている。それは自分の観念的な、頭でやる営為に対する懐疑と、実際の徒歩への信頼とによるものだと読みました。靴は履くか?靴は履きます。一種の武装としての靴、と読んだらいいでしょうか。この靴を履いてわたしは歩いていくよ、という静かな決意を読み取ることができるでしょう。


転生は思ったよりもたいへん、と猫背のきみに教えてもらう(榊原紘)

転生したことあるでしょうか。あるのかもしれませんが覚えてません。でもこの「きみ」は覚えているのでしょうね。もしかして前世は猫だったのか。「思ったよりも」と言っていて、なんだか生や転生に対して詳しそうな猫(推定)ですが、でも転生はたいへんです。転生を本当にしてきたのか、それともそう思っているだけなのか、はたまた「きみ」の冗談だったのかわかりませんが、すくなくとも主体はかなり真剣に「きみ」の言葉を受け取って、「たいへんだよな」と思っているのだと読めます。そこに秘密を打ち明ける関係の親密さを読み取ることができるでしょうし、なるほど転生、たいへんだよなと読者も思うのです。猫背が非常にリアルで、きいています。


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