SCENE6:「おばけ」【メイキングオブ『ワンダーら』】
●シーン概略
新入社員に、墓場で肝試しをさせる先輩社員。
◎私が嫌悪するもの
「思考停止は社会人のたしなみだぜ?」このシーンはこのセリフから始まった。
「ワンダー構想」がはっきりと形を成すより前、作品のテーマを探る中で”私は今なにをもっとも嫌悪しているのか”を確かめていた。そのときに思い浮かんだセンテンスがこれだった。つまりは、本当は存在する〈それ以外のもの〉──それは他者と足並みを揃えることでこぼれ落ちる自分自身の気持ちかもしれない──を黙殺すること。
長い間呑み屋で働いていたせいもある。世の中の人々がいかに自分自身を麻痺させて、自己の境界線を融解させて日々をやり過ごしているか……それを目の当たりにし続けて、挙句そういった姿勢を私にも強要されているかのような気持ちにもなり、ほとほと嫌になっていたのだった。(狭い店だったのでお客さんと密にコミュニケートせざるを得ない環境だったので…)
◎本作の核心、それ以外の
以上のことから、逆説的に本作の核心に当たるシーンかもしれない。
だがこの作品においては、そういった態度に皮肉をぶつけたり、作品内で立場を逆転させて吊し上げたり(パーティを追い出され系マンガとかに見るパターン)はしたくなかった。それはそれで「感動ポルノ」と構造的には同じになるからだ。仮想敵をこらしめてスカっとしたくない。あくまでも”なにかのための”作品にはしないことが私にとってのルールだった。
……都合上、おばけが出てきて先輩は逃げ帰ってしまうが、なにも酷い目に遭った(遭わせた)わけではない。先輩は先輩であんな風に言っておきながらも、繊細に感じる心を捨て切れていなかったのだ。とエクスキューズしておこう。
◎実体のないもの
本シーンも例に漏れず台本から書いているが、いざネームに起こしてみたとき台本にないおばけがそこかしこに現れた。台本上ではオチとなる「裸の霊」しかいなかったのに、気づけばどんどん増えていく。
新入社員が「皆」という単語に引っかかり、「実体のないものと混ざりあえてこそ」と先輩がたしなめるというやり取りも、まさかダブルミーニングになるとは思わなかった。マンガにおけるマジックが本作を描いていていくつか起こったが、そのひとつである。
◎うすた京介
ここでの参照作家はうすた京介氏。氏ほどギャグに振り切れてはいないが、テンポ感としてここはもうギャグだな、ギャグなら『ジャガーさん』だな、と思考が展開する。そう思えば、ハマーが後輩忍者に先輩風吹かせてイキり散らすみたいな話あったなあ。それかも。
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