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『狭い道じゃないのにすれ違う時わざわざ自転車から降りるおばちゃん』の回

前方に自転車を漕ぎながらこちらに近づいてくるおばちゃんの姿が見える。徐々に縮まるわたしたちの距離。わたしとおばちゃんの距離がおよそ3メートルほどまで近づいてきたそのとき、急におばちゃんのハンドルが、マリオのしばらく乗っていると落ちてしまう足場みたいにグラグラと揺れ始めた。そして、わたしとすれ違おうとする直前に、おばちゃんは自転車を降り「んによっ、もう!」というイラつきの声をわたしに向けて放った。いや、そんな狭ないやん!

なぜ、おばちゃんはすれ違うときにわざわざ自転車を降りるのか。ときおり、別にぶつかりそうにないほど広い道でも降りるおばちゃんがいる。そもそも、ぶつかりそうだからといって、すれ違うときにスピードを落とすのがまず間違っている。自転車はある程度スピードが出ている方が安定感があることは、経験則として分かっているはずだ。だからおばちゃん、そこは恐れず進めよ。進んでくれよ。ぶつからんから。っていうかこの程度で降りるって、あなた今日何回自転車を止めては降りるつもりよ。で、さらに降りたらその分横幅が広がるから、そっちの方がぶつかりそうになって危ないのよ。だからおばちゃんは、ただ前だけを見て真っ直ぐ進んでくれればいいのよ。光の射す方をただただ目指してくれればいいわけよ。おばちゃんズ be ambitious。

そして、こんなことがあるたびに気になるのは、このわざわざ降りるおばちゃん同士がすれ違うときには、一体どうなるのだろうといったことだ。惜しくもわたしはまだ、この奇跡の瞬間に立ち会えたことはない。やはり2人とも自転車から降りてしまうのだろうか。そうだとするとその瞬間、突然膨らんだエアバックのように道路はパンパンに塞がれてしまうことだろうよ。そしておばちゃん2人による「「んによっ、もう!」」のユニゾンがこだまするのだろう・・・。見てみてぇ。

他にも、絶対に道を譲らないおっちゃんとかおばちゃんがいるじゃないですか。なんとなく左側通行みたいな流れができている道を、川を逆流して帰ってきたシャケのように1人だけ右側通行で突き進むおっちゃん、おばちゃんが。その瞳には「わしゃあ、絶対に引かんぞ! この道は譲らん!」という強い意志が宿っているのが窺える。そんな人に出会うと、わたしなんかはその覇気に気圧されて道を譲ってしまう。っていうか大半の人がそう。たまにギリギリまで譲らないで行ってやろうと思うときもあるが、結局はチキンレースのようにビビって最後に避けてしまう。しかし、譲らない強者同士が会合した場合はどうなるのだろうか。つばぜり合いみたいに自転車と自転車が押し合うのだろうか。互いに一歩も譲らずに徐々に縮まってくる2人の距離。2人がぶつかった瞬間、その衝撃で雲が割れ、海は荒れ始めた。どこか遠い国の教会では、それを察知したシスターが両手を組み、天を仰ぎながら「ああ、神よ・・・」と祈りを捧げている・・・。見てみてぇ、見てみてぇよマジで。いつかそんな瞬間を目にしてみたいと思いながらも、知らない間に自分もそんなおっちゃんになってしまわないように気をつけたい。


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