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『朝によく聞く鳥の鳴き声の正体はキジバト』の回

小学生のころ、休みの日に目が覚めるとどこからともなく歌声のようなものがよく聞こえてきていた。フッフ、フッフフー、フッフ、フッフフー。これは一体どこから聞こえてくるのかと気にはなったが、まあ何かしらの鳥の鳴き声だろうなと、わざわざ調べることもなくそのまま時は過ぎていった。そして大学生になったころ、電車の中でめちゃくちゃ暇なときに、そういえばあの歌声はなんていう鳥によるものなんだ?と気になっていたことを急に思い出し、十数年蓋を取らないままにしていた疑問をついに明らかにするべくスマホで「鳥 朝 鳴き声」と調べた。ちなみにわたしは検索する際のスペースを、わざわざ半角にして打ってしまいます。どっちでもいいのになぜか気になってそうしてしまいます。どうでもいいですよね。

そうして調べた結果、それはキジバトの鳴き声であることが分かった。YouTubeの動画を確認してみると、まさにこの鳴き声といった感じ。

『なるほど、キジバトね』と、一度キジバトという存在を認識すると、休日の朝、目が覚めて「フッフ、フッフフー、フッフ、フッフフー」と聞こえてきては『はいはい、またキジバトが鳴いてるわ』などと思うようになった。さらにこの感じは勢いを増して、河川敷などでハトを見かけては『キジバトちゃう?』なんてことを思うようにもなった。ただ、『キジバトちゃう?』もなにも、わたしはキジバト以外のハトを一切知らないから、自分のハトデッキにはもちろんキジバトしか入っておらず、そうすると手札も全部キジバトということになり、出せるものがそれしかないのである。さらには唯一把握してあるキジバトに関しても、その名前と鳴き声しか分かっておらず、見た目の特徴などに関しては曖昧なままであった。それでも、英語の授業の始まりに教師から繰り出される「How are you?」という質問に対して、「I'm fine!」と快活に答えるのは恥ずかしい思春期中学生男子が、覚えたての「So-so…」をクールぶって連発するがごとく、エンカウントしたハト全てに対してとりあえず『キジバトちゃう?』を心の中で連発していた。

こんなふうに適当に把握しているものは他にもあって、川で見かけるタンポポ以外の黄色い花は全て菜の花だと思い込んできたけれど、実際に菜の花がどんな花なのかは正確には知らない。川で見かける白い鳥は全て白鳥だと思い込んできたけれど、白鳥とサギの違いが分からないから、白鳥と思っていたものはサギであった可能性がある。秋の夜の川で聞こえてくる涼しげな虫の鳴き声は鈴虫のものだと思い込んできたけれど、鈴虫が鳴いているところをこの目でちゃんと見たことはないから、実際にどうかは分からない。もうこの世は分かったつもりになっているものばかり。こういった花や動物、虫についての知識を身につけることで生活に彩りなるものがもたらされるのだろうが、このまま分かったつもりで生きていくような気がする。ちなみに、上に書いた文章からも把握できるように、わたしはよく川に出没します。河川敷を歩いている人間を見たら、とりあえずわたしなんじゃないかと思っていただいても結構です。


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